第二話 見える人、見えない人 町守の立場
さすがは黄昏市で一番大きな病院だ。
午前の診察終了時間を一時間も過ぎているのに、まだあちらこちらに診察を待っているらしき人たちがいる。
病院内の広い廊下を歩きながら、澤田が柊にたずねた。
「妖の仕業か。見えないものをどうやって捜査すればいいんだ」
今までの妖関連係はどうしていたのだろう。
そういえば一度も話を聞いたことがない。
「俺に任せて、澤田刑事は警察署に戻るか」
「は? なんでだよ」
柊のありえない提案に、澤田が顔をしかめた。
「そんな押しつけるようなことするわけないだろ。まあ、お前に頼りきりになりそうなのは申し訳ないが」
鈴邑神社での通り魔事件も、甲冑の妖を相手にしたのは柊だった。
澤田では妖相手にどう動けばいいのか全くわからないから、柊に頼るしかない。
「俺にできることがあったら何でも言えよ。あと、澤田刑事って呼びづらいだろ。澤田でいいよ。お前とは長い付き合いになりそうだし」
「長い付き合い?」
「お前が俺を指名したおかげで、妖関連係にさせられたからな」
「そうか」
皮肉っぽく言ったはずが、柊はどこかほっとしているように見えた。
「で、とりあえずどうすればいいんだ?」
「丸投げか」
「だから言ったろ。頼りきりになるって」
「澤田さん?」
呼ばれて振り返ると、一人の男性医師がこちらへ歩み寄ってくきた。以前、捜査中に足を怪我してお世話になったことのある、永井と同じ形成外科医の先生だ。
「ああ、佐々木先生。お疲れ様です」
「どうしたんです? また怪我でもしたんですか」
「違いますよ。仕事です」
「仕事? ああ、あの妙な傷を負った患者さんたちの件ですよね。じゃあそちらの方も刑事さん?」
「いや。こっちは捜査でお世話になってる柊誠さんです」
柊が小さく頭を下げた。
「柊って、もしかしてあの?」
佐々木が言ったその一言には、好意的ではない含みがあった。
「それってあの傷が、妖が絡んでるかもしれない、みたいな」
「先に行っているぞ」
そう言うと、柊は澤田を置いて歩き出した。
「は? おいちょっと。じゃあ佐々木先生、また」
「あ、澤田さん」
佐々木が引きとめるように呼んだので、澤田が振り返る。
「大丈夫ですか、あの柊さんって人。妖とかいうものを商売にしてる胡散臭い人だって噂が」
「商売って、市の職員ですよね」
澤田も知らなかったのだが、町守というのは昔から黄昏市で雇われている役職なのだと、あやかし関連係を押し付けられたあとで柳瀬に聞いた。
「そうらしいですけど、なんか怪しくないですか。妖とかいうよくわからないもののせいにして、事件を無理やり解決させてるっていうか」
「よくわからないというのは同感ですが、大丈夫ですよ。俺、別の事件でも一緒に捜査しましたけど、ちゃんとした人ですから。他の人にもそう言っておいてください」
佐々木に軽く頭を下げると、澤田は柊を追いかけた。




