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世界で一番きれいなあなた  作者: 緒田 環
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むかしむかし


レースと私は生まれた時から一緒だった。


記憶の中にあるレースはたしか10歳までは何ら普通の男の子だった。

いや、あの美貌は普通ではなかったけど、やんちゃで男の子らしい男の子だった。


天使のような容姿だけども、言動は利発でやんちゃ。


そのころ私はそんな幼馴染に夢中で。

時間があればいつでもレースと一緒に野原を駆けずり回っていた。


今考えれば不思議なことだけど、私にとってレースは領主の息子だけど生まれた時から一緒にいる人で、小さい頃は身分だとかなんては意識したことがなかった。


そう、恥ずかしながら、そのころの私は、レースと結婚できると思っていたんだ。


子供おそるべし。


身分違いであることもそうだけど、あんな美人と自分が相思相愛になれると思う私はやっぱりどこかずれた子供だったんだろう。


ただ、それにはレースも責任がある。

子供のころのレースは男の子らしくやんちゃだけど、私にすごく優しかった。

ほかの女の子に目もくれず私にだけ優しい男の子。私だけの王子様。


わたしがそう思い込むのは仕方ないともいえる。

結局、そんな私の淡い初恋はお母さんによって打ち砕かれるんだけども。


「エンカティティ。」

「ん?」


ご飯を食べている最中に母さんが私をまじまじと見つめる。


「そろそろレースウェイ君と遊ぶのやめなさいよ。」

「え?」

「いつかは言わなきゃって思ってたけど、レースウェイ君はキャンディロロ家の次男なのよ。」

「し、知ってるもん。」

「しかも、うわさによると、レースウェイ君のお兄さんがのんびりしすぎているせいで、

当主にはレースウェイ君をっていう声もあるらしいの。」

「レースが当主?」

「そう。いままで仲良く遊んできたけど、やっぱりレースウェイ君、

いやレースウェイ様は雲の上の人なのよ。」


そういう母さんの声はいつになく固い声だった。


それでも私は、ほのかな恋心があきらめられず、なんとか言い返したかったけど、

母さんはそんな私の心砕くようなことを言った。


「いい、レースウェイ君はあんたのこと、ずっと一緒にいた妹みたいに思ってるのよ。

 だいたい、そんな身分のひとは私たちみたいな平凡な人間、相手にしないのよ。」


冷たく言い放たれた言葉は私の心をえぐった。


まあ今考えれば娘に同じ苦労をさせたくなかったんだろう。


ただ、当時の私にはかなり堪えた。

それからしばらく、遊びに来るレースを顔をもみせずに母さん経由で断るくらい。


「ごめんなさい、エンカティティは今日も遊べないの。」


もともと、私たちを引き離したいと思っていた母さんは毎回ドアの前でそうやって断っていた。

レースの寂しそうな後姿をそっと窓から見るのがそのころの私の習慣になっていた。


そんな日が一週間ほど続いたあと、

いつものように母さんがドアのノックに出ていけば驚いた声がして思わず私はドアから顔をのぞく。


そこには信じられないくらいレースに似た美少女が立っていた。


「レースの双子なの?」

「ちげーよ。」

「レース?」


なぜかドレスを着ていて、ぶすくれた表情の彼は、

ぎゅっと唇をかみしめてそのまま何も言わず走り去っていく。


私は母さんが止めるのもふりはらってレースを追いかけた。


「まって!」

「ついてくるな!」

「待ってレース!」


運動神経の良いレースにはわたしの足じゃ追いつかない。

息が切れて苦しいのにレースは待ってくれない。

次第に私たちの距離は開いていって、慌てた私は足をもつれさせて転んでしまった。


「っつ。」


痛さと追いつけない悔しさで転んだまま泣き出した私を見かねたのかレースは戻ってきてくれた。


「悪い。」

「レースどうしてにげるの?」

「そういうお前こそずっと断ってばっかりだったじゃないか。」

「う、でもそれは。」

「こんな格好、してたら逃げたくなるだろ・・。」


転んだ私の手を引っ張って立ち上がらせて、ついた砂埃をはたきながら、

レースはそうぼそりとつぶやいた。


「どうしてドレスを着てるの?」

「いろいろあるんだ。でもこうするのが一番なんだよ。」

「レースはドレス着たくないの?」

「こんなの着たら女みたいだろ。」

「うん、でも似合ってるよ。」


そう私が言うとレースはとても悲しそうに顔をゆがめた。


「だからいやなんだよ。」

「すごく似合ってるから大丈夫!レースお姫様みたい」

「そうか」


一通り私の体に付いたごみや、砂を払った後、レースはぎゅっと私に抱き着いてきた。


「レース?」


幼いながらの恋心が、ドキドキと鼓動を速める。

日ごろから手をつないだりいつも一緒だったがこんなに強く抱きしめられるのは初めてだった。


「今日から、俺、女として生きなきゃいけなくなったんだ。」

「女として?」

「そう、いろいろあってそれが一番だって気づいたんだ。」

「レース。」

「だから、ずっとお前と一緒にいれるよ。今日から俺は女なんだから。

ずっと友達としてそばにいれる。」


レースの提案は最近ずっと悩まされていたいろんな悩みを吹き飛ばす魅力的な話だった。

ずっとレースと一緒にいられるのはなんて魅力的なんだろう。

その日私は恋心を捨てて、レースとずっと一緒にいる権利を手に入れたんだった。



そのあと、私はレースに手を引かれておうちまで帰った。

汚れた私を見て母さんは驚いて、そしてレースに向かってなぜそんな格好をしているのか聞いた。


「それが一番だから。」


そうぶっきらぼうに答えたレースをみて面白そうに笑った母さん。


「ふーん、まあ嫌いじゃないわ、そういうの。」

「俺今日から女として生きるから。」

「あら、それならもっと勉強しなきゃ。見た目は美少女だけど、言葉遣いはてんでだめ、

ついでに足だって蟹股だし。もう少しレディのふるまいを学んだほうがいいわよ。」

「っ、明日からそうする。」

「そう、私を見て勉強してもいいけど!まあまた来なさいよ。

あなたはうちのエンカティティの親友なんでしょ?」


そういって、レースの頭をぐりぐり嫌がっているのになでて、上機嫌で見送った。


「ねえ、エンカティティ、なんでレースが女装したのかわかる?」


母さんはそういった。でも幼い私はよくわからなかった。


「わかんない。でもこれが一番いいっていってた。」


見上げた私の頭をさっきレースにしたようにぐりぐりなでながら、こういった。


「ねえ、今はわからなくていいけど、考えてあげなさいね。あの子にはきっとあなたが必要だわ。」


それは、なぞかけのようで、でもずっと私の中に残っていた。



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