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若干チートな英雄(?)は、無双と呼ぶには弱すぎる  作者: まとりーる
第五章 決戦は終点ではなくて
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第四話 今、ここに集結



 それからは嵐のような毎日だった。

 魔物の群れはひっきりなしに襲い来る。狂魔なんて当たり前。タートでの戦いが可愛く思えるほどの激戦が続いた。

 当然俺も毎日のように出撃した。『大空の盾』で空を飛んで、怪我をした人を回収し、強力な魔法を使う狂魔を狙撃したり、まあそこそこの活躍はしたと思う。

 そのせいか、いや、そのおかげでと言うべきだろう。俺が『神の使者』であることを王様が明かしたこともあり、一躍俺は有名人になった。注目を浴びるのはやっぱり苦手だが、そんな甘えたことは言っていられない。俺は英雄になると決めたのだから。

 早朝から戦場に向かい、いろいろな所にお呼ばれして深夜に帰ってくる生活が続いた。ユリアにも心配されるほどの忙しさだ。(ちなみにユリアとマーガレットと同じ部屋で寝泊まりしている)

 俺が必死に頑張ったおかげかどうかはわからないが、ここのところ人間側の士気は高い。そして今日、その士気はさらに高まることになるだろう。

 残り二人の『神の使者』がとうとう王都に到着したのだ。



10



 あれが英雄……?


 違う。違う違う違う違う!


 あいつは悪魔だ。魔王の手先なんだ。


 森の奴らと組んで私を、私たちを……!

 

 許さない。絶対に許すものか。そこに立つべきなのはお前じゃない。お前がそこに立つ資格はない。


 殺す。殺してやる。たとえどんな手を使ってでもお前を殺す!


 私たちから全てを奪っておいて、どうしてお前が笑っている!


 ああ、私が生きていたのはきっと、この時のために────



11



 王都は歓声に包まれた。

 世界を救った英雄、『神の使者』。かつて勇者カケル一人だったそれが今、この王都に三人いる。長く続いた小競り合いで疲弊した人々にとってこれほどの吉報があるだろうか。

 先んじて王都に駆け付けた東堂矢羽。ビリン改革の立役者、佐藤一郎。そして『森の三種族』との終戦協定の仲介人、夜闇狂也。

 今日馬車で王都に到着した一郎と狂也、その堂々たる佇まいはまさしく英雄と呼ぶにふさわしい。『神の使者』であることを証明する特異な服、そして身にまとう強大な魔力と装備したいくつもの神器。また彼らが連れている女たちに王都の人々は釘づけになった。


 「聞け! 我が王都の民よ! 長く続く魔王との戦い、苦境に喘ぐ我らを救わんと、遥か彼方より英雄たちが駆け付けてくれた!」


 王族しか立つことを許されない城のバルコニー。しかし今、そこには王の他に三人の男がいた。一人は微妙にひきつった笑みを浮かべ、一人は真剣な顔で背筋をぴんと伸ばし、一人は集まった観衆に冷めた視線を向けている。


 「これぞまさに天恵! 穢れた魔物どもをカーケル大陸から追放する時が来た! 我はここに宣言しよう」


 沈黙。しかし冷めてはいない。この大陸に住まうすべての人々が待ち望んだ瞬間が、今まさに訪れようとしているのだ。


 「明日、我ら『カーケル連合軍』は、朝日とともに魔王国に総攻撃を仕掛ける!」


 その時だ。王の頭上に突如ひと振りの剣が現れた。淡く輝くそれはふわりと落下し、狂也の手に収まった。そして、太陽すら霞むほどの輝きを放つ。かつて世界を救った勇者の象徴、『聖剣』が舞い降りたのだ。


 「うおおおおおおお!!!!!」


 集まった誰もが声を上げた。最早勝利を疑う者はいなかった。

 決戦は明日。異邦の英雄を筆頭に、人々は悪の象徴に挑む。


 運命が誰に微笑むのか。それは、神さえも知り得ないことだ。



12


 

 「キョウヤ様、お疲れ様でした」


 「いいや、別に疲れてないよ」


 「何を言う。大観衆を前にしてあの堂々さ。未来の妻として私も鼻が高いぞ」


 「何が『未来の妻』ですか! キョウヤ様の妻はレットただ一人ですぅー!」


 「いいえ、キョウヤ様と添い遂げるのはこのアリアと決まっていますので」


 「うっさい貧乳!」


 「へえ……。良いでしょう。魔王の前にあなたを地獄に送って差し上げます」


 「喧嘩しないでよ。はあ……やれやれ」


 いや、いやいやいやいや。ちょっと待てよお前、「やれやれ」じゃないよ。


 「ん? さっきから何じろじろ見てんの?」


 「ああ、いや、悪い。なんでもないんだ」


 「あっそ」


 キョウヤと呼ばれた男。元勇者を殺して『聖剣』の持ち主になった男は数人の女を連れていた。問題なのは」、そのうちの一人に見覚えのある顔がいることだ。

 水色の髪。あの媚びるようなキンキンと響く声。間違いない。あれは元勇者が連れていた女の一人だ。神祖でも一番弱い奴でもない女。

 初対面の時はそれはそれは突っかかってきたものだが、特に俺に対しての反応はない。


 「うわ……なんですかあの目。嫌ですねホント、気持ち悪い」


 いや、見られたことに対して嫌悪感を隠さずにいるが、声をかけてくるようなことはない。まさか俺のことを忘れたのか?

 その後女たちは、いかに世の男が愚かなのか、いかにキョウヤが素晴らしいのかを大声で話しながら去って行った。……よくわからない。


 「おう、元気してたか?」

 

 「あ、イチローさん」


 「私もいるわよ!」


 声をかけてきたのはイチローとシーナだ。ビリンにいるときにお世話になった。


 「シーナ、先に部屋行ってろ」


 「え、なんで?」


 「いいから!」


 渋々といった様子でシーナがこの場を離れる。


 「お前がここにいるとは思わなかったよ、矢羽」


 「そ、そうですか……」


 「ああ。前会った時と違って、いい顔してるな」


 「え?」


 「少し心配だったんだ。お前、自分の意思で動いてるように見えなかったから」


 おおっと、それはかなり耳が痛い。ラダリアといい結構見抜かれているな。俺はそんなにわかりやすいのか?


 「でも吹っ切れたみたいだな。よかったよかった。じゃ、明日頑張ろうぜ」


 「……はい、お互いに」


 意外だ。気にかけてくれていたのか。ビリンを変えてくれたらしいし、いつかお礼をしないとな。

 それにしても、「吹っ切れた」か。よかった。俺はやっぱり変われているらしい。



13



 待って、待ってよ!


 レット、私! 私だよ!


 どこに行ってたの? その男は誰? ヨシミツは、マーズはどこに行ったの?


 こっちを見てよ、レット! レット……!


 どうして……? やっと会えたのに……


 ……これも、あの男のせいなの?


 そうよ。そうに決まってる。全部あの男のせいだ!


 名前は聞いた。絶対に忘れない。仲間のために、私は絶対にお前を殺す!


 待っていろ、ヤバネ。お前のすべてを奪ってやる……! かつて私たちがされたように!


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