まるで将棋みたいだな
ちょっと恋愛っぽく仕上げてみました。
よかったら読んでくださいね。
「王手」
パチリ、と静かに駒が盤面を弾く音が響く。
うーん、と唸るも回避の仕方が浮かばない。
それもそうだ、だって既に詰みなのだから。
117手、そのうち最後の4手は攻めている、詰ませられると思っていたところからの逆襲にあい、10秒もかからず詰ませられた。
最後の彼女の金打ち、いや、自身が悪手を打ったのがその4手前の金による銀取りが詰みの状況を作ってしまった。
つまり自分のミスだった。
「参りました」
潔く、丁寧に、深々と礼をし負けを認めた。
ふうっと、息をはき、緊張を解かす。
初めて彼女に勝てる、そう思えたこの対局、中盤から終盤まで手が少し震えていた気がする。
もしかしたら、それも敗因だったのかもしれない。
だって彼女を見てみると、それはもう清々としていて、ただ黙々と指し続けたのだから。
おそらく彼女には最初から見えていたのだ、どこをどうすれば僕が駒を指し、彼女の術中に嵌められてしまうのかを。
悔しいな、そして羨ましい。
彼女にはきっと才能があるのだろう。
それは何もかもを見透かす天賦の才が。
何手先を僕の一挙一動で見抜く、そんな才能が。
なぜ彼女がこんなところで僕と二人で将棋をやっているのか分からないけれど、僕は気づいたことがある。
おそらく彼女は僕をおちょくって楽しんでいるのだ。
現に今も、あんな冷たい目をして僕を見つめてきて、少し頬を緩ませている。
ほら見ろ、やっぱり僕をおちょくっているのだ。
僕の無様な負け姿を見て楽しんでいる。
だんだんとその顔を見て腹が立ってきた。
もう帰ってやろう、そう思って立ち上がろうとした、まさにその時だった。
「鈴木くん、感想戦、やりましょう?」
僕を射抜くような言の葉の矢が飛んできて、僕は思わず座り直していた。
「ね、やりましょう?」
再びノータイムで来る催促の言葉。
「はい」
僕は再び負けを認めて小さく呟いた。
彼女は満足そうにも見えないで、駒を戻し始めた。
僕もそれにつられて戻し始める。
再びパチリ、パチリとこの二人だけの空間に駒の音が鳴り響く。
そんな二月の夕日の傾く頃、僕たちは再び礼をした。