ボクラ2
(二時間前)
九月十五日。早朝。
眠い目をこすりながら僕達はその場所で奈々を待っていた。
裏山ドリームランド。開園三十年の、それなりに有名で、それなりに古い歴史を持つテーマパーク。TVCM等で広く宣伝されており、老若男女問わず楽しめる『夢の国』として知られている……らしい。ついぞ今さっき、隣に立っているイケメン――裕人に聞いたばかりで、初めて知ったが。
客は……いる。予想以上に多くの客が会場の開放を、今か今かという感じで待っていた。
「何がそんなに楽しみなんだ……」
「ん?」
思わず声に出してしまった。それに反応した裕人がこちらを見て、
「何が楽しみだって?」
「僕は何も楽しみじゃないし、楽しむつもりもない。無理やり連れてこられただけだ」
「はは。そうかいそうかい。なら精一杯楽しませないとな」
「笑うな。何が面白い」
「いやぁ、こんな曰くつきの遊園地でお前を楽しませることになるなんてな、と思ってさ」
「曰くつき?」
思わず顔を顰める。迷信や神の類は不確定なものなので信じないことにしているが、そんな言葉が夢の国で出てくるとは思わなかった。
「あぁ、とびっきりのヤバイ噂がチラホラと」
「具体的には?」
まさか、人が死ぬとかそういうヤツか? 昔似たような遊園地ならあった覚えがあるが……
「えっと、あんまりはっきり覚えてないけど、確か……」
「一つ。子供が行方不明になったまま返ってこないってことが数回以上。二つ。水上アトラクションに黒い影が見られる。その大きさは二十メートル級らしい。三つ。ミラーハウスに入ると、別人みたいになって客が出てくる。まるで中身だけ変わったみたいに……」
祐人の口から語られる七つ程の噂を聞いて、僕は……
「……嘘臭いな」
思わずそう呟いてしまう。
だってそうだろ。一つ目にしろ四つ目にしろアバウト過ぎる。黒い影って何だ? 観覧車から出られなくなっても、係員が何もしない訳がない。子供だってもっとマシな噂を考えるぞ。
「だな。俺も信じていないよ。ただのウワサだし……っと、そんなこと言っていると、嬢様のご登場か」
裕人の視線を追うと、こちらへ走ってくる少女が一人。遠目から見てもわかる。奈々だ。
「はぁ、はぁ。ごめん、遅刻したぁ」
「どうした。やけに遅かったが」
「電車ぁ、乗り遅れて、お母さんに送ってもらって、電話しようとしたけど携帯忘れたの気付いて、家に戻ったら携帯ポケットに入れたのを思い出して……」
「で、ここに電車に戻ってきたと?」
「う、うん」
「馬鹿だな」
「っなっ、それはないでしょ! 馬鹿ってぇ!」
「元気になったようで何よりだ……って、痛てぇよ!」
ボカスカと公衆の面前で僕をタコ殴りにしてくる奈々を傍目に、裕人がムカつくような笑顔で言う。
「それじゃ、行こうか」
僕を殴る手を止めて、奈々はピカッと顔を輝かせ、大きく頷く。
「うん!」
そして僕は――
「何でお前が仕切っている?」
「なんとなく」
「…………」
『裏山ドリームパーク開園です!!』
結末は等しく『終わり』へ向かっていく――