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第二十一話 突撃

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 門から飛び出した騎士たち約二十名は、それはそれは強かった。門に殺到した魔物を先頭の男が魔法で吹き飛ばしたかと思うと、後ろの騎士たちが次々と魔物の群れの中に飛び込んで行った。騎士たちはお互いの武器がぶつからないように距離をとりながら魔物を次々と葬っている。敵を殺すことしか考えていないのか、というとそうでもなく、決して魔物に囲まれないように立ちまわっていたり、周りの騎士との鮮やかな連携攻撃も見られた。最初の魔法も、バーバラが巻き込まれないようにバーバラの周りに魔力の壁を張っていたようで、魔法が直撃したはずのバーバラは無傷だった。騎士たちと一緒にバーバラも魔物の群れに向かい、竜人の力を大いに振るっている。門が閉じられて退路が断たれたが、騎士たちの自信ありげな表情は揺るがない。

 門に迫っていた魔物は瞬く間に数を減らしたが、少しするとその快進撃が止まった。騎士たちが狂魔たちのいる辺りにたどり着いたのだ。敵の主力とこちらの主力がとうとう正面からぶつかり始めた。


 騎士とバーバラ、ついでに俺を含めると、門の外で魔物と直接戦っているのは二十五人。門の前にいる狂魔の数は三十六匹、少し遠くにはまだまだ多くの魔物たちがいることを考えると、戦力の差は絶望的と言っていいだろう。

 だが、予想に反して騎士とバーバラは善戦していた。騎士たちは五人から六人のグループで四つに分かれて狂魔に立ち向かい、各個撃破を徹底している。三人ほどが狂魔に全力で攻撃し、残りが周囲の魔物を牽制しているようだ。実力の高さもあってか、少しずつ戦線が押し上げられ始めた。門の周辺には大量の死体が転がっているが、今のところは騎士たちに死者は出ていないようだ。 

 当然バーバラも無事である。急降下して襲いかかり、その場でひとしきり暴れた後に空を飛んで逃げるというヒットアンドアウェイの戦法で狂魔を含む魔物を何匹も仕留めている。

 俺はと言えば、相も変わらず上空からの射撃を続けている。魔物たちは地上の騎士と低空にいるバーバラに対処するのに精一杯で、はるか上空には全く意識を向けていないのだ。おかげで俺が仕留めた狂魔はすでに二十匹を超えている。



 絶え間なく迫りくる魔物たちにも危なげなく対処している中、俺はふと違和感を覚えた。ついさっきまでに比べて、明らかに魔物の数が減っているのだ。バーバラたちの奮闘のおかげだろうか。

 いや、違う。減っているのは「生きている魔物の数」ではなく、死体を含めた「魔物の総数」だ。全ての魔物が門を目指していたはずなのに、一体どこへ行ったのだろうか。俺は『大地の瞳』で辺りを探してみる。すぐに見つけることができたが、その光景を見て恐怖のあまりに鳥肌が立った。




 魔物たちは門から少し離れた水路を目指していた。人が通れるほどに広い、あの領主が作らせたタートに水を届ける水路である。それどころか、もうすでに町に何匹か侵入しているのだ。



 「魔物が水路を伝ってタートに入ったぞ!!」


 盾に乗っているところを見られたくないので、俺はこの戦いで目立つことをしないつもりだった。しかし、そんなことを言っていられる場合ではなくなった。いまだかつてないほどの大声を出したおかげか、この危機的な状況はバーバラたちにも伝わったようだ。


 

 「何だと!? おい、第三班。今すぐ町に戻って魔物を倒し、水路をふさいで来い!」


 「し、しかし、ここを離れれば隊長たちが……」


 「いいから行け!! 魔物をすべて殺したとしても、タートを守れなければ我々の敗北だ!!」


 「は、はっ! かしこまりました!!」


 いつもの門番の男に怒鳴られ、五人の騎士が門の前を離れた。俺もすぐに盾を動かして街中の魔物のもとへ向かう。

 狂魔が二匹、水路沿いの家々を壊して回っていたので、俺は片方を狙って矢を射った。不意打ちだったおかげで仕留めることができたが、もう一匹の、二足歩行で顔がタコの狂魔に完全に捕捉されてしまった。

 狂魔が魔法を撃とうとするのを見て、俺はあわてて地面に降下する。飛んできた氷の塊を避けた後地面に降り、俺は盾を『収納』して弓を構えた。狂魔は俺から目をそらさずに魔法の準備をしている。俺の矢を避けてから魔法を撃つつもりなのだろうが、そうはさせない。

 俺は狂魔の目の前に盾を出現させ、またすぐに『収納』した。そして次の瞬間、狂魔はその場に倒れ伏した。眉間には矢が刺さっている。実は、盾を出現させた瞬間に俺は矢を射っていたのだ。盾を目くらましに使ったわけだが、上手くいったようでなによりだ。

 だが、すぐにまた魔物たちが次々と水路から上がってきた。さすがに正面からこの数を相手にしていては勝てない。俺が焦っていると、後ろから声が聞こえてきた。門の前からこちらに向かっていた第三班の騎士たちだ。


 「よく持ちこたえてくれた! 加勢に来たぞ!!」


 「おお、ありがとう! 助かった!」


 後ろから来た騎士たちはすごい速さで魔物たちに肉迫し、そのほとんどを一撃で仕留めた。狂魔相手にも門の前と同じような戦法を使い難なく撃破していく。陸の魔物を騎士たちが相手してくれている間に、俺は水路の中の魔物を殺すことにした。水中ではまともに避けられないので、威力の落ちた矢でも命中する。急所をそれたおかげで仕留め損ねた魔物もいるが、手負いの魔物如きが陸で待ち構えている騎士たちに勝てるわけがない。やがて陸の魔物はすべて殺され、魔物が水から出てきた瞬間に殺すという単調な作業が始まった。


 しばらく作業が続いたが、とうとう魔物たちが水路から出てこなくなった。俺も目の力を使って確認したので間違いない。魔物たちは水路からの侵入を諦めたようだ。俺と騎士たちは水路の上流に向かい、壁にたどり着いた。


 「よし、それではいったん水路をふさぐ。冒険者よ、お前も協力してくれ」


 「ああ、わかった」


 俺は冒険者ではないが、訂正する意味はないのでしない。もちろん協力も惜しまない。


 「この袋には土と砂が入っている。これで水路をふさぐぞ」


 騎士の一人が何もないところから袋を取り出してそう言った。今のは間違いなく『収納』の魔法だ。俺は初めて俺以外が『収納』の魔法を使うのを見て少し感動したが、騎士たちが作業に入ったのに気付いてあわてて袋を水路に投げ入れる。袋は重かったが、持てないほどではなかった。

 すぐに作業は終わり、一人の騎士が俺に言った。


 「俺達はすぐに門の前に戻る。お前も来てくれないか? 今も戦いは続いているはずだから、手伝ってほしい」


 俺はずっと門の前の戦いを手伝っていたのだが、騎士たちはそんなことを知る由もない。断る気はないので、俺は騎士に続いて門の前に向かった。



 おい、ちょっと走るの速過ぎるだろ! 待って、置いていかないで!!


 

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