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第三話 彼と彼女の思惑

 「ど、どうかな? 少しは元気出た?」


 「ああ、おかげさまで餓死は免れたよ、本当にありがとう」


 「え、えへへ…… どういたしまして!」


 パンを食べ切った俺はかなり元気を取り戻した。正直に言うと満腹にはほど遠いが、あと三日くらいは頑張れそうな気がする。


 「あんたは俺の命の恩人だ。お礼をしたいんだが、あいにくと俺は今渡せるようなものを持っていないんだ。何か俺に手伝えることはないか? 俺にできることなら何だってするぜ」


 「え!? な、何でもしてくれるの?」


 「ああ、俺にできることならな」


  彼女が俺に声をかけた理由は純粋な善意だけではないはずで、俺に何か要求があるのだろう。しかし彼女がそれを口に出さないので、「お礼をさせてほしい」という体で要求を自然に聞き出すことにした。もし俺にできないことなら、断るか逃げるかすればいいのだ。


 「じゃ、じゃあね、ボク今魔物退治の依頼を受けてるんだけど、一緒に来てくれない?」


 「え、魔物って?」


 「今日倒しに行くのはウルフの群れだよ!」


 俺は魔物という言葉の意味を尋ねたのだが、彼女は何か勘違いしたらしい。だが少し考えればわかる。この世界を脅かしているのが魔王だから、魔物というのは魔王の手下か何かだろう。そしてウルフという魔物にも心当たりがある。俺を襲ったあの犬に違いない。

 そうか、あれは犬じゃなくて狼だったのか。

 ていうかウルフって! 英語じゃん! 日本語じゃないじゃん! 日本語が使われていることはもう何とも思わないけど、英語が使われているのは本当に意味不明じゃん!

 俺はそんな内心を表情には出さず、彼女に答える。


 「ああ、いいぜ。ウルフなら倒したことがあるんだ」


 「そうなの!? すごいね! いつも群れで行動するから、かなり強い冒険者じゃないと苦戦するんだよ」


 「え? 群れ? 俺が戦ったときは一匹しかいなかったぞ?」


 「あ、じゃあそれは喧嘩に負けて群れを追い出されたウルフだね。……ねえ、まさか素手で倒したの? 武器を持ってるようには見えないんだけど……」


 「いや、弓で倒した。俺は『収納』の魔法が使えるんだ」


 そう言って俺は弓を取り出した。ちなみに『自由の弓』は、盾に乗ったまま射れるように普段は短くしている。


 「『収納』!? 弓も使えるんだ! 君ってすごいね、なんだか思ってたより頼りになりそう!」


 「そうか? まあ、役に立てるように頑張るよ」


 「ね、ねえ、名前教えてもらってもいい? ほら、いつまでも『君』じゃよそよそしいじゃん」


 彼女はなんだか緊張しているようだ。名前を聞くぐらいで何をそんなに……。

 それにしてもよそよそしいって……なんか、ずいぶん仲がいい奴同士みたいなことをいうな、こいつ。まあ別にいいけど。


 「俺は矢羽、十七歳だ」


 名前を言うだけではなんとなく短い気がしたので、年齢も加えて言うことにする。こいつがもし年上だったら、言葉づかいを改める必要がある。


 「ホント!? ボクも今年で十七歳になるんだ。すごい、偶然だね!」


 同い年だったか。ならこのままため口でいいだろう。


 「よし! じゃあ早速ウルフ退治にいこうか!」


 「いや、お前の名前も教えてくれよ」


 いきなり立ち上がった彼女を止めて俺は尋ねる。

 もしかしてこいつはあれか、天然なのか?


 「ご、ごめんごめん。ボクってばうっかりしてたよ」


 恥ずかしそうに顔を少し赤くして彼女は言った。頬は少し赤くなっているし、腰のあたりから生えている尻尾が丸まっている。咳払いを一つして、彼女は少し大きな声で名乗った。


 「ボクの名前はバーバラだよ! ヤバネ、これからよろしくね!」



 よし、第一印象は悪くないはずだよね。なんたってパンをたくさんあげたんだし。会話の途中途中で相手を褒めることも忘れなかったし。自分から魔物退治に誘うのは、なんだかパンで釣ったみたいになりそうだからどうしようかと考えてたんだけど、まさか彼、ヤバネの方から持ちかけて来てくれるなんて! ボクってばなんて幸運なんだろう。会話も結構弾んでたし、今までで一番上手くいってるよ、これ! こんなに上手くいっていいのかなあ。

 ……ううん、油断は禁物だよね。今まで散々失敗してきたんだから。ようし、ここからどんどん距離を詰めて、もっと仲良くなろう! とりあえず今みたいな感じで、どんどん話を振ればいいよね? ボクのことをいっぱい話して、ヤバネのこともいっぱい聞こう!

 ありがとう、マリー。マリーが書いてくれた、この「友達を作る方法」のおかげだよ!

 

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