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第十話 予兆②

今年最後の更新です。皆様どうかよいお年を!


21


 けたたましい笑い声を上げている最中の猿を四匹射殺した時点で、奴らは俺を獲物ではなく敵だと認識したらしい。笑みのようにも見えた表情は消え、その小柄な体躯からは想像もできないほどの速さで八匹、俺に接近してくる。

 ただ速いだけではない。路地の壁を器用に走って来ているので、このままでは左右と正面から同時に攻撃されてしまう。正面から来るのは四匹、壁を伝っているのは左右それぞれ二匹ずつだ。

 弓で対処できるのはどれか一方向、頑張れば二方向だがそうするとリスクが大きい。俺は後退しながら地面を走って来た猿たちに矢を浴びせ、その数を二匹に減らした。


 そして当然俺は路地から飛び出す。壁を伝っていた猿たちは足場がなくなるから、俺に飛びかかってくるしかない。狙い通りだ。あらかじめ空中に出現させておいた『大空の盾』を、地面に向かって急降下させる。ヤンキー達相手の時のような手加減はしない。正真正銘の全速力だ。


 俺のことしか見ていない猿たちが空中からの不意打ちに対応できるはずがない。肉がつぶれる音と血が飛び散る音を最後に、六匹の猿は地面にこびりついた染みに成り下がった。

 どれだけ様々な方向から攻めようが、最終的に俺が狙われるとわかっているのなら問題ない。路地という地形も俺にとって有利に働いた。


 「助けてくれえええ!!」


 また悲鳴が聞こえた。捕らわれている男の方に目を向けると、残った三匹の猿がその男の後ろに隠れていた。


 「キャキャキャキャキャ!!」


 「ああああああ!!」


 猿が、手に持った動物の牙のような物を男に突き立てる。人質を取っているつもりなのだろうか。だとすると思いのほか猿たちは知能が高いらしい。


 「ひぃっ!」


 男の体から顔をのぞかせていた猿をまず殺す。男は悲鳴を上げたが、絶対に矢を当てるつもりはないので安心してほしい。

 続いて曲射で男から少し離れた後方にいた猿を殺す。こいつらは力がないらしく、矢に合わせて男を動かすようなことはしなかった。

 ひとじちがあるのに仲間が殺されたことに驚いたのか、最後に残った猿は男を痛めつけることをやめ、その体にぴたりと身を寄せ始めた。ああなっては男を傷付けずに猿だけを殺すのは不可能だ。


 「『身体強化』」


 『自由の弓』を『収納』し、代わりに両手に矢を一本ずつ取り出した俺は男めがけて走った。

 あっという間に距離は縮まり、意を決した猿が飛びかかってくる。しかし猿は男の後ろにいたので、俺が近づいていることに気付くのが遅かった。

 おかげで余裕を持って対処できる。右手に持っていた矢を突き刺し、すぐに右側に投げ捨てる。重いし返り血が付いたし感触が気持ち悪い。

 このままでは不快感に心がすべて支配されてしまう。男の服の襟を掴んで乱暴に後ろに投げ、急いで『自由の弓』を出現させ、矢を番える。


 そして、俺から全ての感情が消えていく。残ったのはただ一つ、弓を射るという意思だけだ。


 「ギ、ギギ……」


 先ほど投げ捨てた猿は急所に矢が刺さっていなかった。

 その恐怖におびえる目を見ても今の俺の心が動くことはない。もし矢を突き刺すときにあの目を見せられていたら話は別なのだが。

 その猿の眉間を射抜き、路地は一瞬静寂に包まれた。


 「う、うううう……」


 男のすすり泣く声を聞き、彼が怪我をしていたことを思い出した。

 倒れている男のもとに歩み寄り、しゃがんで傷口を見る。


 「『止血』っと。おい、早い所こいつを手当てしてやれよ!」


 体のあちこちに傷を作っているこの男から詳しい経緯を聞くのは難しそうだ。ようやく現れたヤンキー三人に怪我をした男を任せ、俺は路地を後にした。


 血まみれになってしまった服と『大空の盾』はどこで洗えばいいのだろうか。



22


 「おい、早い所こいつを手当てしてやれよ!」


 そう乱暴に告げた矢羽が立ち去るのを、人々は黙って見送るしかなかった。

 矢羽が戦っていた路地は大通りに面していた。当然多くの人々が男の悲鳴、猿と矢羽が呼んだ生き物の鳴き声を聞いていた。

 矢羽が立ち去り、三人の男が怪我をした一人の男を抱えてどこかへ行く間、人々の視線は路地の入口にできた大きな血だまりに釘づけになっていた。

 そこにあるのは血だけではない。上から強い力を受けて潰れた手足のようなものが何本も転がっている。探索者であっても目をそむけたくなる光景だ。

 やがて好奇心の強い一人の若者が、その血だまりを越えて路地へと入って行った。誰もそれを止めなかった。何が起きたのかを知りたいのは全員に共通する思いなのだから。


 そして、若者は戻って来た。


 「おい、どうだった?」


 「……笑うなよ?」


 「笑うわけねえだろ。いいから言ってみろって!」


 

 「モンスターだ。間違いねえ。イビルモンキーの死体がいくつも転がってたんだよ!!」



23


 「あら、どうしたの? いきなり止まったりして」


 「いやあ、なんだか嫌な予感がするんだよ」


 「……それは、困るわね」


 「あれ? てっきり鼻で笑われると思ってたんだけど」


 「だって、あなたの直感は当たるんだもの。……本当に、何度も助けられたわね」


 「お互い様だよ。ならどうする? 今日のところはここまでにしておくかい?」


 「ええ、そうしましょう。一度町の様子も見ておかないとね」


 「了解。しかし残念だ。僕はまだまだモンスターを殺せるのにねえ」


 「何を言っているの? 『休憩と撤退は余裕のあるうちに』でしょ」





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