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部屋に鳴り響く、目覚まし時計が鬱陶しい。
カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
ああ、今日も一日が始まる。
何も変わらない、つまらない日常が。
「もう少し・・・もう少しだけ」
そう言ってどのくらい経ったのだろう。
時計の針は、すでに8時をさしていた。
電車通学のわたしにはもう遅かった。間に合わない。
「やらかした・・・」
もういい、いっそのこと堂々と遅れてやる。
いつもは束ねている髪の毛も、面倒くさくてストレートに。
どうせ遅刻なのだからと、いつもは食べない朝食を食べた。
たまには、こういうのもいいかもしれない。
気づいてはいけない小さな楽幸せを知ってしまった16歳の春。
「さて、行くか~」
だるい体を引きずりながら玄関へ足を運ぶ。
駅に着いたはいいものの、電車が来ない。
「はあ・・・もう本当に今日ついてない。」
大きなため息を掻き消すように大好きな歌を大音量で聴く。
ふと、隣に目をやると
「えっ」
思わず声が出てしまった。
昨日の人だった。
少し息を切らしている様子から、彼もきっと同じ遅刻組。
知らないうちに片方のイヤフォンを外していたわたしに声をかけてきたのは
紛れもなく、あの人だった。
「ねえ、電車。遅れてんの?」
「え、あ、はい。そうみたいです。」
「まじか。」
「あ、あの、昨日はありがとうございました。」
「昨日??」
覚えているわけがないよなと思いつつ、どこかでショックを受けている自分がいた。
彼はわたしの顔をまじまじと見つめてこう言った。
「あ、髪の毛下してるからわかんなかった。ごめん。
いつも髪の毛結んでるから・・・」
・・・え??
いつも??確かにそういった。なんだ、これは。
「え??」
「あ、いや、君写真部でしょ?」
「はい、なんでそれを・・・」
「俺、一応サッカー部なんだけどたまに上見ると君が校庭見てたり
空の写真撮ってるから。見たことあってさ。」
「あ、そうなんですね。だからわたしも見たことがあるんだ・・・」
「今一年生??だよね??」
「はい」
「俺、早河慧斗。二年のサッカー幽霊部員。」
「あ、わたしは花瀬心美です。一年の写真部です」
「みみちゃんね、よろしく。」
「えっと・・・」
「あー、りゅうとでいいよ。」
「え、さすがに・・・」
「りゅうと先輩ってなんか呼ばれ慣れてないからさ。笑」
そういう彼がニコッと笑った瞬間、胸がずきっとした。
「みみちゃんさ、俺と好きな曲聴いてる。」
「え、あ、え??」
「音漏れしてるよ。どんだけ大音量で聴いてんの笑」
「大音量で聴くほうが好きなんです」
「俺もそれわかるな~今日みたいな日なんて特に。」
「りゅうと先・・・りゅうとも遅刻で?」
「俺は遅刻は日常茶飯事だよ笑」
「・・・結構笑うんですね」
「え、なんで」
「なんか、もっとクールな人かと思ってました」
「それよく言われる。みみちゃんもそういうオーラ出してるけどね?」
「そんなっ!!」
「冗談だよ、面白い子だね」
いきなりすぎる展開だけど、寝坊してしまったことも
電車が遅延していることも、全部、全部忘れてしまうくらい楽しくて
電車なんて、もう来なくていい。なんて思ってしまったのは内緒。