第二話 見える人、見えない人 美珠と狩風
黄昏駅前のアーケード商店街は、近くに大型のショッピングモールがないせいか、今もほとんどの店がシャッターを下ろすことなく営業している。惣菜店があったり八百屋があったり、喫茶店や服屋があったりと、今も家族連れから学生まで多くの人が行き交っているのだが。
捜索のために先ほどの眼鏡をかけた澤田の目には、人々の足元を小さな妖がうろついているのまで見えてしまっている。
気にしすぎては歩けなくなってしまいそうだと、澤田はできるかぎり気にしていないふりをして歩いた。
「お前って、美珠や狩風の気配とかわかったりするのか」
「狩風はわかるかもしれないが、美珠のような微弱な妖は難しいな」
「そうか。じゃあどっか店に入るより、歩きながら食べられるもののほうが」
「おーい、澤田さん」
いきなり呼ばれて振り返ると、たこ焼き店の中から手を振っている男性の姿が見えた。
「おう、店長。暑い中ご苦労さんだな」
「なあに。一番暑い時期を過ぎただけまだましさ。お前さんは仕事か?」
「ああ、まあ……」
店の中でたこ焼きを焼いている店長のほうに歩いて行った澤田は、気づいてしまった。
店長の方の上に、細い針金のような妖が乗っていることに。
「ん? どうした」
「あ、ああいや……その、店長。体調とか悪くないよな」
「いや? この通り元気だ。ま、汗だくだけどな」
ははは、と店長が豪快に笑う。
「お前さんこそどうした。なんかいつもの元気がないんじゃねぇか? 仕事しすぎじゃないのか」
「いや、そんなことは。店長、たこ焼き一つくれ」
「おう、毎度あり」
焼きあがったたこ焼きを箱に詰めている店長の肩の上で、黒い毛玉の妖がぴょんぴょんと跳ねている。
害はないのだろうが、気になる。
「はいよ、お待ち。一個おまけしといてやったから、仕事頑張んな」
「ああ。ありがとう店長」
澤田はお金を払って、店長に背を向けると柊のところへ戻った。
「はあ、お待たせ」
店長と少し話をしてたこ焼きを買っただけなのに、なんだか疲れてしまった。
「それ、外したほうがいいんじゃないのか」
「え? だって外したら俺、探せないだろ」
「俺は見えるから」
「なんだよ。全部お前に任せろってのか。それじゃ何のためにこの眼鏡を借りたのかわかんねぇだろ」
言いながら、澤田がたこ焼きを口に運ぶ。
「全部というわけじゃない。見つけたら教えるから、そのときに眼鏡をかければいい」
「なんだその効率の悪い作戦。腹が減ってるから変なこと思いつくんじゃないのか。ほら、お前もたこ焼き食えって」
柊は心外そうに顔をしかめながらも、たこ焼きを一つ口にする。
「別に効率を考えて言っているわけじゃない。お前が妖をあまりにも気にしているから」
「きゃあっ!」
突然、商店街に甲高い悲鳴が響いた。
「なんだ!?」
澤田と柊は声のした方へ走り出した。
すると若い女性が座り込んでいて、そのそばで友人らしき女性が心配そうにしゃがんでいる。
「おい、どうした!」
「あ、足が」
見ると座り込んでいる女性のふくらはぎに、刃物で切られたような大きな傷ができている。
市民病院で見たものと同じだ。
「俺は黄昏市警の澤田だ。この怪我はどうした、誰かに切られたのか」
「いえ、あの、風が吹いて転んだと思ったらすごく足が痛くなって、見たら大きな傷が」
ふと、ころころと真っ白な毛玉が地面を転がっているのが見えた。何かの動物の毛だろうかと思っていると、柊のほうへひょいと飛び跳ねて、すうっと彼の体の中へ消えていった。
「なっ……柊、もしかしてこれが」
しかし確認するより先に、突然矢のような風が通り抜けた。思わず閉じかけた澤田の目に、ちかっと銀色の光が映る。
「っ……」
とっさに顔をかばった柊の腕から、ぽた、と血が落ちた。
女性のふくらはぎと同じような傷が、彼の腕にもできていた。
「柊っ」
「大丈夫だ。それより見たか」
「あ、ああ。なんか風と一緒に、銀色のものが通り過ぎていったな」
「あれが狩風だ。しかしやつは気がよわいからな。狩りに失敗するとそのまま隠れてしまう」
「そうか」
捕まえ損ねてしまったが、たくさんの人が行き交う商店街で被害が拡大しなかったことに、澤田はひとまず安堵した。
感想などいただけると大変嬉しいです!
なにとぞよろしくお願いいたします!




