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第六話 いざタートへ

13


 目的であるウルフの群れを全滅させたため、俺たちはタートまで引き返した。


 「報酬は二等分でいいかな?」


 「え、半分もくれるのか? ウルフを倒した数ならお前の方が多いんだから、二等分はおかしいだろ」


 「ううん、ヤバネがいなかったらもっと時間かかってたし、ウルフに逃げられたかもしれないから。……それに、半分貰ってくれないとボクに悪い噂が立つかもしれないんだよね。報酬を均等に分けるのは冒険者の間では常識なんだよ?」


 「そうか、それなら半分貰うしかないな。ありがとう、バーバラ」


 本音を言うと、お金はのどから手が出るほど欲しい。バーバラに貰ったパンもすっかり消化され、俺はまた空腹になっていた。もらえるなら一円でも、いや一ユピトでも多く欲しい。

 それにしても、冒険者とは一体何だろうか。バーバラはその冒険者らしいのだが。気にはなるが、今はもっと大事なことがある。


 「それで、報酬はどこで貰えるんだ?」


 「門を入ってすぐ左にある、冒険者ギルドっていうところで貰えるよ」


 我ながら欲が透けて見える発言だったが、バーバラは嫌な顔一つせずに答えてくれた。そうか、そうか、町の中に入らないといけないのか。


 「なあ、バーバラ」


 「何?」


 「に、二万ユピト俺に貸してください……」


14


 俺はバーバラと一緒に門の前の行列に並んでいた。なんとバーバラは最初から俺に二万ユピトを貸すつもりだったらしい。今日も今日とて列が進むのはとても遅いが、バーバラが絶え間なく話しかけてきたおかげで退屈はしなかった。


 「次! そこの二人組だ!」


 門番の声を聞いて会話を中断する。会話というよりはバーバラの質問に俺が答えるというインタビューのようなものだったが。

 進むと、そこには最初に俺を門前払いした門番がいた。

 うわあ、すっげー気まずい。

 バーバラは彼女自身の腕輪を見せて、すぐに町の中へと入って行った。門のすぐそばで待っていてくれるらしい。お金は既にバーバラから借りている。


 「……お前は」


 「ええ、どうも矢羽です」


 「……二万ユピトを払えるのか?」


 「はい、ちゃんとぴったり二万ユピトありますよ」


 そう言って俺は門番に二万ユピトを手渡した。門番がお金を確認している。


 「よし、問題ないな。ならば腕輪を作る作業は別の場所で行う。担当の者について行け」


 門番はそう言うと、ベルのようなものを鳴らした。担当を呼ぶ合図なのだろう。ほどなくして、鎧姿ではない太った男性が出てきた。


 「お待たせいたしました。それでは別室で腕輪を作りますので、ご案内いたします」


 「あ、はい。よろしくお願いします」


 「おいお前、忘れ物だ」


 「は? いや俺は何も―――― おおっと」


 担当の男性について行こうとしたら門番に呼び止められ、何かが入った袋を投げられた。受け止めた感触から予想すると、この袋の中には硬い何かがいくつか入っているようだ。


 「あの、これは一体……?」


 「我々は忙しい。早く腕輪を作りに行け」


 忘れ物と言われても、まったく心当たりがない。尋ねてみてもそっけない返事しか返ってこなかった。これには一体何が入っているのだろうか。まあ、くれるんなら貰うけど。


 「それでは、私について来てください」


 ただ、担当の男性が、とても楽しそうにニコニコとほほ笑んでいるのが妙に気になった。


14


 腕輪を作る作業はすぐに終わった。既にできている腕輪に俺の名前を刻むだけでいいらしい。警備の厳重さに対してずいぶんとお手軽ですねと聞くと、


 「お金を払えるかどうかが大事なんです」


 とのことだ。まあ、俺にはあまり関係のないことだ。町に入ることを許された以上、ここにとどまる理由もない。バーバラを待たせるのも悪いから、担当の人の案内に従ってさっさと門をくぐった。


 「バーバラ。悪い、待たせたな」


 「ううん、大丈夫だよ。あれ、その袋は?」


 「いや、門番の人に押し付けられてな」


 そういえば、まだ中を見ていなかった。袋を開いて中身を覗き込むと、中には大きなパンが五個入っていた。

 ……あの門番いい人かよ!

 

 「それで、中身は何だったの?」


 「あ、ああ、パンが入ってたよ。それより早く冒険者ギルドに行こうぜ。俺は今一文無しなんだ」


 「あ、そっか。じゃあ早くしないとね! 冒険者ギルドはこっちだよ」


 俺はバーバラの後ろをついて行った。相変わらず背中が大胆に開けられているが、これは翼を生やすときに服が邪魔にならないようにするためなのだ。

 彼女、バーバラは「竜人」という特別な人間らしい。遺伝に関係なく突然変異的に生まれてくるそうで、竜の他にも猫や犬、鳥のような特徴を持っている人もいるとバーバラは言っていた。そのような人たちを、まとめて「獣人」と呼ぶそうだ。猫の獣人は猫の、犬の獣人は犬のような能力を持つらしく、バーバラは竜の獣人である「竜人」だから体が強靭で、炎の魔法が得意で、角と尻尾と翼があるのだ。ちなみに翼は戦う時にしか出てこないらしいが、『身体強化』を使っている間は空を飛べるらしい。



 「ほら、ここがギルドだよ」


 「おお、……大きいな」


 「うん、中に酒場があるし、訓練できるような中庭もあるんだよ!」


 目的地の冒険者ギルドは本当に門のすぐ近くだった。レンガと木で作られていて、全体が茶色でまとめられているおかげで重厚な雰囲気を醸し出している。そして、何より大きい。高さは突出しているわけではないが、広さは周囲の他の建物の二、三倍はありそうだ。


 「ささ、早く入ろう」


 「俺は冒険者じゃないけど、中に入ってもいいのか?」


 「……うん、大丈夫だよ。ていうか、そんなルールがあったら新しく冒険者になる人が困っちゃうよ」


 まったくその通りだ。俺はバーバラに続いて、ギルドの中に入った。



 「悪い、やっぱり俺は外で待ってるわ」


 「ええっ!? な、何で!?」


 バーバラはかなり驚いているようだが、俺は気にせず外に出て、ギルドの大きな扉を閉める。バーバラには悪いが、俺は絶対この中に入りたくない。

 

 冒険者ギルド、混み過ぎだろ!


 


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