第九話 魔物と冒険者
バーバラの髪の毛が赤いという描写が抜けていたので、前の話を少し修正しました。本筋に大きく関わるわけではないとはいえ、これからは人物描写もしっかりやります。
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「順を追って話そう。まず、タートではここ数年で素行の悪い冒険者が増えた。具体的に言えば、酒に酔って暴れたり、魔法を使った市民への強盗や脅迫などだ。魔物退治の依頼を受けておきながら、いつまでも魔物を放置しているということもあった。我々騎士の主な仕事はタートの治安維持だから、幾度となく冒険者を取り締まった」
「あの女の子は、両親が殺されたと言っていましたが」
「ああ。魔法で相手を脅すつもりが、相手が要求に応じないから思わず魔法を撃ってしまい、その結果市民が死ぬという事例が何件も起きている。普通の市民には冒険者と戦う手段などないから泣き寝入りするしかないが、あの女は『透明化』の魔法を使えたから犯行に及んだのだろう。言うまでもなく動機は復讐だ。殺されたのは男が四人に女が一人。年齢に差はあるが、全員が下級の冒険者だった」
「つまり、そんなに強くない人たちを選んで殺していたんですか?」
「ああ、そうだ。そして、この連続殺人によって一部の冒険者は怒り、市民への蛮行はより苛烈になった。もう間もなく、第二のあの女が現れるだろう」
門番は大きなため息をつき、話を締めくくった。
「今では冒険者は不要だという意見もある。私はその意見に賛成はしないが、冒険者になる基準をもっと厳しくするべきだと思っている」
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「ヤバネ! おはよう!」
「ああ、おはよう。バーバラ」
門番の話が終わった時にはすっかり日が暮れていたので、俺は騎士団の詰所に泊めさせてもらった。ついでに朝ごはんもごちそうになった。
詰所を出て冒険者ギルドの前に来るとそこにはすでにバーバラがいて、元気な挨拶をしてきた。彼女の角と尻尾と赤い髪は遠くからでもよく目立つ。
「悪い、待たせたか?」
「ううん、昨日はいつ集まるか言ってなかったもんね。気にしなくていいよ」
「ちなみに、どれくらい待ってたんだ?」
「ええっと、日付が変わってすぐ家を出たから……」
「……悪かったな、本当に」
バーバラと待ち合わせをするときは、ちゃんと時間を決めよう。俺はそう心に誓った。
「ええっ!? だ、だから気にしなくていいって! 楽しみ過ぎて、ボクが早く来ちゃっただけだから!」
「それで、今日も魔物退治か?」
「うん! 今日はね、ジャイアントを倒しに行くよ!」
「はあ、ジャイアント」
ジャイアント、つまりは巨人。俺の本能が行くなと言っているが、まあ、バーバラがいるなら大丈夫だろ。
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「いやあああああああ! こっちに来るなあああああああ!」
「ヤバネ! こっちだよ! ボクの方に来て!」
ジャイアントというのは、高さ三メートルくらいの二足歩行の魔物だった。体毛は一切なく、目が赤く光っていて、体からは黒い煙が噴き出している。その巨体のパワーとスピードは圧巻の一言で、手に持っている棍棒をまともに食らえば一撃でペチャンコになるだろう。俺は必死に逃げ回り、バーバラの後ろに回った。
「ヤバネ、常にボクがジャイアントとヤバネの間に入るように動いてくれる?」
「よ、よし、わかったぞ、任せてくれ」
息も絶え絶えだが、ジャイアントが迫ってきている。俺は『身体強化』を使って、バーバラに言われた通りに動き、援護に徹することにした。
「『身体強化』! そして『火球』!!」
バーバラの魔法がジャイアントに命中した。ダメージを受けたようには見えないが、ジャイアントの足が止まった。この隙を逃すわけにはいかない。俺の射った矢はジャイアントの眉間にまっすぐ飛んで行ったが、棍棒ではじかれた。射られた矢に反応するとか、こいつは化け物かな?
「『火球』が効いてない!? ええい、だったら『大火球』!!」
バーバラの放った火の玉はさっきのものより大きかったが、明らかにスピードが落ちている。ジャイアントに届く前に避けられてしまった。なかなかの強敵だが策がないわけではない。俺は弓をより長くして、バーバラに向かって叫ぶ。
「バーバラ! 攻撃をお前の『大火球』に合わせるぞ!」
「うん! わかったよ!『大火球』!!」
バーバラの魔法を追い越して、俺の矢がジャイアントへ向かう。弓が長くなった分さっきよりも威力は増しているのだが、これも棍棒ではじかれてしまった。
だが、俺の矢に気を取られすぎたな!
棍棒を振りぬいた直後に、バーバラの魔法がジャイアントに直撃した。
「!!!!!!!!!!!」
「くそっ、まだ足りないのか!?」
だが、ジャイアントはまだ倒れない。それどころかすさまじい音量の咆哮を上げて、再びこちらに走り出してきた。
「おかしいよ! ジャイアントは魔法に弱いのに!」
バーバラが叫ぶが、それで状況が好転するわけでもない。先ほどより激しくなった攻撃をかいくぐりながら、バーバラは反撃のチャンスを狙っているようだ。
当然俺も黙って見ているわけにはいかない。急所を狙うのを諦めて、棍棒が届かなさそうな足や手の先を狙うことにした。するとジャイアントは急に俺の矢を無視するようになった。馬鹿な奴だ。俺は矢を少し上に向けて射った。いわゆる曲射だ。その矢はジャイアントの左足の甲を貫通して地面に刺さる。ジャイアントはまた大声を出して左足を動かそうとするが、かなり深く刺さっている矢は抜ける気配がない。その隙を見逃すバーバラではなかった。
「『炎爪』!!」
空を飛び、ジャイアントの顔面に魔法で作った爪を突き刺す。そして次の瞬間、ジャイアントの顔は燃えあがった。爪を引き抜いたバーバラはジャイアントから少し距離を取って空中でとどまり、何発か火の玉を顔面にぶつけた。俺も矢を射って、ジャイアントのこめかみを貫く。たたみかけるような俺たちの猛攻を受け、ジャイアントはようやく倒れた。




