第十四話 光り輝く祝福
一郎の守護妖精の名前をシーアからシーナに変更しました。本筋には関係ないですが、宗教的なあれがどうしても気になったので。
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「それで、お前は一体どこに行きたいんだ?」
「十五層です。道はわかっているので、俺が倒せないモンスターが出たらその時はお願いします」
「十五層? そりゃまたずいぶんと深い所まで行くんだな」
当たり前だろ。自分一人で行けるなら他人の力を借りるわけないじゃん。なんて失礼なことは年上と思われるこの男(名前は多分イチロー)に言うわけにはいかない。
「ねえ君名前は? お仕事は何をしてるの? あの宝石はどこで手に入れたの?」
しかしこの女がなかなかにうっとうしい。たくさんの宝石を見せたせいで興味を抱かれてしまったようだ。もし金づるだと思われているのなら厄介だ。俺もさっき言った以上の金を払う気はない。
女の質問を適当にあしらい続けていると、ようやく俺達が迷宮に入る番となった。思えばラダリア以外と迷宮に入るのは初めてだ。相手は俺が弱いうえに金を持っていることを知っている。後ろから刺されないように細心の注意を払っておこう。
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「お前、弓使うの上手いな……」
イチローがこう話しかけてきたのは、六層まで順調に進んでいた時のことだった。『大地の瞳』で最短の道のりはわかるし、モンスターにもいち早く気づくことができる。モンスターが発生することもなかったので、全て俺の弓で問題なく対処できた。
「まあ、練習しましたからね」
ちなみにこれは嘘だ。俺は日本では一度も狙いを外したことはないが、それは生まれつきだった。どう射れば当たるのかが弓を構えた瞬間にわかるのだ。
しかし八層の途中で、とうとう俺の矢が効かないモンスターが出てきた。
「ダンゴムシみたいなモンスターですね」
「まあ見た目は似てるけど、大きさがな……」
「ちょっと私無理。ああいうのホント無理。何あのでかさ! 何あの光沢! 悪寒と鳥肌が止まらないんですけど!!」
女(名前はシーナという)の反応は過剰だと思うが、確かにあのモンスターは不気味だ。
少し先で、道の中心にいる一匹の巨大なダンゴムシがこちらに尻を向けていた。俺の矢が当たるとこちらを向き、一直線に突撃してきた。その動きのあまりの速さに驚いたが、ダンゴムシは元々早く動いていた気がする。そういえば最後にダンゴムシと触れ合ったのはいつだっただろうか。
なんてくだらないことを考えている場合ではない。
「お願いします。あれを倒してください」
「オーケー。このまま出番がないんじゃないかってドキドキしてたんだ」
イチローは一歩前に出て槍を『収納』で取り出した。そしてその槍に自身の魔力を込め始めた。SSランクというだけあって、イチローの魔力量はかなり多い。神祖と同じかそれ以上の量であることは間違いないだろう。
「少し離れてないと危ないぞ」
促されるままに俺とシーナはイチローから距離をとる。
槍が魔力で満ちると、突然その魔力が三倍近くに膨れ上がった。
「さあ、消し飛ばしてやるぜ!」
イチローが槍を突き出した瞬間、すさまじい轟音と共に魔力がその先端から放出された。
強烈な光にその場が包まれる。『大地の瞳』のおかげで視界は良好だったので、俺はダンゴムシのモンスターが魔力ビームによって消し飛ばされたのを見ることができた。
「よし、一丁上がりだな!」
「……すごい威力ですね」
後ろにいた俺でさえ尻もちをつきそうになったし、シーナは尻もちをついていた。しかもイチローはまだまだ余裕そうなのだから、SSランクになるのも納得だ。
別に実力を疑っていたわけではないが、この男について来てもらって正解だった。
その後は主にイチローにモンスターの相手を任せ、俺の出番はたまにしか来なかった。
巨大なモンスターも数が多いモンスターもイチローの前では無力だった。槍から出るビームに耐えられるモンスターはおらず、結局あっという間に目的の十五層まで到着した。
「ここが十五層だな。あとどのくらいかかるんだ?」
「とりあえず左に行きましょう」
「私もう疲れた……。おぶってよイチロー」
「あと少しなので頑張ってください」
これは嘘ではない。実際にさほど時間はかからずに俺達は目的地手前までたどり着いた。
「おい、行き止まりだぞ?」
イチローにはそう見えているらしいが、『大地の瞳』の力を使っている俺にはその先の道がしっかり見えている。
ついでに言えば、過去この道を通った人間がどうやってこの壁を越えたのかも見える。
俺は壁の右下隅の、少し出っ張っている石を足で奥に押し込んだ。
カチリ、とボールペンをノックした時のような音がすると、壁はゆっくり右ににずれ始めた。
やがてその動きに伴う振動が収まり、今までと同じくらいの広さの道が姿を現した。
「……すごいな。こんな仕掛けがあるなんて気付かなかった」
「うん。いかにも迷宮って感じ」
「目的地はもうすぐそこです」
きょろきょろとあたりを見渡しながら二人がついて来る。モンスターにも出会わず、すぐに物々しい雰囲気を醸し出している巨大な扉の前にたどり着いた。
「到着です。用があるのはこの中なので、少し待っていてください。置いて行ったら宝石は返してもらうので」
「そんなことしねーよ!」
一応の確認を済ませ、俺はその扉に手をかける。大きさとは裏腹に開けるのに力はさほどいらなかった。
そして俺が通れるほどに扉が開くと、俺は突如として謎の力によって中に引っ張られた。
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「すごいな……」
扉の中は途方もない量の金銀財宝で埋め尽くされていた。比喩でなく部屋全体が光り輝いていて目に優しくない。これをすべて持ち帰ったら末代まで遊んで暮らせそうである。
しかし今は金に目を奪われている時間はない。俺は部屋の中心にある椅子に置かれている金色のトロフィーのような物を手に取った。
そのトロフィーは光り輝き、その光はやがて人のような形を成した。
「勇敢な者よ、よくぞここまでたどり着いた! 我はこの迷宮を治める神である。さあ、貴様が望むものを何でも与えてやろう」
真っ白な人影の声が響く。まさか神が出てくるとは想定外だったので驚いていると、
「何を呆けている? 我の存在を知っているからこそここまで来たのだろう? その勇気と力を讃えて、我が一つ祝福を……。いや待て、貴様はまさか……」
神はいきなり黙ってしまった。
「あの、どうしました?」
「……すまないなヤバネ。貴様には何も与えてはならないのだ」
「え?」
めまいがしたと思うと視界はだんだん暗くなり、意識も薄れてきた。目の前の神が何かしているのだろうか。
「我は貴様に直接何かを与えることはできない。だがこの部屋にたどり着いた別の者から我の祝福を譲り受けるというのであれば、それには我は関与しない」
「待……待って……」
「同情するぞ哀れな駒よ。せめて言葉だけでも祈らせてくれ。貴様の人生に幸があるように!」
何一つ理解できないまま俺は激しい頭痛に襲われ、とうとう意識を失った。
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「あ、出てきた」
「ねえどうだった? 何かあった? お宝とかお宝とかお宝とか!!」
いつの間にか俺は扉の外に立っていた。さっきの出来事を頭の中で反芻する。収穫は少なかったがゼロではない。やはりイチローについて来てもらって良かった。
「中には百人いても持ち切れないほどの財宝がありました」
「ホントに!? ねえイチロー行きましょう? 借金完済どころか大儲け間違いなしよ!」
「中に入るなら一つお願いがあります」
「お願い? 宝を少し分けろって?」
「違います。……中央にある椅子に、少し大きなトロフィーがあります。それに触ると神を名乗る何かが出てきますから、その時一つ質問をしてください」
「神に質問? なんて言えばいいんだ? というか何でお前はさっきそうしなかったんだ?」
しなかったのではなくできなかったのだが、それを説明する意味はないような気がする。なにせ俺にも理由がわかってないのだから。
「質問の内容はこうです。『以前にここに来た白い髪の女は、何をあなたに望んだのか』」




