告白
秋の古代竜先生の素顔事件から時は経ち、二年の夏。
夏休み前に正仁少年が何か含むところありそうにもじ
もじしているのを古代竜先生は見逃さなかった。
「鈴木君。どうしたんですか?何か気になる所でも」
「あ、勉強的な意味で気になるところは沢山」
「そういう感じとは何か違う気がかりがあるでしょう。
勘、ですけれどね」
「まいったなぁ。古代竜先生には隠せないかぁ」
もぞもぞと傍に置いていた鞄から正仁少年は一枚の
チラシを取り出す。
それは古代の秘宝展、と銘打たれた美術品の展示会
のチラシ。
折しもそれが近所の美術館で開催されると言う物だ
った。
「ああ、その催し物なら私もチェックしていたんです。
それがどうかしましたか?」
この頃になると正仁少年の香りにも随分馴染んでい
た古代竜先生は何気なく問いかけた。
すると彼は首を縮めて申し訳なさそうに述べたのだ。
「実は、このイベントに一緒に観覧に行きませんかっ
て思ったんですけど。
デートになっちゃうかな、不味いかなって思ってて。
あの、純粋に古代竜先生に解説してもらいながら廻
れたら、勉強になるかなって……」
しどもどしたその物言いに、古代竜先生は思わず笑
みをみせた。
どこまでも律儀な少年だ、と。
「ふふ。こんなに仲良くなってからそんなことを気に
するのは逆に意識しているみたいですよ。
いいでしょう。日取りを決めて私が案内してあげま
すよ」
「本当ですか!?」
「ええ、本当です」
顔を輝かせる正仁少年に、一瞬選択を誤ったか、と
思いかけた古代竜先生だったがすぐにその思いは杞憂
だったと知る。
「これ、この古代竜人王国の玉帯とか古代竜先生は実
際にみた事あります!?
古代竜先生って凄い長生きだって聞いてそういう、
生の話が聞けるんじゃないかって思ってるんですけ
ど!!」
純粋に好奇心に瞳を輝かせるその姿に、無粋な勘繰
りだったと知り、古代竜先生は目を伏せた。
「あれ?どうしたんですか先生?」
「あ、いえ。これはですね。私が生まれるさらにその
昔に作られたものなので実物を見たことはないので
す。
だから鈴木君のご期待には応えられませんね、と」
「ああ、なるほど。でも来歴なんかは先生もご存じ
なんですよね?」
「ええ、その程度の事で良いなら」
「やった!うわー、楽しみだなぁ。何時にしましょう
何時に!」
「落ち着いてください。ふふ、小さな子供みたいです」
「俺、まだ子供ですよ」
「そうでしたね。騒いでいる小林君が珍しくて尚更
そう思ってしまったようです。すいません」
「あはは、古代竜先生らしくない感じですね」
「そうですか?そうかもしれませんね……」
ふふ、と笑った古代竜先生に、次の瞬間正仁少年は
真顔で聞いた。
「でも、俺が卒業して、みられる大人になったら。
俺の事そういう目で見てくれますか?」
不意打ちだった。
完全な不意打ち。
今までの穏やかな態度も、素顔を晒した時ののんびり
とした態度の中にも、この熱い想いが潜んでいたのか。
そう慄然とさせられる声だった。
「将来、俺から角と鱗の手入れ用品を贈ったら。
受け取ってくれますか?」
それはプロポーズに近い言葉だった。
角と鱗の手入れ用品のプレゼントは、竜人にとっては
それだけの意味がある言葉だった。
「それは……」
果たして、古代竜先生の答えは……。
「将来の私に改めて聞いてください。正仁君」
将来の自分への丸投げだった。
この時の彼女は考えても居なかっただろう。
この幼い、太っちょの少年が近所でも噂になるほどの
自分にとってのオシドリになるだなんていうことは。