第三話 東条と祓い屋 突然の訪問者
澤田は一度警察署に戻ると、湯型、捜査依頼書を持って柊家を訪れた。
車を降り、門を入ったところで玄関先から女性の声が聞こえてくる。
「いいから私と勝負しなさいよ」
「……とりあえず、帰ってくれないか」
「だから! 勝負するっていうまで帰らないって言ってるでしょ。まだ東条さんの息子にも会ってないし」
見れば柊が玄関先で若い女性と言い合いをしている。
「どうしたんだ」
澤田が来たことに気づいた柊が、ますます困ったように額に手を当てる。
「澤田……お前、なんでこの最悪なタイミングで来るんだ」
「は? なにが」
「あなた誰?」
女性が澤田のほうを見上げてたずねてくる。
「俺は黄昏市警察署の澤田だ。柊に用があってきたんだが、君は?」
「警察? ということはもしかしてあなたが東条さんの息子!? あ、でも名字が違うか。東城さんの息子なら同じ名字のはずだし」
女性は澤田の質問に答えることなく、一人でぶつぶつと話している。
「東条祐一なら俺の親父だが、なにか……」
「えっ、やっぱり!? えー、そっかあ。あなたかぁ……」
今度は何やらがっかりしている。
訳がわからなくて、澤田は柊にたずねた。
「なあ。彼女は誰なんだ?」
「隣の市の大学に通っている子で、結城和奏というらしい」
「らしいって、知り合いじゃないのかよ」
「いや。さっきいきなり訪ねてきて」
「決めた!」
突然、和奏が叫んだかと思うと、澤田を指差した。
「あなた! どっちが柊さんと組むか勝負よ!」
「は、はあ?」
それを聞いた柊が呆れた顔をする。
「さっきは俺に、どっちが東条さんの息子と組むか勝負だと言っていなかったか」
「そうなのか? それがなんで俺と勝負になるんだ」
澤田の疑問に、和奏はあっさりと答えた。
「だって柊さんのほうがかっこいいんだもん」
「あのなあ」
「あ、でも一番かっこいいのは東条さんだけど」
澤田はつい、親父はそんなにかっこいいと言われるほどの顔をしていただろうかと考えてしまう。
どうやら彼女の中で、東条祐一はずいぶんと美化されているらしい。
ひとまずわかったのは、和奏に付き合っているといつまでたっても話が進まないということだ。
「柊、とりあえずこれ」
澤田は捜査依頼書の封筒を柊に渡した。
「読んでおいてくれ。またあとで連絡するから」
「ああ。わかった」
どうせ今からでは病院にいる登紀子とは面会できないだろうし、とりあえずこの場は退散しようと思ったのだが。
「私を無視しようとしたって無駄なんだからね。あなたが柊家に来たってことは妖関係の事件なんでしょ。どっちが早く解決できるか勝負しましょうよ」
「あのなあ、遊びじゃないんだぞ。それに一般の人を巻き込むわけには」
「それなら大丈夫よ。私、祓い屋だから」
にっこりと和奏が笑う。
祓い屋。
それは問題を解決するためなら問答無用で妖を祓う家業のこと。十年以上前にある祓い屋が東条祐一を殺してしまった事故が原因で、この町から追放された存在だった。




