第八話 門番曰く
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「……何の用だ」
「いや、犯罪者を捕まえたんですけど、ここって取り締まりをしてくれますよね?」
俺は余った服で少女の腕を縛り、盾に乗せてタートの門まで運んできた。腕を縛った時にかなり抵抗されたので、暴れる気を起こさせないための措置である。門の前に来たのは、俺が頼れる人が、バーバラとこの門番の男しかいないからだ。俺はバーバラの家を知らないので、消去法でここに来るしかなかったのだ。
「……それで、その犯罪者とやらはどこにいる?」
「え? ここにいるじゃないですか」
すでに少女を盾から降ろして、俺の隣に立たせているのだが、この人は一体何を言っているのだろうか。少女は得意げな顔で俺を見ている。
さてはお前、何かしているな?
「私は休憩中だ。からかうつもりならさっさと――――。いや、少し待て。……『看破』」
そう言った門番の目に魔力が集まっていく。『カンパ』という魔法を使ったらしく、少女の表情が焦ったものに変わった。状況からすると『看破』か?
『大地の瞳』のおかげで、魔力の動きが俺にも見えるようになった。
以前バーバラに聞いたのだが、魔力というのはいたるところにある、正体がよくわかっていない物質らしい。当然人間の体の中にもあるので、その魔力を消費することで人間は魔法を使えるのだ。
ちなみに俺の『神器製作』は、俺の魔力ではなく空気中の魔力を使っているから無限に使うことができるのである。少女の全身は魔力で覆われているので、周囲から目をごまかすことのできる魔法を使っているのだろう。
「……確認した。お前には今からその女と一緒に騎士団の詰所に行ってもらう。もしお前がその女に濡れ衣を着せようとしているなら諦めろ。騎士の目は絶対にごまかせないからな」
「いやいや、そんなことしないですって」
この門番は俺のことを何だと思っているんだ?
「そうだろうな。……おい、私は少し席を外すが、何かあったら『通信』ですぐに連絡しろ」
門番は近くにいた鎧姿の男に声をかけ、俺たちの方に向き直した。
「さて、それでは付いて来い。……くれぐれも、逃げようなどとは思うなよ」
「ひっ」
門番の、ウルフよりも、俺が最初に戦った謎の犬よりも鋭い眼光に射抜かれた少女は小さな声を漏らし、その瞬間彼女がまとっていた魔力は霧散した。
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「まず、この水晶に両手を置け。それではお前があの女を拘束するに至った経緯をすべて話せ。嘘は通じない。この水晶は嘘を吐いた時の魔力の乱れを感知する物だ」
俺は騎士団の詰所の一室に連れてこられ、門番の男とテーブルをはさんで向かい合って座った。言われた通りにテーブルの上の透明で大きい水晶に手を置き、路地裏で起こったことを包み隠さず話す。
「お前の話はわかった。女が持っていたその刃物はどこにある?」
「ああ、それならここにありますよ」
少女を縛って盾に乗せた後、俺は刃物を拾って『収納』していた。証拠になると思ったからだ。俺はその刃物をテーブルの上に出現させる。
「『収納』か」
門番は特に驚いた様子もなく、刃物を隅々まで注意深く観察している。
「これを本当にあの女が持っていたんだな?」
「はい、間違いありません」
当たり前だが、水晶は全く反応しない。
「そうか……」
門番はずいぶんと上機嫌のようで、刃物を見ながらにやにやと笑っている。俺はその理由を尋ねることにした。
「あの、何でそんなに嬉しそうなんですか?」
「ん? ああ、私はそんなに嬉しそうだったか。まあ待て、あの女の取り調べの結果が出たら教えてやろう。そうだ、それまで時間があるだろうから、少し話でもするか。どうだ、何か質問はないか?」
門番は笑みを崩さず、俺にそんな提案をしてきた。パンをくれたし、この人が実は心優しい人だということはわかるが、こんなにあからさまに優しくされると不気味に感じる。とはいえありがたい申し出だ。俺は素直に受けることにした。
「じゃあお言葉に甘えて聞きますけど、何でタートに入るのに二万ユピトもかかるんですか?」
ずっと気になっていた。町に入るのにお金をかけるというのはわかる。だがその金額が高すぎるのだ。この町の物価と比べると、その差は一目瞭然だ。
「……その制度は、今のタートの領主様が始めたものだ。二代目魔王の出現に伴い、活性化している魔物を町に入れないためのものだと聞いている」
「え、魔物を入れないことと金を払わせることに何の関係があるんですか?」
「一部の魔物は人間に化けることができる。これは初代魔王のいた時代の記録にも残っている正真正銘の事実だ。だが、どれだけ巧妙に化けても、たとえ『看破』の魔法をごまかせるとしても、人間の使っている硬貨を魔物が手に入れることはできない。二万ユピトという大金ならなおさらだ」
「ははあ、だから町に入るのにお金をかけていると。領主様は頭がいいですね」
「ああ、本当に聡明なお方だ。十年前にこの町での職務に就いてから、さまざまなことをされてきた。あの水路もそうだ。お前も見ただろう? 今までの二倍近くの広さになったおかげで、タートの農家は大喜びだ」
そういう門番の顔は、どこか憂いを帯びているように見える。俺は少し突っ込んだ質問をすることにした。
「そう言う割には、あまり嬉しそうじゃないですね。何か不満でもあるんですか?」
「……騎士として、門番の職務をしているとな、以前のお前のように金を払えない者を門前払いすることが何度もある。その度に、私がしていることが本当に正しいのか、わからなくなるのだ」
門番は、静かにそう言った。そして無理に明るく振る舞おうとするように、不自然な大声で続けた。
「まあ、その者たちが魔物かもしれないからな、心を鬼にしなくてはならないだろう。ただ私が甘いだけだ」
「いや、それは―――」
違うと思います。そう言おうとしたが、部屋の扉を開けて若い騎士が入ってきたので、口にすることはなかった。
「ノックもせずに大変申し訳ありません。急いで報告したいことがあります。例の少女ですが、犯行をすべて認めました。また、過去五件の殺人についても『自分がやった』と述べています」
「そうか。こちらでも確認した。あいつの持っていた刃物は被害者の傷口の大きさと完全に一致する。『魔法封印』を使って、地下牢に閉じ込めておけ」
「はっ、かしこまりました。それでは失礼します」
報告を終えて、若い騎士は部屋を出て行った。
「さて、それでは約束通りに話そう。我々騎士が血眼になって捜していた、ある殺人鬼の話だ」
門番は、俺の目をまっすぐ見て語りだした。




