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書籍化に伴う法律・契約に関するあれこれ

「森のくまさん」問題に見る、二次著作権の在り方

作者: たかあきら

 『平成29年01月18日、童謡「森のくまさん」の日本語歌詞著作権者である馬場祥弘さん(72)が、大手レコード会社「ユニバーサルミュージック」(東京都港区)とネタを作った芸人のパーマ大佐さん(23)に、販売差し止めや慰謝料300万円を求める抗議文を送った』というニュースが新聞各紙並びにTVニュースなどで報じられました。


「森のくまさん」。JASRAC管理コード087-1453-3。

 作曲:アメリカ民謡(著作権消滅)

 作詞:アメリカ民謡(著作権消滅)

 邦詞:馬場祥弘(著作権JASRACに全信託)

(注:「邦訳」ではなく「邦詞」。つまり、原曲を日本語に訳したものではなく、日本語で新たに付した歌詞という意味です)


 このニュースで問題になるのは、今回パーマ大佐さんが作ったCDの歌詞(以下『UM版』とする)が、馬場氏が著作権を有する「森のくまさん」(以下「森のくまさん」とする)の替え歌か、それともその原曲であるアメリカ民謡「The Other Day, I Met a Bear」の新規邦訳か、という話、そして、UM版が「森のくまさん」の歌詞の「著作人格権を毀損(きそん)」しているか、という話なのです。


 取り敢えず、UM版はYouTubeで公開されているということなので、確認してみたところ。

 ……これは、「森のくまさん」の替え歌でしょう。


 UM版の歌詞は、「The Other Day, I Met a Bear」の歌詞(或いは日本語直訳版の歌詞)とは全く関係ありません。その一方で「森のくまさん」の主要フレーズを唄い、そして間にオリジナルの歌詞とメロディーを付して全く別個の物語にしている。つまり、「森のくまさん」を題材とした、二次創作なのでしょう。

 この時点で、UM版が「森のくまさん」の著作権を侵害していない、という主張には無理があります。


 そしてUM版の歌詞(というよりそのストーリー)は、「森のくまさん」の歌詞を下敷きに、新たな(そして独自の)展開をしています。

 そもそも「森のくまさん」の歌詞は、意味不明なところがあります。2番で何故「逃げろ」と言ったのか、そして、にもかかわらず3番で追いかけてきたのは何故なのか、とか。

 これに関し、作詞者の馬場氏は「ご自由にご想像ください」としか答えていません。が、一説には「本人も知らない」という疑惑さえあるのです。


 作詞者がその意味を知らない。その疑惑は、「馬場氏は本当に作詞者本人なのか?」という疑惑に起因しています。

 「森のくまさん」は、1972年8月、NHK〔みんなのうた〕で紹介されたのが始まりです。その時は「作詞・作曲不明(アメリカ民謡)、玉木宏樹編曲」とされていました。

 しかしその数年後、馬場氏は「森のくまさんは自身が作詞・作曲した」とJASRACに申し出て、これが認められました。

 ところが、更にそれから約15年後。JASRACはアメリカ民謡「The Other Day, I Met a Bear」の存在を確認し、作曲者は馬場氏ではなかったと結論付けました(それに伴いこの15年間で馬場氏が受け取った作曲に係る著作権料は、利息並びに罰過金を付してJASRACに返還したといいます)。

 こういった経緯から「邦詞の作詞も別人ではないのか?」という疑惑が取り沙汰されていますが、現在のところ「別人が作詞した」と断言出来る根拠が見つかっていないというのが実情のようです。


 閑話休題。

 ともかく、UM版の歌詞は、この「森のくまさん」の歌詞の「意味不明な部分」に独自の解釈を盛り込み、ある一定の説得力を持たせたストーリーとして組み立てているのです。しかしだからこそ、「謎に答えを出す」「意味不明の部分に独自解釈を挿入して説得力を持たせる」。この部分が、「著作人格権侵害」に該当する部分になるのです。


 ところで、UM版はCDの作製・販売に先立ち、「一般社団法人 日本音楽著作権協会」(JASRAC)に伺いを立て、許可を得たと言います。

 JASRACのHPによれば、JASRACが著作権を管理している楽曲の使用は、JASRACに使用を申請する必要があります。

 また、動画配信等に関しては、「動画の投稿者から個別に許諾手続きを行っていただくのではなく、サイトを運営している事業者側で許諾契約手続きを行っていただく取扱いとなっております」(FAQ No: 193)となっている。

 その一方で、「著作隣接権については、ご利用になる楽曲ごとに、各著作権者に直接お問い合わせいただくこととなります。」(同)とされており、著作人格権の侵害は、JASRACの管理から外れるのです。

 つまり、「著作権者からの申し出が無い限り」、「森のくまさんの替え歌」をYouTubeにアップロードすることに問題が無い一方で、CDの販売に至ると、このYouTubeに配信された動画はCDのコマーシャルという性質を帯び、扱いが変わります。そして、CDの販売(商用利用)。この時点で、原著作権者に「経済的損失(逸失利益)」が成立するのです。


 さて。

 この問題。「小説家になろう」では、他人ごとではありません。

 平成29年01月19日現在、「森のくまさん」で作品検索を掛けると、17作品見つかります。これらの多くは、「森のくまさん」の歌詞を下敷きに、オリジナルの物語を展開した短編小説です。

 つまりこれら。性質上はUM版と同じ扱いなのです。


 また、作品中に「森のくまさん」の歌詞(或いはその替え歌)を掲載した作品は、かなり頻繁にお目にかかります。こちらは直接の著作権侵害と指弾される恐れがあるでしょう。


 では、「小説家になろう」で、「森のくまさん」をはじめとする楽曲の歌詞を使用したいと思った時。どうすれば良いのでしょう?

 「小説家になろう」の規約では、「歌詞の掲載許可を得ており、その旨が権利者の指定する方法にて明示されている場合」、作中に歌詞が掲載されていても問題とならない(『ガイドライン:歌詞転載に関して』)とされています。

 なら、JASRACで管理されている楽曲の歌詞は、JASRACに許可を取り(場合によっては使用料を支払い)、JASRACが指定する方法でその旨表示しておけば、掲載出来るの?


 この件。平成28年12月22日、JASRACに問い合わせてみました。

 結論は、「FAQ No: 193に準ずる」。つまり、「なろう」に投稿する作家が個々人で許諾を求めるのではなく、サイトを運営している事業者(つまり株式会社ヒナプロジェクト)側で許諾契約手続きを行う必要があるのだそうです。

 つまり、どう足掻いても不可能、という結論になります。


 そして、「替え歌」や「歌詞の二次著作物」等に係る著作権隣接権の取り扱いは、原著作権者個人との直接の遣り取りになりますから、まさになろうの規約にある形で、その許諾がある旨を表示することが求められるのです。


 「なろう」に掲載されている作品にも、著作権は発生します。

 「無償配布しているWeb小説で、実際に著作権侵害で警察沙汰になった」という事件が、その被害者さんのルポとして〔盗作の末路〕という作品も存在しています。


 直接の剽窃(ひょうせつ)・盗作、または改変しての二次使用(著作人格権侵害)。

 なろう作家は、その被害者たる不安とともに、自覚無く加害者になってしまう恐れもあるのです。


 皆さん、著作物の取り扱いには、充分ご注意を。

(2,987文字:2017/01/19初稿)

・ 朝日新聞DIGITAL「「森のくまさん」替え歌、訳詞者が販売差し止め求める」2017/01/18:21:59(http://www.asahi.com/articles/ASK1L51Q6K1LPTIL00L.html)

・ Wikipedia「森のくまさん(曲)」(https://ja.wikipedia.org/wiki/森のくまさん (曲))

・ ドナドナ研究室「森のくまさんの謎」(http://www.worldfolksong.com/closeup/bear/page1.htm)

・ JASRAC(http://www.jasrac.or.jp/)

・ 小説家になろう〔ガイドライン:歌詞転載に関して(http://syosetu.com/site/song/)〕

・ 秋口峻砂(ユーザーID:167169)〔盗作の末路〕(http://ncode.syosetu.com/n8022bp/)

・ 拙稿「どうということはないはなし」〔その五の3 ドナドナ禁止?!~著作権:フレーズ・歌詞~〕(http://ncode.syosetu.com/n0420dd/7/)

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の作詞した歌に、へんてこりんな歌詞が付け加えられて、自分の作詞した事にして広められたら嫌だよなぁ、って私は思いました。 だから、最初から『補詞:パーマ大佐』と付けてれば特に問題なかったん…
[一言] 頭の悪い自分には全ては理解出来ませんでしたが、 大変だなぁと思うと共に そこまできちんと考え調べている作者さんは 素直に尊敬します。 言われるまでも無いと思いますが 作者さんも気をつけて「…
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