ボクラ1
「××、×××」
最初から嫌な予感はしていたんだ。
「×××」
何か良くないことが起こる。そんな根拠のない 『何か』があったんだ。
「×××、××××××?」
でも、僕達は進んでしまった。あの地獄へ……。
(一日前)
「ねぇ大和。明日、遊園地行かない?」
そう奈々に声を掛けられたのは、暑さも程々になって窓から見える葉が赤く色づき始めた時期だったと思う。
世間では読書の秋、食事の季節だなんて言われているけれど、正直僕にとっては季節に意味なんてないと思っている。地球がたまたま回っていて、日本にたまたま四季があるだけ。そこに読書とか食事という印象が入ってくるのは、何かと物事に関連付けなきゃ生活していけない人達の印象操作の結果だろう。結論、四季に限らず、物事に意味はないし、そこに意味を求めるのも間違っているのだ。だから、僕――日下部大和は、教室で昼食を食べながら、隣に座る少女にこう言うのだ。
「何故? 何で僕と奈々が一緒に遊園地に行かなきゃならない?」
問いても意味はないが、拒否する理由ならある。けれど、相手の理由も聞かずに断るのは何かと失礼だろう。だから僕は同じクラスで隣の席の有澤奈々に理由を聞く。何故僕と行きたいのか。何で僕が行かなきゃならないのかを。まぁ、どんな答えが返ってこようと断るのは変わらないが。
「えっと……休日を楽しく過ごすため……っていうか、昔はあんなに一緒に遊んでたじゃない!! 何でそんなこと聞くのよ!?」
彼女はどうでもいいことを掘り返しながらこちらを糾弾してくる。意味が分からないし、分かりたくもない。
「僕たちはもう高校生なんだ。昔みたいな馴れ合いはいらないだろう?」
一応友人はいるが、僕はどちらかと言えば一人が好きな人間なのだ。これ以上誰かと関わり合うのは面倒だ。幼馴染など知ったことではない。
「なっ、そんな言い方はないでしょ!! なによ、馴れ合いって……くぅっ……」
何で僕を射殺しそうな目で睨んでくる? 僕は何も間違ったことは言っていないぞ。正論を言ったまでだ。恨まれる筋合いなどない。
涙目の奈々をどうしようかと考えていると、彼女とは反対方向から声が飛んでくる。
先ほど述べた友人の一人、秋山裕人だ。
「おいおい、大和。いくら『冷徹極寒美青年王子』だからって、女子を泣かせるのは流石にダメだろ。男が廃るぞ」
イケメンで明るくて運動神経抜群で頭は……生粋の馬鹿。神など信じてはいないが、神様が完璧な人間を作るときに一部だけ部品を落としてきたみたいな奴だ。まぁ、個人にニ物以上与えている時点で、神は仕事をしていないのだが。
うるさいという意を込めた視線で裕人を睨みながら、
「こいつが勝手に泣いただけだ。僕は何もしていない。あと、その渾名は止めろ。寒気がする」
誰だ、こんな気持ちの悪い渾名を付けた奴は。校外でも偶にその名で呼ばれることがあるが、その度に何度も「殺してやろうか」とムカつかさせられる。正直に名乗り出ていい加減に止めてほしい。名乗り出たとしても先にぶちのめさせてもらうのを前提に、だが。
「いや、絶対お前何かしただろ。ほら、有澤さんに謝まれよ」
気持ち悪いくらいのナイススマイルで語りかけてくる。男が見たら、イラッとくるか気持ち悪いと思うの二択だな。そんな笑顔を気にした様子もなく、奈々は涙目のまま必死の様子で問いてくる。
「で、どうするの!? 行くの!? 行かないの!? どっちなの!!」
何故逆ギレしてるんだ。誘ったのはお前だろ。あと僕は断るに決まっている。面倒だ。
「もう一度言うぞ。僕は行かな……」
「有澤さん。俺も行って大丈夫かな。こいつの説得は俺がなんとかするからさ」
「ちょ、お前ッ」
「ホント!? なら、えっと……よろしくね。秋山君」
一瞬躊躇う様子を見せた後、すぐに笑顔で言う。どうするか考えていただけか。イケメンの言葉に女子が迷うはずがない。……偏見か、これ?
「うん。任せといてよ」
そして、裕人も笑顔で返してやがる。
なぁ、僕の人権はどこ行った? 勝手に行く流れになってるが、そこら辺はどう説明を……
「明日は楽しもうね、大和!」
人権はないみたいだ。満面の笑みで笑ってるし……。
この時、既に僕らの結末が決まっていたことに気付く者はいなかった。
愚か者は自ら絶望へ向かっていく……。