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第六話 奴隷エルフとの出会い、あるいは冤罪

第一章の三十話を投稿しました。門番視点の話になっています

15

 「お前、その女の子とどういう関係だ?」


 この森に来たのはとある神器を探しに来たからだけど、この男を見過ごすわけにはいかない。

 あんなに可愛い子を奴隷にするなんて、絶対に許せない。それに、こいつは多分……


 「どういう関係って……。俺はただ、こいつに案内してもらってるだけだぞ」


 「案内、ねえ……」


  その男の返答を聞き、サーシャは疑念を隠さずにそう言った。


 「本当は、この危険な森を抜けるために買った奴隷なんですよね?」


 「は?」


 おおう。直球だな、レット。レットは俺以外の男にやたらと辛辣なところがあるのだ。男の顔は不快そうに歪んだが、俺の関心はすでにエルフの少女の方に向けられていた。


 長い金髪はまるで朝日のように輝いていて、真っ白な肌と合わせてどこか神々しさを感じる。体つきはまだまだ幼いが、少し丸みを帯びている女性の体だ。表情はさっきからあまり動かず、どこか怯えているように見えるけど、自分を奴隷として扱う男の前で緊張するのは当然だろう。安心してもらうために俺は少女に向かってほほ笑んだが、それでも表情は変わらなかった。



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 こいつらはとんでもない勘違いをしているようだが、あまりの突拍子の無さに訂正する気も起きない。仮に訂正したとしても、こいつらの耳に俺の言葉は入らないだろう。完全に俺を最低の人間だと決めつけているからだ。この場を収めるためにはキクル自身に説明してもらうしかないが、先ほどからキクルは男の顔を見て固まっているので、多分役に立たない。

 四人組が騒いでいるのを聞き流しながら、俺はキクルと同じように目の前の男を観察することにした。身長は俺より少し低いが体つきはしっかりしている。

 そして最も注目すべきは顔だ。男らしい力強さが感じられる顔だが、決して粗暴であったり野蛮であるようには見えず、知性と品性を兼ね備えている。なかなかのイケメンだが、いささか完璧すぎやしないだろうか。男の、非の打ちどころがない容貌には人間味が足りないと俺は思った。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、四人組は全員驚いたような表情になった。何事かと思ってキクルがいた右を向くと、そこには誰もいなかった。『大地の瞳』で過去を確認してみると、キクルが魔法を使って一瞬で姿を消したということがわかった。あいつ、俺を置いて逃げたな。


 「『転移』か……」


 男がそうつぶやいたので、キクルが使った魔法は『転移』らしい。キクルはここからかなり離れた規模の大きい集落に逃げたようだ。瞬間移動ができるのは少しうらやましいが、今はそんなことを考えている場合ではない。


 「頼みの綱の奴隷に逃げられるなんて、残念だったな」

 

 男はニヤリと笑って俺にそう言った。いや、別に残念じゃないけど。



 「一つ、聞いてもいいか」


 いまだにニヤニヤしている男と俺を嘲笑している女どもに、俺はどうしても聞きたいことがあった。


 「何であいつのことを奴隷だと思ったんだ?」

 

 聞きたいことというのはそのことだ。あいつの服は新品でかなり上等なものだし、服で隠されていない部位には傷が一切ついていなかった。俺が想像する奴隷というものとは対極に位置する少女だと思う。幼い、小学校高学年ぐらいに見える少女と高校生男子が一緒に森を歩いている光景は、他人から見てそんなに不審に映るのだろうか。


 「何でって……」


 おい、そこで詰まるのかよ。何か根拠があって言ったことじゃないのか、あんなに自信ありげだったのに。


 「おぬしのような弱い人間にエルフが関わりを持つということがあり得ないからじゃ」


 黙ってしまった男に代わって、特徴的な喋り方の小さい女が俺にそう言った。こいつの髪の毛は紫色だが、一体どういう親から生まれればそうなるのだろうか。もしかしたら染めているのかもしれない。今度バーバラにあったらそのあたりのことを聞いておこう。赤と紫という違いはあるが、きっと参考になるはずだ。

 なんて、この場において考える必要性のないことを考えたのは、そうでもしないとこいつらの無礼さに耐えられそうになかったからだ。どうして、やってもいないことのためにここまで悪口を言われないといけないのだろうか。

 とはいえ逆上して掴みかかりでもすれば俺は絶対に負ける。こいつら四人全員の魔力の量が、俺のそれをはるかに上回っているからだ。特に男と紫髪の女の魔力の量はずば抜けている。魔力の量とはすなわち魔法を使える回数だ。戦闘における魔法の有用性を、俺はあの戦いで知った。

 四対一。単純に考えれば俺がこいつらの四倍以上強くなければ勝てないが、こいつらの中でも一番魔力の量が少ないツインテールの女でも俺の二倍近くある。

 

 さて、どうしようか。早くここから離れたいのだが、もはやそれは無理だと思えてきた。このままだと戦闘は避けられないだろう。せめて軽傷ですませてほしいと思うのは虫がよすぎるだろうか。

 




 「……バレバレだぞ」


 轟音。

 俺が諦めかけていたその時、周囲から大量の魔法が俺達に向かって放たれた。男の魔法によって完全に抑えられたが、俺達が無事だとわかるとすぐに大量の何かが距離を詰めてきた。ゴブリンでもエルフでもないから、この手足が短い豚面の巨人はオークだろう。


 「覚悟しろ、勇者!!」


 先頭のオークはそう叫ぶと、手に持っていた棍棒を高く振り上げた。



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