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第二十二話 追撃

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52


 おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしい!

 何故我々が押されている!? あの騎士どもは潜入した魔物がどうにかするのではなかったのか!? どうして人間どもは万全の態勢で我々を迎え撃っている? あの竜人は何だ? 空から降り注ぐ矢を撃っているのは何者だ?

 このままでは魔王様の命令を果たせない。こうなったら奥の手を使うしかないだろう。もはや勝利は絶対にあり得ない。一人だけおめおめと魔王国に逃げ帰ることもできない。だからせめて、一人でも多くの人間を道連れにしよう。


 人間共よ、覚悟しろ。



53


 再び門を開けてタートの外に出ると、魔物の数はずいぶんと減っていた。辺りにいる魔物は残り四十匹ほどで、もはや勝利は目前だった。だが、バーバラたちも余裕があるわけではないようだ。騎士が三人地面に倒れている。立っている者も鎧や武器に傷が目立つし、血を流している者もいる。


 「隊長! 第三班五名、水路の封鎖を完了し、町に入った魔物も全滅させました!」


 「よくやった! 戻って来たばかりで悪いが、加勢を頼む!」


 そう言われた時には、すでに五人の騎士は魔物に向かって突撃していた。騎士たちは二組に分かれて魔物に立ち向かった。徹底した各個撃破で、最小の被害で確実に魔物を殺している。

 バーバラは鳥のような狂魔と空中で戦っていて、ちょうど今狂魔の頭を握り潰したところだ。俺は逃げようと背中を向けた魔物をひたすら射殺している。正直俺がいる必要はないと思うが、まあそのことは考えないでおこう。もしかしたら役に立てることがあるかもしれない。



 「いけ、竜人! そいつが最後だ!!」


 「任せて! 食らえ、『熱槍』!!」



 バーバラが狂魔の胸を槍のようにとがった魔法で貫いた。これで門の前の魔物はすべて片付いた。騎士たちは歓喜の雄たけびを上げているが、表情には疲れが浮かんでいる。無理もないだろう。門から出てから少なくとも数十分戦い続けたのだ。全員の体の中の魔力はかなり減っている。それでも俺の魔力の二倍くらいはあるのだが。

 魔物は退けたが、これからが大変だ。魔物の襲撃でこちらも無視できない被害を受けた。復興にはとてつもない時間と費用がかかるだろうが、町が魔物の手に落ちるよりはましだろう。

 

 「バーバラ、お疲れ。やっぱりお前はすごいな」


 「ヤバネ! やっぱり空から援護してくれたのはヤバネだったんだね!」


 バーバラは俺が隠そうとしていることを大声で言った。ずいぶんとテンションが上がっているらしく、ものすごい早口でたたみかけるように話す。


 「本当にありがとう! あんな大群に勝てたのはヤバネがいてくれたおかげだよ! ヤバネが魔物の変身を見破って、みんなが信じてくれるような作戦を考えて、魔物が攻めてくる時間を教えてくれたおかげだよ!」


 「馬鹿野郎! お前それは言っちゃだめだろ!」

 

 バーバラこそが英雄だということにするためには俺の存在は邪魔でしかない。お

 前は俺が何のために影からのサポートに徹したのかわかっていないのか?

 しかしバーバラの爆弾発言も、人々の勝鬨にかき消されて誰にも聞こえていなかったようだ。よかった。


 「まあ、ともかく今日はもう帰って寝ようぜ。お前も疲れただろ?」


 「うん、結局昨日はあんまり寝れなかったんだ……」


 俺はバーバラや騎士たちと一緒に町に戻ろうとした。壁の上からは歓声が聞こえる。町のために魔物と直接戦った彼らを称えているのだろう。あれだけの数の魔物を相手にたった三人しか犠牲を出さなかったのだから、こいつらの強さは別格だ。三人の騎士の遺体を丁重に抱え、騎士たちは町へ入って行く。



 バーバラと並んで歩いていた俺は、門の直前で足を止め、後ろを振り返った。なんとなく『大地の瞳』を使ったら、「それ」が目にはいったからだ。

 

 「何だ、あれ……?」


 突然立ち止まってそう呟いた俺に、バーバラが不思議そうな表情を向けてくる。俺はそんなことは気にせずに門とは逆方向に走り出した。


 「ちょ、ちょっとヤバネ! 急にどうした……の?」


 俺の後をついてきたバーバラも、「それ」を視認したらしい。先ほどまでの嬉しそうな表情はすっかり消えていた。


 「お、おい、なんだあれ!」


 「あんなやつ最初はいなかったじゃねえか!」


 壁の上の人々も異変に気づいて、徐々に混乱が広がっていく。



 「バーバラ、あの石っぽいのでできてるでっかい奴は人間の味方か?」


 「……あれはゴーレムって言ってね、人間が使えば人間の、魔物が使えば魔物の味方になるんだ。でもボクが知ってる限りだと、タートにあんなに大きいゴーレムを操れる人はいないよ」


 ああ、そうか、やっぱりそうか。どうやらまだ戦いは終わらないらしい。


54


 「『召喚』」


 体から全ての魔力が抜けていく。

 『召喚』の魔法は、文字通り「何か」を呼び寄せる魔法だ。使う前に自分が払う代償を決めなければならず、今回の代償は私の命だ。当然、代償が大きければ大きいほど呼び寄せられる「何か」も強力なものとなる。私の全ての魔力が形を成して行くのがわかる。それに伴い私の意識は遠のいていくが、私は「それ」を確かに見た。


 私が『召喚』したのはゴーレムだ。ただのゴーレムではない。過去の戦いで忌まわしき勇者カケルを追い詰めたゴーレムだ。これなら、奴らを皆殺しにできる。私はほくそ笑んだ。だが、時間に余裕はない。ゴーレムは命令がなければ動けない人形なのだ。視界が薄れゆく中、私は最後の力を振り絞って叫んだ。


 「ゴーレムよ、あの町を粉砕しろ! 住んでいる者も全て殺せ!! これは命令だ!」


 私の命令を聞き、ゴーレムの全身が赤く光った。起動完了の合図だ。こうなったらもうあの町にいる人間どもでは止められないだろう。あのゴーレムは魔法では倒せない。魔力に一切頼らずに、竜の牙さえも通さないあの金属を打ち破らなければならないが、それができるのは歴史上四人だけだ。

 町を救いたければ『聖剣』でも持って来るんだな! 人間どもをあざ笑いながら、私は意識を永遠に手放した。

 



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