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世界で一番きれいなあなた  作者: 緒田 環
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こんにちは父さん!

緊張がピークだ。

そもそも親子の再会ってこんなに緊張するものなんだろうか?

ドキドキしながら明るい部屋の中をのぞけば、ふかふかのカーペットの敷かれた部屋の中から大きな声が聞こえた。


「エンカティティ!!」


私の名前だ。


中には、どこかでみたことのあるような、というか私に瓜二つなおじさんが一人立っていた。

失礼を承知で言わせてもらう、おじさんは私よりとてもふくよかだった。


とはいえ、目の色、髪の色、そして顔のパーツはほとんどそっくりで、

私はこの瞬間あれだけ王宮にきたときにみんながじろじろ見てきた理由も、

ヤンソンさんが見た瞬間に私だってわかった理由もよく知ることができた。


つまりだ、けっきょくのところ、私はキャンディロロ美女の代表みたいな母さんから何一つ受け継ぐことなく、

ほぼほぼ100パーセント近く父親に似たのだろう。


なんとなく腑に落ちない気が。


そんなあまりのそっくり具合に驚いていると、おじさんは私のほうに走ってきて、

私をぎゅっと抱きしめた。すっごくいい匂いするんだけど。


「いままですまなかった・・。」


雨?と思えば、私の顔に当たるのは涙で、とても悲しそうな顔をしたおじさんは、私の頬に触れる。


「そなたはわしにそっくりだな。」


ええ、そうです。


失礼ながらそんなにうれしくないけどそうだと思います。

言葉にはできないけどそんなことを思った。

私には母さんの要素が何もない。

でも、それでも私を娘として認めてくれる。


当たり前か、こんなにそっくりなんだものね。


「ああ、すまなかった、さあこっちへおいで」


おじさんは感情を高ぶらせた感動の再会がはずかしかったのか、

すこしごほんとせき込むと私の手を引いて、部屋の中へ連れてってくれる。


真ん中に置いてあるソファーに座るように促され、自分も隣に座る。


「いままでなにもできなくて本当にすまなかった。」

「いえ、母さんがなにもいわずに逃げたと聞いています。

 陛下は何も悪くないと思います。」

「陛下などいわず、お父さんと呼んでくれ。エリーヌはその。」

「母さんは去年、風邪をこじらせてなくなりました。」

「そうか・・。エリーヌが手紙をくれたんだ。」

「手紙?」

「そうだ、私は自分は二度と会うつもりがなかったけれど、娘がいて、

娘が父親に会うことを邪魔するのは間違だとおもうから手紙を書いた。

興味があるのならキャンディロロ領を探せと書いてあった」

「母さん、そんなの知らなかった。」


母さんはいつだっておおざっぱで元気だった。

そんな母さんは死ぬ前だってわがまま放題だったし、何も言わなかった。

最後の時、私を見てほほ笑んで、眠いから一人で寝かしてくれといってそのまま起きなかった。


それなのにそんな手紙を書いているなんて。


母さんは意地っ張りだ、誰よりもお父さんに会いたかったくせに。


いまさらだけどわかったことがある。


子供のころから私と母さんは本当に似てなくて、いろんな人に聞かれた。

「ほんとうにあなたの子なの?」と聞かれるたびに、

母さんは私をみて嬉しそうに笑っていた。


私は馬鹿にされているのか、なんなのかわからなくて

ただ自分が平凡で母に似てないことがくやしかった。

でもあの時の笑みは、

素直じゃない母さんの嬉しそうな顔は

きっとこの人に私がすごく似ているからだろう。


断言する。


なんで母さんが逃げたのかは知らないけど、母さんはこの人が好きだったんだ。


そう思うと、生きているうちに合わせてあげたかったと思い胸が締め付けられる思いがする。


「ねえ、お母さん。なんでわたしの髪はちゃいろいの?」

「ちゃいろくてなんかおかしい?」

「だってお母さんの髪は銀だよ。なんでちがうの?」

「それはね・・あんたのお父さんは妖精の王様であんたは父さんになのよ。」


嘘みたいな話を繰り返し言うから私は本当に信じていた。

もちろん、おおざっぱで適当な母さんにあとで散々馬鹿にされて

木っ端みじんに妖精の王様なんてこと忘れてたけど。


「エリーヌはなにをやっていたんだい?」

「母さんは、花屋をやっていました。だから私も花屋をやっていて。」

「つらいことはなかったか?」

「いつも、楽しそうでした。まあ花屋は儲からないんで、

暮らしに余裕はあまりありませんでしたけど、母さんはあんな性格だから。」

「そうか。エリーヌは、きっとそういった生活があっていたんだろうな。」


そういって、お父さんも遠い目をして何かを考えている。


これはよく見た表情だ。


いつもおちゃらけてて、元気な母さんがたまにしていた表情。

ああ、この二人は相思相愛だったんだな、なんて感じた。


「あの、母さん、ずっとあなたのことを忘れてなかったです。」

「エリーヌが?」

「はい。母さんあんな性格だけど美人だったからすごくモテたんです。

でも、一度も恋人を作ることもなかったし、私にはなにも話してくれませんでしたけど、

たまに遠い目をして悲しそうにしてたんです。たぶん、お父さんのこと考えてたんだと思います。」


そういうと、お父さんはまたぽろぽろと涙を流した。


「そうか。私もエリーヌのことを忘れたことはなかったよ。

なんども、こんな身分じゃなければ自由だったらと思ったものだ。」


懺悔をするかのように、頭を抱えてお父さんはそういった。


「いいか、今のは親子の内緒の会話だぞ。」

「はい。」

「エリーヌは、風のように自由で。初めからここには縛れないとわかっていたんだ。」


そう、母さんは自由だった。

いつでも楽しそうで。


私の知らないお母さんとお父さんの話。


それは私が好きで読んでいた小説みたいな話で。

その結果が私なのかと思えばとても自分が特別なものに感じられた。


「わしは執務が立て込んでいてあまり自由な時間がとれないが、

これからは毎週水曜にお茶をふたりでお茶をしよう。」


いろいろな話をした後に、お父さんはそういった。

失った時間を取り戻したいのだといってくれた。

私にはずっとお父さんがいなかったから正直なところ実感もないし、

どうしたらいいかわからないけどそういわれてうれしかった。


それに母さん話をすると父さんはうれしそうだから。

母さんの話をすることで、二人がいられなかった時間を埋め合わせてあげたいと思ったんだ。


「王宮ではそなたはわしの娘だからいろいろと学ぶこともあるが、しかりとした講師をつける。

ぜひ学んでほしい。」

「はい、お父さん」

「いい子だ。もう時間がなくなってしまった。また水曜に!」

「はい。」


そういってお父さんは部屋を出て行った。


さっき聞いた話だけど、この部屋は謁見室の前室で控えの間らしい。

父さんは私にあうのがまちきれなくてここまで来て待っていたらしい。


扉を開ければ、ヤンソンさんとレースが待っていた。


「お待たせしました。」

「どうだったの?」


レースがそういうから、私は笑った。


「とにかく私はお父さんにうりひとつなことがわかったわ」

「そう、よかったわね。」


ふいにレースの顔をみて安心したのと、あとドレスが苦しすぎるせいで

がくりと体から力が抜けそうになるけれど、レースが抱き留めてくれたので崩れ落ちずにすんだ。


「ごめん、安心したら足ががくがくしてきた。」

「なれないドレスですもの。大丈夫?運んであげましょうか?」


そういってレースは簡単に私を持ち上げようとするけれど、止める。


「ちょ、大丈夫!大丈夫だから!」


この美女であるレースが私をお姫様抱っこなんてして歩いたら、もはやちぐはくもいいところだ。


どちらかというとレースは抱っこされるほうだ。

ちょっと身長が高すぎる気もするけど。


「遠慮しないで、こう見えて、力はあるほうだし。」


にこりとレースが笑うが、そういう問題じゃない。

ていうか、力があって当然だ。一応男なんだし。


「いや、力とかっていうか、見た目が、さ。」

「エンカティティ様、それでは私がお運びしましょうか?」


ここで、ずっと蚊帳の外だったヤンソンさんがにこにこしながら会話に入り込んできた。


「私、重いですよ。」

「これでも騎士の端くれです、体は鍛えておりますので何ら問題はございません。」


ここ数日間でのんびりとしたヤンソンさんにはかなり心を開いていて、まるでお兄ちゃんみたいで。


「じゃあ、お願い・・・っ!!」


疲れ切ってたし、お願いしようかな、と言おうと思った言葉は、

体が浮かびあがったことによって、止まった。 


「ヤンソンがよくてどうして俺じゃだめなわけ?」


抱き上げられてすたすたと歩きだしたレースはもう止められない。

そして不機嫌さが最高潮な声に恐ろしさを感じる。


「いや、だって見た目的に、美女に抱き上げて運ばれる平凡な女子って・・変でしょ。」


刺激しないようにそろーりと顔を見上げながらそういえば、近くにある輝くばかりに美しい顔は

苦しそうにゆがめられた。


「そう、ね。」


それ以上レースは何も言わなかった。


さっきまでの不機嫌さは消えたものの、無口になってしまったレースは落ち込んでいるようにも見えた。


でも、そこは突っ込んでいけないところだ。

私とレースの踏み込んじゃいけない、ライン。


人に見られることを除けば、レースの腕の中は安心でき、

そのまま気づいたら私は眠りこけていたんだった。




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