第一話 門の前にて
一話を二千字くらいにまとめるのは難しいですね。
1
謎の犬との激闘の後、俺はすぐにその場を離れた。あの犬の仲間が近くにいたら面倒なことになるからだ。ゆっくりと進む盾の上にあぐらをかき、俺は自分の魔法と神器について調べていた。
まず『神器製作』だ。あの戦いの後に何回か使ってみたが、矢しか出てこなかった。もともとこういう魔法なのか、それとも最初に作ったものが矢だったからなのか。理由はわからないが、この魔法は無限に使えるはずなので、作っては『収納』してまた作るということをずっと繰り返している。この矢は神器だから何か特別な特性があるはずだが、今の段階ではわかっていない。
次は『自由の弓』だ。これも盾のように飾りや模様がなく、きわめて原始的な見た目をしているが、性能は今の弓に勝るとも劣らないだろう。大きさと形を自由に変えることができるというのは本当らしく、矢を作るのに飽きたら意味もなく変形させたりしている。弓の形に合わせて弦の長さも変わるのがなんとも不思議だ。ちなみに一般的に「弓」とは呼べないような形にはできなかった。
そして『大地の瞳』だ。何回取り出そうと思っても取り出せなかったが、そもそも『収納』されていなかった。俺の目がすでにこの神器になっていたのだ。その証拠に、俺は今自分のことを上から見下ろしている。目の力を使っていない間は普通の視界なのだが。他にも遠くのものを拡大して見たり、盾を透かして地面を見たり地中の様子を見たりすることができる。今俺が向かっている大きな町も、この目のおかげで見つけることができた。
これはすごい。『収納』と同じくらい便利だ。一つ問題があるとすれば、この不思議な視界にまだ慣れていないということだ。自分の姿が見えるというのは何とも不思議なものだ。今は盾に乗っているからいいが、いずれはこの目の力を使ったまま戦えるようになりたい。
2
「おお……」
その町を囲むようにそびえたつ壁を見上げ、俺は感嘆の声を漏らした。移動すること(恐らく)丸一日。途中で睡眠をはさんで、とうとう大きな町にたどり着いた。
ここに来るまでにいくつかの集落を見かけたが立ち寄ることはなかった。俺が町を目指していた目的は魔王の情報を集めることとお金を稼いで食料を買い込むこと、そして観光だ。小さな村ではこれらのことはできないだろう。泊まれそうなところもなかったし。
余談だが、ここに来る途中で馬車や人とすれちがったが、全員(馬を含む)が俺に好奇の眼差しを向けてきた。盾に乗って移動する男はそんなに変なのか?
……かなり変だな。人目があるところでは自重しよう。
さて、いつまでも見とれている訳にはいかない。これではまるでおのぼりさんではないか。
壁に沿って右回りに歩いてみると、人が行列を作っているのを見つけた。行列の先には門があり、そこには鎧を着た男が十人ぐらい立っていた。門の大きさに対してずいぶんな大人数だが、警備が厳重なのはいいことだ。俺も早く並んで、この町に入るとしよう。
3
門での検査はずいぶんと念入りに行われているようで、列はなかなか動かなかった。早くしてくれないだろうか。先ほどから俺の体が空腹を訴えている。最後の食事は高校で食べた弁当だから、丸一日は何も食べていないことになる。町に入ったらまず飯を食べなければ。そこで俺は重大な事実に気付いた。
俺、お金持ってないじゃん!
まずい、非常にまずい。……仕方がない、服を一着売ってお金にしよう。高価な服ではないと神は言っていたが、新品だから何か一品買える位ぐらいのお金にはなるはずだ。また襲われて服が破れるかもしれないからできるだけ大切にしたかったのだが、背に腹は代えられないだろう。
「次! おいお前、早くしろ!」
そんなことを考えていたら、どうやらもう俺の番のようだ。なにはともかく、まずは町に入らなくてはどうしようもない。さっさと検査をパスして服屋に行こう。
「お前、名前は何という?」
まず名前を聞かれた。神のアドバイスの通りに名字は名乗らないでおく。
「はい、俺は矢羽と言います」
「そうか、ヤバネだな? では、お前の身分を示すものを見せろ」
は!? 身分を示すものだと? そんなものを持っているはずがない。何せ俺がこの世界に来てまだ一日程度しか経っていないのだから。俺は正直に答える。
「いや、すみません。そんなものは持っていないです」
「そうか、ならばお前をここ『タート』の町の住民として登録する。この町の住人であるということを証明するための腕輪をお前に与えるから、腕輪の費用として二万ユピト支払ってもらおう」
この町がタートという名前であることはわかった。だが、今この人はなんて言った? ユピト? 何だそれは。いや、文脈からしてわかる。ユピトというのは恐らく、いや間違いなく通貨単位だ。当然俺は二万どころか一ユピトも持っていない。
「なんだ、払えないのか? ならばお前をこの町に入れることはできない。さあ、早くどけ!」
茫然としていて動けなかった俺は兵士に抱えられ、門から少し離れたところに投げ捨てられた。