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世界で一番きれいなあなた  作者: 緒田 環
6/7

あなたがしあわせならいい

さて、王宮に来て2週間。

私はなんとなくここに住むことが決まったのだった。


はじめ私はお父さんに会ったことだし、キャンディロロに帰るといった。

けれども、お父さんに泣かれてしまい、

私だって唯一の家族に会えたことだし一緒にいたいという気持ちも芽生えていて、残ることにした。


王宮に私を住ませてくれることがきまったけれども、当分は行儀見習いでおとなしくしているように言われている。

本当だったら、お披露目、というところだけど、私の年もいっていることと、

庶子ということでそんな盛大なことはしないらしい。


お父さんは心苦しそうにそういっていたけども、

私としては生まれてこのかた庶民そのもので生きてきたのにいまさら舞踏会だの礼儀作法だのはさっぱりなため、ほっとしたのが本心だ。


そういうわけで、急に姫君になった私は毎日礼儀見習いを午前中、午後はフリータイムという生活をしていた。


「暇だね。」


向かいに座ったレースにそういうと、ティーカップから口を離しこちらを見上げた。


そんな仕草だけども、非常に上目遣いが魅力的で、ちょっとどっきりする。

幼馴染でずっと一緒にいた私ですらそうなんだもの、そりゃ普通の人だったらドキドキものだろう。

だから控えていたジジのほっぺたが赤くなったのも普通だ。


初めて会ったときに3人の侍女が人形ではないかと思うくらい機械的に仕事をしていたけども、一週間でそれは違うことに気付いた。


機械なのはユニスさんだけだ。


ユニスさんは侍女の中でも優秀で、行儀見習いの講師をしてもらっている。

最も苦手な行儀見習いは困難を極め、ユニスさんの眉間にはずっとしわが刻まれている。

がみがみ怒られるわけじゃなくむしろ冷静に指摘されるから、凹む。

そんなわけで、ユニスさんのいないときにジジに話しかけたところ、意外としゃべる、しゃべる。

ジジは私と同じ年だということや、実は美形が好きでレースが好みということ、ユニスさんがめちゃくちゃ怖いということ・・わたしたちはめちゃくちゃしゃべりまくった。


ただ、それはユニスさんがいないとき限定で、どうやらユニスさんは先輩としてとても怖い存在みたいだ。


いや、講師として私にとっても怖い存在だけど。


「たしかに、暇ね。」

「ねえ、散歩に行かない?」

「ふふ、いいけど戻ってこれるの?」

「ぐ、大丈夫よ!迷ったら誰かに聞けばいいんだし。」

「まあ、王宮内なら大丈夫よね。いきましょうか。王宮の庭園ってとてもきれいなんですよね?」

「は、はい」


レースに話しかけられたジジは頬を染めている。

うーん普通の反応!キャンディロロにいた時もこんなだったな。

ドレスを着てても美男は美男がジジの主張だ。


カップのお茶を飲み干して、ゆっくりと庭園へ向かう。

ドレスは相変わらず窮屈だけどちょっと慣れてきた。


今日のドレスは深緑のシックなデザインで気に入っている。

最初来た時に用意されていためちゃくちゃファンシーふりふりのドレスはしまわれて、

シックなデザインのドレスがいつの間にかできていた。


当たり前だ、似合わな過ぎた。


シックな色合いのドレスを着れば華やかでない私の平凡顔が浮かずにすむのでちょうどよい。

横のレースを見れば今日はスモーキーピンクのドレスだ。男のくせに似合っている。


「レース、こっちでいい?」

「たぶんそうよ。」


なぜか詳しいレースに案内されて、庭園へ出れば、ちょうどバラがきれいに咲いている。


「わー、いい匂いだし、きれいだね。」

「そうね、キャンディロロのバラより大輪ね。」

「ほんとだ。」


きれいに咲いた花を見れば気分が良くなる。ドレスじゃなければ駆けずり回りたい気分だけど、重すぎるドレスじゃそんなことできない。


ふいになんだか変わってしまった世界を感じる。

最近走ってない。

仕事もしていない。


慌てたり、急いだりするいままでの生活と真逆の生活。


「ねえ、レース、私ここに来たの間違いじゃないよね。」

「間違いかどうかはわからないわよ。この生活がエンカティティに合ってるかどうかっていったら、合ってないと私は思うけど。」

「そうだね。」

「でも、せっかくお父さんに再会できたんでしょ。いいんじゃない、しばらくここにいれば。」

「そうだね。」

「いやになったら、キャンディロロに戻ってくればいいのよ。」

「うん。」


そうはいっても不安は消えない。

だいたいレースだっていつまで一緒にいてくれるんだろうか。


「私は、あんたが幸せならなんでもいいわよ。」


こんな美人顔で、バラに囲まれてそんなこと言わないでほしい。

不安定な私は泣きそうになる。


「私も、レースが幸せならなんでもいいって思うよ。」


そういうとレースはあいまいにほほ笑んだ。

けれどもその微笑みは女性そのものの柔らかいもので、

でも私はなんだかその微笑みを引きはがしたい衝動に駆られたんだった。



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