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第一話 未知との遭遇

 歩き始めてしばらく経つと、肉眼ではタートは見えないところまで来た。俺は地面に出現させた盾に座って、大体二メートル位の高さに盾を浮かせた。周りに人目がないことを確認すると俺は盾を進ませる。歩くより断然楽だ。『収納』といいこの『大空の盾』といい、俺はずいぶんと便利なものを貰ったものだ。

 タートに向かった時よりスピードを速くして俺は森に向かっている。



 俺が少し急いでいるのには理由がある。実は食料にあまり余裕がないのだ。俺はタートで食料を買い込みたいと思っていたのだが、魔物の襲撃を受けたタートで何の被害も受けていない俺が食料を買い占めるのは気がひけたので、せいぜい二日分くらいしか残っていない。だから急いで森にあるという泉を見て、森の西にあるビリンという町に行こうと思っている。もしかしたら森の中には食べられるものがあるかもしれないが、あいにくと俺は食べられるものとそうでないものの区別がつかないのだ。



 

 途中何匹かの魔物に襲われたが、空中からの矢に対応できる魔物は一匹もいなかった。途中雨が降って大変なことになったが、おおよそ順調に森にたどり着くことができた。

 この森が俺の目的地であるという証拠はないが、こんなに大きい森がいくつもあるとは考えられない。その広さといったら、肉眼では森の端が見えないほどだ。実際に泉を探すのは大変らしく、人間が何人も行方不明になっているためこの森に住む「エルフ」「オーク」「ゴブリン」という種族に案内してもらった方がいい、と俺が読んだ本には書かれていた。しかし俺には『大地の瞳』があるため迷うなんてことは絶対にない。目の能力を使うとすぐに泉の場所はわかったので、俺は早速その場所を目指して歩き始めた。

 道らしい道はなく、俺はどうにか木々の間を進んでいく。視界が悪いので常に目の能力を使わないと周囲を警戒できないが、それは仕方ないと諦めるしかないだろう。盾を使って森の上から泉に向かうということも考えたが、それは最後の手段にしたい。こういう自然のままの森を歩くのは初めてで、大変だけど結構楽しいからだ。



 しばらく行くと俺の目にある光景が飛び込んできた。一匹の魔物、肌が緑で背は低い二足歩行の魔物がウルフに追いかけられているのだ。その緑色の魔物は怪我をしていて、もうじき追いつかれてしまう。魔王を倒すためにこの世界に送られた俺にとって、その手下である魔物を倒すことは義務みたいなものだ。その追いかけっこが行われているのはここから少し離れている場所なので、俺はウルフに逃げられる前にその場に向かうことにした。


 

 「ぐわああっ!」


 緑色の魔物がウルフに肩を噛まれて悲鳴のような声を上げた。俺はすかさずウルフの頭を横から射抜く。ウルフは矢の勢いに従って左側に倒れ、緑色の魔物に刺さっていた牙が抜けて血が流れ出ている。俺はウルフに刺さった矢を『収納』して緑色の魔物に近付いた。大体三メートルくらいのところで立ち止まって生死を確認していると、苦しそうにうめき声をあげているのがすぐにわかった。俺は弓を番えようとしたが、その直前に止まった。


 「た……助けてくれ……」


 日本語、こいつは日本語をしゃべっている。日本語をしゃべる魔物がいることは俺も知っている。だが、魔物とは人間の敵だ。俺が会う魔物は全て俺への敵意をむき出しにしていた。そんな魔物が人間に命乞いをするだろうか。魔物はそんな屈辱を味わっても平気でいられるのだろうか。

 少しの間固まっていると、俺はあることを思い出した。そういえばこの森には人間ではない種族が住んでいるらしい。確かその三つの種族のうちの一つが緑色で背の低いという特徴だったはずだ。とするともしかしたらこいつはエルフかオークかゴブリンだということになる。

 タートで読んだ本にはこれらの種族は人間と同盟を結んでいると書かれていたので、こいつを見殺しにするのはまずい。最悪外交問題に発展するかもしれない。


 「ああ、任せろ」


 俺は、さっきまで殺そうと思っていたとは思われないように真剣な顔でうなずいた。『止血』の魔法を使えるから、俺でも応急処置くらいはできるだろう。



 「いや、本当に助かった。ありがとう人間」


 『止血』は傷口をふさぐ魔法だった。大きな傷がふさがっていく様子は気持ち悪かったが、この緑色の男(声が男っぽいから男扱いする)は少し元気になったようなのでよかった。


 「気にすんな、死にそうなのに放っておくわけないだろ」


 ごめんなさい、放っておくどころか殺そうとしてました。そんな俺の本心には気付かず、木にもたれかかっている緑色の男は続ける。


 「人間、俺はどうしても礼がしたい。何か俺に手伝えることはないか?」


 そんなありがたいことを言ってくれるが、特に何も思いつかないので適当なことを頼むことにした。


 「じゃあ、あのウルフの死体を片づけておいてくれ。あ、もちろん動けるようになってからでいいぞ」


 「……そんなことでいいのか? 命を救ってもらったお礼が死体の片付けって……。お前は人間なのに欲があまりないんだな」


 緑色の男は怪訝そうな顔をしていたが俺の頼みを引き受けてくれた。こいつが動けるようになるまではそばにいてやろうと思い、地面に腰を下ろそうとした。

 




 「おい、貴様そのゴブリンに何をした!!」


 

 目の能力を使っていなかった俺はいきなりの大声に驚いた。俺は油断していた。即座に弓と矢を手に持って、その声がした方を向く。


 「貴様ら人間と我ら『森の三種族』は、お互いに決して傷つけてはならないという同盟の規則を破ったその罪、万死に値する!」


 そう叫んだ大柄の何かは手に持った棍棒を振り上げ、体内の魔力をその棍棒に集め始めた。 


 

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