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第十六話 事前準備は忘れずに

35


 「なあおい、お前もうあの噂を聞いたか?」


 「噂? あの竜人の女に恋人ができたってやつか?」


 「いいや違う。そんな甘酸っぱい噂じゃねえよ。もっと血なまぐさい、仕入れたてほやほやの噂さ」



 「なんでもな、今朝街中で魔物の死体がいくつも見つかったらしいぜ。しかもな、その死体には傷が一つしかないんだってよ」




36


 ああ、何故だ、何故あいつは俺を追いかけて来るのだ。この暗闇の中で、明かりも魔法も使わずにどうして俺にまっすぐ向かってくるのだ。タートを出る時には三人いた仲間も、もう俺一人しか残っていない。二人の仲間は、今頃地面に転がって本来の魔物の姿を晒しているだろう。その眉間や脳天から矢を生やしながら。


 俺達の作戦は順調だった。人間に化けて諍いを起こさせ、人々の心を弱らせる。タートに潜んでいる魔物は数を増やしている。タートの領主に化けた我らが隊長、初代魔王様の側近だったギーサ様が金を『転送』することにより、あの町の警備はもはや俺達の前には無意味だった。魔王様から派遣された狂魔も続々とそろい、タート付近の地下に待機しているという。後はギーサ様が最後の手を打ち、冒険者共がタートを去るのを待つだけ、そのはずだった。




 その知らせは唐突に訪れた。


 「俺達以外のやつらが全員殺された。この町にいる魔物はあと五匹だ」


 目の前の男(実際は雌雄同体の魔物だが)が言ったことを理解するのには数十秒かかった。意味がわからない。「俺達以外のやつら」というのは当然冒険者に化けている魔物のことだ。それが全員死んだ?  嘘を言うなよ。だって……


 「四十匹近くいるんだぞ……」


 「ああそうだ。正確に言うと四十四匹。昨日の夜のうちに三十九匹殺された。武器は恐らく弓だろう。全員が寝込みを襲われている。俺達はたまたま助かったんだ」


 「それをギーサ様は知っているのか?」


 「いや、今朝のことだから、まだ知らないはずだ」


 「な、なら早く報告しないと……」


 「バカを言うな。俺達は今すぐこの町を出ていくべきだ。ギーサ様ではなく、少し離れた地下の基地にいる副隊長に報告するのが先だ」


 「いや、こういうことは隊長に真っ先に言うべきだろ。この作戦のすべての責任はギーサ様にあるんだぞ」


 「大事なのは最悪の事態、このことが誰にも届かないという事態を防ぐことだ。考えてもみろ、最終的に魔物たちの指揮を執るのは副隊長だ。俺達の内部からのかく乱が期待できないことを、ギーサ様は知らなくてもいい」


 「そうは言っても、ギーサ様に話しさえしたら、『通信』の魔法で副隊長にも話が通るだろう? お前は隊長は知らなくてもいいと言ったが、知っておいて損は無いだろ」


 「……確かに、お前の言うことにも一理ある。なら二手に別れるのはどうだ? ギーサ様に報告する班と基地へ向かう班に、だ。そうすれば俺達以外を殺したやつも困るだろう」


 「それだ! 早速あの三匹にも話そうぜ!」


 そして、基地へ向かう三匹とギーサ様のいる屋敷に向かう二匹に分かれ、俺達は夜に行動を開始した。ちなみに夜にしたのは、昼間に(表面上は)普通の冒険者と領主が会うのはかなり不自然なことだからだ。


 そして、俺は今追われている。俺は今ただの人間だ。魔物だったころの力は全くない。殺されることへの恐怖はあるが、俺はどこかで安心していた。奴がここにいるということは、ギーサ様のもとへ向かった二匹は無事だということだ。つまり、報告は滞りなく行われるということ。ああ、よかった。

 何かが空気を切る音が聞こえたが、俺はその音の正体を知る前に永遠の眠りに就いた。


37


 最後の魔物を殺した俺は『身体強化』を解除し、安心してため息をついた。これで町に残っている、魔物が化けている人間はいない。小癪にもこいつらは二手に分かれたが、町の中の魔物を殺した後、盾に乗って全速力で追いかけたら普通に間に合った。

 ちなみに昨日はのんきに寝ている魔物たちを殺して回った。宿屋の窓を何枚か割ってしまったが、皆殺しにできたのでなによりだ。当然矢は『収納』で回収してある。

 さて、明日の作戦実行までにできることはすべて終わった。今日はもう宿屋に戻って、明日の領主の演説に備えてさっさと寝よう。まあ、明日一番大変なのは俺ではなくバーバラなのだが。


38


 「はあ……」


 ボクはかなり緊張していた。明日、この町を救えるかどうかはボクの働きにかかっていると言っても過言ではない。ベッドに入っていても眠れそうにないので、ヤバネが言った作戦を頭に叩き込みながら、ボクはスライム退治の後のヤバネの言葉を思い出していた。



 「───ていうのが作戦だ。ところで、次領主が大勢の前に出るのはいつだ?」


 「ええとね、三日後に演説があるよ」


 「よし、じゃあ作戦は三日後だな。バーバラ、頼めるか?」


 「うん、いいけど……。本当にこの作戦でいいの?」


 「は? 何でそう思うんだ?」


 「だってこの作戦じゃ、まるでボクが……」


 「……そうだ、その通り!」


 そこで、急に上機嫌になったヤバネに話を遮られた。そういえばボクは、何度もヤバネの話を遮ってたかも! って、いやいや。今はヤバネの話に集中しないと。

 だけど、ヤバネの言った言葉はボクを混乱させるのに十分なものだった。



 「三日後に、お前には『英雄』になってもらうぞ、バーバラ」


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