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はじまり

初投稿です。シリアスになりすぎないようにしたいと思います。


 「君はトウドウヤバネ君、だね?」


 ここはどこだ? どうして俺はここにいる? 確か部活が終わった後───あれ、思い出せない

 俺は困惑していた。この一面真っ白ななにもない空間にも、俺の今の服装にも、俺がここにいる理由にも、そして男の俺でも思わずドキリとするような、この渋い声の持ち主にも、まったく心当たりがなかったからだ。

 

 「トウドウ ヤバネ君、トウドウ君? おーい」

 

 この人は誰だ? どうしておれの名前を知っているんだ? いや、そもそもこの人はどこにいるんだ?

 さっきも言ったように俺の周囲は真っ白で、誰かがいるようには見えない。当然、この声の持ち主(間違いなく男)も見当たらない。自分の姿は確認できるから、強い光が当てられているわけではなく、壁と天井と床が白いだけのようだ。まあ、壁と天井がどこにあるかがわからないくらい、この空間は広いのだが。


 変なところだ、暑くも寒くもない。というか、この服はなんだ? 俺は制服に着替えたはずなのに……

俺が着ていたのは制服ではなく、やけにごわごわするくすんだ緑色の上着と、かろうじてベージュに見えないこともない色のズボンだった。当然、俺はこんな服をもっていない。


 「無視しないでくれよ、トウドウ君。私の声は聞こえているだろう?」


 これはあれか、夢か?

 試しに頬を思い切りつねってみる。

 痛い、夢じゃないのか? 夢じゃないならこれは一体……


 「……ねえ、もしかして君はトウドウ君じゃなかったりしちゃう?」


 俺はずっと男の声を無視していたことを思い出した。失礼極まりないことだ。男の声が不安げなものになったことに気付き、俺は思考をいったん中断した。


 「ああいや、俺は間違いなく東堂矢羽です。すみません、考え事をしていました」


 俺は敬語で話すことにした。初対面の(対面はしていないが)相手だが、声から判断すると間違いなく俺より年上だ。この声で俺より年下だったら驚きである。


 「そうか! いやあ、よかったよかった。もし間違いだったら大変なことになっていたからね」


 俺の言葉を聞いて男は安心したようだ。声からは先ほどまでの不安な様子は消え、心なしか嬉しそうだ。

 

 だが、すぐに男の声色が真剣なものに変わった。 


 「考え事をするのも無理はない、こんなことはめったに起こらないからね。不安な気持ちにもなるだろう。聞きたい事や言いたいことがたくさんあると思うけど、あいにく私は忙しいんだ。だから早速今から君への要件を手短に話すよ。まあ、私の話を聞いていれば、君の疑問のほとんどが解消されると思うけどね。」


 どうやら男から今の状況についての説明があるらしい。ずいぶんと唐突だなとか、人を呼ぶなら忙しくない時にしろよなどと思いながら、決して聞き逃さないように、俺は男の話に耳を傾けた。


 さて、単刀直入に言おう。君には、君が今まで住んでいた世界とは違う世界、カーケル大陸という所に行って『魔王』を倒してほしい。

 え? 魔王は魔王だよ、ゲームとかに出てくるあれだ。

 まあ、魔王については向こうに着いてから自分で調べてくれればいいけど、とりあえず世界征服を企む人間の敵だとだけ言っておこう。


 ……いやいや、今の君をそのまま異世界に行かせるわけないだろう? ただの人間が挑むには魔王はあまりにも強大すぎる。私よりは弱いけど。だから異世界に行ってもらうに当たって、君には特別な力を与えよう、『魔法』と『神器』だ。


 ……トウドウ君、私は忙しいと言っただろう? そう矢継ぎ早に質問されると、私の話が進まないじゃないか。仕方ないな、簡単に言おう。魔法とは魔力を使ってある特定の現象を起こすことだ。こんな風にね。

 どうだい、まったく声が出ないだろう? これは『沈黙』の魔法だ。悪いけど話が終わるまで黙っていてもらうよ。


 さて、話を続けよう。神器とは、私たち神によって作られた道具のことだ。とても頑丈なうえに、それぞれが不思議な特性を持っているんだ。人間の力じゃ絶対に作れないようなものが神器だと思ってくれればいいよ。

 どうだい? 自分にはどんなものが与えられるのか、わくわくしてきただろう? 時間さえあれば君に自分で選んで貰ったんだが、今回は私が選んだもので我慢してくれ。

 まず魔法が四つ、『止血』『身体強化』『収納』そして『神器製作』だ。すごいだろう? 君は人間でありながら神器を作る権利を得たわけだ。こんなチートをもらえるなんて君は幸運だね。しかも、『収納』と『神器製作』は魔力を消費しないで使えるんだ。私からのサービスだよ。

 まあ、君の魔力の量だと『止血』は一日十回、『身体強化』は一日三十分くらいが限界だろう。君は今まで魔力のない世界にいたから仕方ないよね。詳しくは向こうに行ってから自分で確かめてくれ。百聞は一見に如かず、だよ。


 ああいけない、つい話しすぎてしまうね。うん、ここからは簡潔にいこう。


 君の神器は三つだ。自由に形や全長を変えることができる『自由の弓』、空中を自由に移動させたり、好きなところで固定させられる『大空の盾』、そして未来以外のすべてを視認することができる『大地の瞳』だ。どれもとんでもない代物だということはわかるだろう? こんなに貴重なものをあげるんだから、絶対に魔王を倒してくれよ?

 さて、私が話したいことはこれで全てだ。いきなり黙らせて悪かったね、もう話してもいいよ。



 俺は困惑していた。確かに説明はあった。もっと雑に済まされるのではと思っていたが、意外と丁寧に教えてくれたように思う。しかし、疑問は解消されるどころかさらに増えてしまった。


 「……全然納得してなさそうだね」


 「はい、疑問が増えてしまいました」


 「うーん、じゃあ最後に三つだけ教えてあげるよ。なんでも聞いてごらん」


 なんで俺がわがまま言ってるみたいな雰囲気出してるんだよ!

 俺は心の中で憤ったが、当然口には出さない。この男は自分を神だと言ったし、俺がまったく話せなくなったのもこの男の仕業だろう。おそらくその気になればこいつはいつでも俺を殺せるに違いない。ならば逆らわずに、最も重要な三つの質問を考えて聞くしかないだろう。とはいっても、どうしても気になることはちょうど三つなのだが。


 「なんで魔王を倒すという大役を俺に任せるんですか?」 


 「一つ目の質問だね。君には特別な才能があるからだよ。それは君が一番よくわかっているだろう? ちなみに、魔王を倒すためにカーケルに行くのは君だけじゃないから、どうしても不安ならその人たちと協力してもいいよ。おすすめはしないけど」


 実は自分でも薄々気づいてはいたが、やはりこいつは俺の才能、弓を扱う才能をあてにしていたのか。俺が物騒なことに選ばれる理由などそれしかない。いや、そんなことよりも思わぬ素敵なことを聞いた。俺以外にも魔王を倒すための人員はいるらしい。魔王退治はその俺以外の人たちに任せることにしよう。次は二つ目の質問だ。


 「そのカーケル大陸というところは日本語が通じるんですか?」


 「え、ああ、うん、通じるよ。実はカーケルは私と日本の神々が協力して作ったんだよ、うん。さあ、質問はあと一つだよ」


 通じるのか…… 聞いておいてなんだが、日本語が通じるのはおかしくないか? それは本当に異世界といっていいのか? 異世界である必要はあるのか? だが言語を覚えるという苦労が減るのは嬉しいことだ。前向きに考えよう。そして、俺は一番気になっていた質問をすることにした。


  「カーケル大陸に行っている間、俺は日本でどういう扱いになるんですか?」


  「……そうだね、君にはそのことを話してなかったね」


 神の声が悲しげな、哀れむようなものに変わる。……なんだかとんでもなく嫌な予感がする。


 「東堂矢羽、君は学校からの帰り道で信号無視した車にはねられたんだ。頭を強く打って即死だったそうだよ。享年17歳だ。……死んだ生き物か、あるいは神じゃないとここにはいられないんだ」


 俺は言葉を失った。視界が真っ白になるような感覚に襲われる。……この空間はもともと白いから、視界が真っ白なのは当り前か。


 「君の気持ちは痛いほどわかる。だが立ち止まらないでほしい。さあ、もう時間だ。どうか魔王を倒し、カーケル大陸に平和をもたらしてくれ!」


 そんな神の激励の言葉を聞きながら、俺は何かに強く引っ張られるような感覚を覚え、いつの間にか意識を失っていた。



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