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アイツラ  作者: 岸上時雨
3/8

ボクラ3

(三十分前)


 園内に入場した時、一番最初に感じたのは、『違和感』だった。


「わー! やっぱり、いつ来ても凄いなぁ!」


 奈々はまともな乙女のようにはしゃいでいるので、()()には気づいてはいないらしい。というか、大きくそびえ立つ城などに目を奪われていて、..が視界に入っていないのだろう。裕人の方は……


「ん? どうした。雰囲気に圧倒されて、声も出ないのか?」


 適当な調子で笑いかけてくるが、気付いてはいるらしい。表情に疑問符が浮かんでいる。まぁ、わざわざ聞く必要もないが。


「何でもねぇよ。それに興味もない」


 スケールはでかいだろう。施設は煌びやかで豪華なのだろう。まさに夢の楽園。時間も現実も忘れて遊べるといううたい文句も冗談ではないはずだ。が、そんな楽園の従業員の()()()()なのは如何いかがなものだろう。

 笑顔を振り撒き、献身的に努めてはいる。努めてはいるが、やはりその違和感は拭えない。

 死人。そんな感じの言葉が似合うほど、一人一人の瞳に生気が感じられなかった。何か魂が抜けているような感じで、まるで中身だけ……

 っ、僕は何を考えているんだ。あんなのただのウワサだろ。それにこいつらは自由気ままな客じゃない。従業員だ。それなりの重労働が夢の楽園を支えているのだろう。そう思うようにして、僕は思考を終了させる。これ以上考えても意味のないことだ。今は、無理矢理連れてこられたにしろ、少しは楽しむべきだろう。

 視線を奈々に戻すと、彼女はどこから取ってきたのか、パークのパンフレットを広げて、


「ねぇ、これ乗ろうよ! なんか楽しそう!」


 すっかり気分は乙女らしい。口調が少女だ。


「ん、どれ?」


 裕人が覗き込むように見るので、僕もそれにならって、パンフレットを見てみる。

 奈々の指さす先、そこにはでかでかと大きい文字で、『アクアツアー!』と書かれていて、アトラクションの設置場所が記されていた。見出しは、


「小型ボートで未知の大陸を探索!! 皆で一緒に、今年最高のスリルを楽しもう!!」


 パークの一押しなのか、とにかく目立つような色彩の使い方だ。極彩色にも近いので、逆に興味を失くしたが。


「ねぇ、有澤さん。これ、人気そうだし、混むんじゃないかな。長時間待つことになると思うけど大丈夫?」


 裕人が心配するように声を掛ける。出来たイケメンなことで。あと、頭が良ければ完璧だったのが悔やまれるな。裕人の話を聞いて、奈々は複雑そうな顔をした後、首を振る。


「ううん。えっと、このアトラクションはね。ドリームランド内だとダントツに不人気らしいの。こんだけ宣伝しているのにおかしな話なんだけど……」


 ほう。ダントツで不人気か。これは何かあると見たな。


「その不人気に理由とかってあるのか? ……あぁ、理由がなきゃ誰も気にしたりするはずがないんだけどな」

 

「えっとね、確か……」


 思い出すように奈々は少しの間唸ってから、


「時折、暗い巨大な影が見えるとか、誰かの悲鳴みたいのが聞こえてきたとか。あと……」




「アクアツアーに参加した家族連れが返ってこなかった、とか」




「…………」


 あんまり笑えるものじゃないな。人が消える。そんなウワサが立つっていうことはそれなりに『何か』があるっていうことだろう。先に口を開いた裕人の方だった。


「あー、なら、尚更なおさら止めた方がいいんじゃないの? もう少しマトモなところぐらいあるだろうし……」


 それに対して奈々は不満気に唇を尖らせて、


「えー、なんかそういうところがいいんじゃない。『ワケあり』って感じでさ」


 ……分からない。奈々の興味が惹かれるものが理解できない……。


「さっ、目的地も決まったし、レッツゴーだよ!」


「ははは」


「……はぁ」


 奈々に引きずられる形で、俺と祐人はアクアツアーへと向かう。


 『死』まであと二十分。

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