第六話 二人の戦い
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「オオオオオオ!!」
俺達が部屋に足を踏み入れた瞬間にミノタウロスは動き出した。雄叫びを上げ迎撃の構えを見せている。その威圧感は侮りがたいものだったが、ラダリアの走る速さは変わらなかった。
そして俺も援護をしようと『収納』していた矢を取り出した瞬間、部屋の奥の方で何かが動いたのが見えた。
「いつの間に……」
その光景を前にして一瞬俺の動きは止まった。その間にラダリアはミノタウロスの攻撃範囲に入ってしまう。
振り下ろされた巨大な斧が大きな音を立てて床を砕く。ラダリアはその一撃を上手くやり過ごしたようだ。
考えてみれば彼女はBランク。当然ミノタウロスを一人で倒したこともあるはずだ。なら援護をしなくても問題はない。それよりも一刻も早くこの状況を伝えることを優先させるべきだ。
「ラダリア、援護は期待しないでくれ!」
「何!? どういうことだ!?」
激しい攻防を繰り広げているミノタウロスとラダリアを通り過ぎ、俺は叫びながら走った。
「ミノタウロスがもう一匹出た! 俺はそっちを倒す!」
「オオオオオオオオ!!」
ラダリアが何か言ったのは口の動きでわかったが、二匹目のミノタウロスの咆哮にかき消されて聞こえなかった。
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(まさかこのタイミングで発生するとは……!)
迷宮内でのモンスターの増え方は二通りある。一つは動物と同じように生殖によって子を作る場合。もう一つは迷宮内に突然モンスターが出現する場合だ。そして「発生」とは、後者を指す単語である。
(ヤバネ一人ではさすがにミノタウロスの相手は荷が重い。急がなくては)
ラダリアはもちろんミノタウロスを一人で倒したことがある。その経験があるからこそ、このモンスター相手には特に油断禁物だということをよく知っているのだ。
「グアアアアアア!!」
ラダリアはミノタウロスの剛腕から繰り出される一撃を一歩で避け、その腕を右手に持った剣で切りつけた。
同じことをもう十回は繰り返しているが、固い皮膚を持つミノタウロスにとってこの程度の傷は致命傷には程遠い。即死させたいなら狙うべきは首だが、ラダリアの身長では決して届かない。まずは足を切って倒し、そこから頭部を狙うのがミノタウロス討伐のセオリーだ。
しかしその作戦はあまりにも時間がかかり過ぎる。ラダリアは焦っていた。一刻も早くヤバネのもとに向かいたいが、もしミノタウロスの攻撃を頭にでも喰らえば即死は免れない。
(やはり温存などしている場合ではないか……)
瞬間、ラダリアの持つ二振りの剣が光を帯びる。『光刃』の魔法だ。その光は彼女の身長ほどの長さになり、刃のように鋭い形になった。
「はっ!」
「ガアアアアアアア!?」
ラダリアは左の剣を振るった。光の刃は剣と共に動き、触れた瞬間にミノタウロスの右腕を斬った。
ミノタウロスの腕が持っていた斧ごと地面に落ちた。断面から血が吹き出ていて、それを抑えるために左腕で傷を抑えている。好機だ。
「終わりだ」
光の刃の一突きがミノタウロスの首に突き刺さる。ラダリアはさらに一歩踏み込み、刃はより深く、首を断ち切るほどに食い込んだ。
「ヤバネ、こちらは終わったぞ!」
宙を舞ったミノタウロスの首に目もくれず、ラダリアはヤバネが走って行った方を向く。自分の戦いに集中していたせいもあるが、先ほどからまったく物音が聞こえないそちらが気になって仕方がなかった。
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「オオオオオオオオ!!」
ミノタウロスが雄叫びを上げてこちらへ突進してくる。あの斧が届く範囲に来られては俺に勝ち目はない。当然即座に眉間めがけて矢を射る。
しかしその矢は斧によって阻まれてしまった。まあそれは想定済みだ。少し強い魔物やモンスターにとって矢を弾くのは当たり前のことのようだ。その対策についても一応考えてある。
矢を防ぐために動きを止めたミノタウロスに俺は次々矢を放つ。ここで大事なのは当たらなさそうで当たる軌道で射ることだ。
案の定ミノタウロスはいくつもの矢のうちの一本を無視した。当然その矢は肩にギリギリ突き刺さる。俺が狙いを外すはずがない。
そうなれば困るのはミノタウロスだ。これで奴は当たらない矢も防御せざるを得なくなった。後はただひたすらに、散り散りに矢を射続けるだけだ。
「ギアアアアアア!!」
あの大きな斧と太い腕では正確な防御などできない。カバーできる範囲は広いが小回りが効かないだろう。
正確な狙いの矢に対して精細を欠いた防御をした場合、どうなるかは火を見るより明らかだ。
十本ほどの矢が体に突き刺さったミノタウロスはとうとう地面に倒れた。右目に刺さった矢が決め手になったようだ。
ラダリアはいまだに戦っている。
必要なら援護をしようと思っていた矢先、彼女は魔法を使ってミノタウロスを仕留めた。
「ヤバネ、こちらは終わったぞ!」
「おう。俺も今倒したところだ」
「……無傷でか?」
ラダリアは疑うような視線を向けてくる。何を当然のことを言っているのか。
「弓っていうのは、安全に相手を殺すための武器なんだぞ」
「それはそうだが……。って、ヤバネ。その弓と矢はまさか神器か?」
気付かれてしまったか。まあ隠してなかったんだけど。
「ああそうだ。言っておいた方がよかったか?」
「いや、いい。そうか、通りでミノタウロス相手に余裕があったわけだ。焦っていたのは私だけだったのか」
脱力した彼女に対して、俺は一つ思いついたことがあった。
「そう言えば俺今一人でミノタウロス倒したけど、もしかしてこれでBランクになれるのか?」
「……まずcランクに上がってからでないと話にならないぞ」
「あ、やっぱり?」
ラダリアと行動を共にするならランクが近い方がいいと思ったが、そう都合よくはいかないようだ。もしかしたら彼女には迷惑をかけることになるかもしれない。俺も自主的にランクを上げるために何かした方がいいだろうか。まあランクを上げるために何をすればいいのかは分からないが。
「しかしまさかヤバネに頼りきりになってしまうとは……。偉そうに警告をした私の威厳が……」
「いやいや。俺一人だったらミノタウロス二匹相手なんてできなかったからな? ラダリアがいてくれてよかったよ」
「……本当か?」
「本当本当。お前がいなかったらそもそもここまで来れなかったって!」
帰り道、少し自信を失ったラダリアの機嫌を取るのが大変だったことをここに明記しておく。




