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はじまり③


 「うおぉ!?」


 後ろから走ってきた何かはまっすぐ俺に突進してきた。あわてて盾を構えるが、体ごと弾き飛ばされ尻もちをつく。すごい力だ。全力で後ろに下がって顔を上げると、そこには犬がいた。ただし、絶対に俺が知っている犬ではない。目が赤く光り、体から黒い煙を出しているような犬種を俺は知らない。


 「し、『身体強化』!」


 唸り声をあげた犬がまた走りだしたのを見て俺は立ち上がり、盾を構えて叫ぶ。盾を支えている両腕に衝撃が加わるが、最初の突進のそれに比べるとずいぶんと軽い。一歩下がるだけで済んだ。俺の魔法が間に合ったからだろう。魔法の発動方法が正しいかわからなかったし、魔法が間に合うかもわからなかったが、一か八かの賭けになんとか勝てたようだ。

しかし、事態が解決したわけではない。犬と俺の力は完全に拮抗しているし、少しでも力を緩めれば押し切られてしまいそうだ。どうにかして事態を打開しなければ!

 俺は左足を軸にして体を回転させた。進路をふさぐ障害がなくなることで犬が転ぶことを狙ったのだが、本当ならこれは悪手だった。四足歩行の動物が、そう簡単に転ぶはずがないのだ。何せ人間の二倍の数の足があるのだから。だが突然前の物がなくなったことで犬は驚いたらしい。犬はブレーキをかけるために止まり、ほんの少し、時間にして数秒の隙を作ることができた。俺はその隙に盾の取っ手を握り直し、大声で叫ぶ。


 「飛べえええええ!!!」


 神は、この盾は飛ばしたりできるというようなことを言っていた。なら、俺の思った通りにいくはずだ!  

俺の願いが届いたのか、盾は俺ごと上昇し始めた。かなりの速さで上昇したせいで肩が痛い。魔法を使っていなければ脱臼していたに違いない。だがこのままぶらさがっていればいずれ肩に限界が来るだろう。俺はいったん盾を収納し、すぐに俺の足元に、取っ手が付いている方を上にして出現させた。『収納』の魔法が間を置かずに使えることは確認済みだ。

 盾に片膝立ちで乗って取っ手を掴み、下を覗き込むと、犬がこちらに向かって吠えていた。鳴き声は間違いなく犬だ。空中にさえいれば、あの犬も諦めてくれるだろう。あの犬がいなくなったら、このまま空中を移動してどこかの町を目指そう。

 そう思っていた矢先、俺のすぐ横を赤い何かが通り抜けた。



 「……え?」

 

 何だ、今のは?

 俺はもう一度下を覗き込む。犬の顔の前に赤い何かが集まり、それが球体を形成していく。

 あれは……まさか。

 赤い球体が強い光を放った瞬間、その炎でできた球体が俺に迫る。


 「お前も魔法使えるのかよ!!」


 叫びながら、盾を移動させて避ける。

 まずい、形勢逆転だ。

 俺に遠距離攻撃の手段がない以上、あの炎を避け続けなければならない。それも完璧にだ。威力がわからない以上は少しでも当たることさえ許されない。俺は犬から距離を取ろうとするが、振り落とされるのが怖くて思うようにスピードが出せない。結局犬に先に真下に回り込まれ、また炎が放たれた。


 「あっぶねえ!」


 とりあえず右に大きく動いた。また犬が走りだしたのが見える。もう一度俺の真下に潜りこむつもりだろう。さっきは避けることはできたが、あと何回避けられるだろうか。このままでは間違いなくジリ貧だ。


 ……実は、一つ作戦を思いついている。あまりにも不確定要素が多すぎる作戦だ。失敗したら俺は間違いなく死ぬだろう。できれば実行したくないが……。犬が炎を放つ準備を始めているのを見て、俺は決心した。

 勝つため、生きるためにはこれしかないんだ!


 放たれた炎を避け、全速力で盾を動かし犬との距離を取る。振り落とされるのが怖いなんて言っている場合じゃない!

 犬との距離がかなり開いたのを見て、俺は盾を緩やかに減速させて止まらせた。そして犬の方を向き、収納していた『自由の弓』を取り出し立ち上がる。無防備な俺を見た犬は、走りながら炎を放つ準備を始める。俺はそんな犬の正面に、一度収納した盾を出現させる。犬は盾と衝突し、集まっていた炎が霧散する。俺はそんなことには目もくれず、盾を収納した時点で弓を構え、ある魔法を使っていた。


 「『神器製作』!」


 右手の中に何かが来た瞬間、俺はそれを弓に番える。何を作ったのかは確かめない、確かめている時間などない。もし矢を作れなかったとしたら、なんてことも考えない。弓を生き物に向けることに対する嫌悪感も罪悪感もない。あの犬は、俺にとってただの(てき)だ。足元に再び盾を出現させ、弦を引き、盾に着地した瞬間に放つ!

 人事は尽くした。あとは天命を待つだけだ。放たれた何かが空気を切る音を聞きながら、俺は祈るような気持ちで目を閉じた。



 俺は眉間に矢が刺さった犬の死体を見下ろしていた。どこか現実離れした、俺の日本での日常では決して起こらなかったようなその光景を前にして、


 「何もないところから神器を作るんだから、『神器製作』じゃなくて『神器創造』なんじゃないのか?」


 と、誰にも届かない独り言をつぶやいたのだった。

 

説明はまだ終わっていないですが、次から本編にはいります。

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