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第十二話 大事な話

26


 『沈黙』の魔法の効果は、使った人間が解除しない限りは丸一日続くそうなので、この日はお開きになった。俺はバーバラに教えてもらったお勧めの宿屋に向かっている。二食付きで一泊三千ユピトなので、タートの宿屋の中では安い方である。

 なんとかジェスチャーでチェックインを済ませて、部屋のベッドの上に寝転んで考えを整理する。

 俺が鏡の神器を探していたのには理由がある。騎士団の詰所で門番から話を聞いてから、俺はずっと領主に対して疑念を抱いていた、乱暴な冒険者が急に増えたのはここ最近らしいが、最近町に起こった変化といえば、十年前に領主が変わったことだけだったからだ。理由がこれだけならただの俺の妄想にすぎないが、どうしても気になった俺は暇さえあれば目の力を使って領主のことを監視していた。


 まず、領主の姿は人間のそれではなかった。だが、周囲の人間はそれが普通であるかのように領主に接している。監視を続けると、領主が愛おしそうに鏡を撫でているのを見たため、あの鏡で人間に化けていると俺は考え、図書館で鏡の神器を探していたのだ。結果は大当たりで、あの神器によって領主は人間に化けていたのだろう。

 以前例の少女に襲われたとき、彼女は周囲から自分の姿を隠す魔法を使っていたが、俺の目の力の前にはその魔法は無力だった。これは、神器の方が魔法より勝っていることを意味している。恐らく、あの神器は『看破』の魔法も誤魔化せるのではないだろうか。

 そして、領主だけが化けているわけではない。門の前の行列の中にも、タートの冒険者の中にも、人間の姿に化けている異形の存在がいる。目的はわからないが、人間の得になるようなものではないことは明らかだ。

 だが、まだ弱い。この仮説はほとんど正しいと俺は思っているが、心の中にはまだ納得していない自分がいる。正直、この騒動は俺一人でもどうにかできる。あいつらは慎重にことを進めているようだが、作戦がばれるとは微塵も思っていないようだ。ばれる可能性を考慮したら十年も時間をかけずにもっと急ぐだろう。だが、俺が何の迷いもなく動けるようにするにはあと少し証拠が欲しい。なんとか、やつらがちょうど変身している現場を押さえられないだろうか。だが、それは過去でも見ないと無理だ。


 ……ん? 過去を見る? 確か、『大地の瞳』の力は……


27


 翌朝、俺は図書館に向かった。早朝だから開いているか不安だったが、タートの図書館の職員は働き者のようだ。扉を開けると、昨日の受付の女性がいた。彼女はこちらを見るや否や不機嫌そうな顔になるが、俺は気にせず受付のカウンターに迫る。受付の女性は驚き、そしておびえたような顔になるが、どうでもいい。目的はただ一つだ。

 俺は受付の女性に紙を渡し、腰を九十度曲げて頭を下げた。紙は宿屋のご主人に貰ったもので、こう書かれている。


 『もう二度と図書館では騒がないと約束するので、この魔法を解除してください』 


 紙と頭を下げた俺を見比べて、受付の女性は言った。


 「あ! そういえば魔法を解くの忘れてました!」


 図書館では静かにしろよ。俺はそう言おうとしたが、口にはしなかった。というよりできなかった。


28


 平謝りしてきた受付の女性を振り切って、冒険者ギルドに行くとバーバラが立っていた。よかった、ここ以外にバーバラが行くところに心当たりがないから、もしいなかったら目の力をフル稼働して町中を探さないといけないところだった。バーバラは俺に気付いて手を振り、駆け寄ってくる。


 「ヤバネ! おはよう!」


 「ああ、おはよう」


 「ねえ、今日は何を倒しに行く? いつもボクが選んでるから、今日はヤバネが選んでいいよ!」


 「いや、今日は大事な話があるんだ。魔物退治はそのあとでいいか?」


 そういうと、バーバラの顔は彼女の髪の毛のように真っ赤になった。もしかしたら俺の言い方が悪かったか?


 「え、ええっ!? だ、大事な話!? ボクに!? 男女の大事な話といったら、アレしかないよね。そ、そんな、ボクたち友達なのに……」


 やはり勘違いしているようだが、まあ訂正するまでもないだろう。話を聞いてくれるようなので、他の誰かに聞かれないように、俺は昨日泊まった宿屋の部屋へ向かった。



 「お客さん、女を連れ込むなら別の宿にしてもらわないと。うちはそういう所じゃないんですから」


 「いえ、すぐ終わるので大丈夫です」


 「いや、お客さんが早いとかそういう話じゃなくて、うちの宿のイメージがですな」


 急いでいるので、俺は宿屋のご主人に三千ユピトを渡した。


 「どうぞごゆっくり」


 チップを払った俺が言うのもなんだが、それでいいのかご主人。とはいえ許可が出たのでバーバラを部屋に案内するが、顔を真っ赤にしてうつむいていて、その場から動く気配がない。仕方がないので、俺はバーバラを安心させるように言う。


 「バーバラ、大事な話っていうのは、お前への愛の告白じゃないし、部屋に連れ込んでお前にあれこれしようとも思ってない。どうしても信じられないなら、俺は部屋の中から話すから、お前はドア越しにでも聞いててくれればいい」


 「そ、そんなこと全然考えてないから! ボクはヤバネのこと信じてたから!」


 そう言って、バーバラは俺の借りている部屋に入って行った。その発言がまさに俺を疑っていたことの証拠だと、バーバラは気付かないのだろうか。


話が全然進まないですね

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