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ひとつの空にあるように  作者: 長野 雪
秋茜に思いをのせて
31/57

05.争う撫子、その決着

「アンジェラ?」


 呼びかけられたとき、少女はひどくみじめな気持ちで夕食の片付けをしている最中だった。


「だんな様、どうなさったんですか?」


 ざわつく心を抑え、いつも通りを装って答えたアンジェラに、銀髪の青年は困惑した表情を見せた。


「アンジェラ一人で片付けですか? あとの二人は……」

「二人は先に上がりました。今日の夕食の支度を手伝えなかったので、あたしが片付けをすることにしたんです」


 本当は、夕食の支度に少し遅れただけだったが、あの二人――特にローザに、仕事を押しつけられる口実としては十分だった。


「だんな様は、お茶ですか?」

「いいえ、……あ、でも、飲みたいですね。久しぶりに熱いのを」


 忙しく働くアンジェラに遠慮しつつ、ウィルは婉曲に頼む。


「はい、分かりました。茶葉はどれになさいますか?」


 片付けの傍ら、お湯を沸かし始めたアンジェラは、戸棚の中の缶を見て、産地をいくつか挙げていく。


「そうですね―――」


 ウィルの選んだ茶葉の缶をテーブルに置くと、ティーポット・カップを並べた。そして、湯が沸くまで、と片付けの続きをする。

 テキパキと働くアンジェラを見つめていたウィルだったが、ふと、アンジェラの足に目を止めた。


「アンジェラ、その右足ですが、どうしました?」


 その細い足に、いくつもの赤い線が縦に入っているのは、かさぶただろうか? それは、ウィルの瞳にとても痛々しく映った。


「あ、これは……、その転んでしまったんです。庭掃除のときに」


 アンジェラは「見苦しいので見ないでください」と懇願した。もちろん、ただ転んだわけではなく、足を引っ掛けられた上に、帚で二、三回掃かれたのだ。まさか、そんなことに気付きはしないと思うが、この傷を見苦しいと考えているのは本当だった。


「腕も、それは、アザ……ですか?」


 手首の少し下、青く見えるそれをウィルの目から隠したアンジェラは、「すみません」と謝る。


「えっと、一緒に働く方が来て、気が緩んでるみたいで、最近、あちこち、ケガしてしまうんです」


 お湯が沸いたのを確認すると、アンジェラは、動揺を隠すように、せかせかと動く。


「気を緩めるのは構いませんが、ケガには気をつけてくださいね」

「はい。気をつけます」


 アンジェラの返事に納得したのか、ウィルは熱い紅茶に口をつけ、ほぅ…、と息をついた。


「領地管理も大変ですよ」

「毎年、こんな感じなんですか?」


 珍しく愚痴をこぼした主人に、少女は声をかけた。その手は止まることなく食器を磨いている。


「そうですね……、毎年、このぐらい忙しいですね。あぁ、来年はアンジェラにも手伝ってもらえばいいんですね」


 来年、という言葉に、アンジェラは危うく手にした皿を落としそうになる。


「そんな、お手伝いなんて、できません……」


 来年も何も、明日には、きっといなくなっているだろう。

 アンジェラの態度に、ウィルは笑みさえ浮かべて「来年には、帳簿付けまでお願いしたいものですね」と、口にした。動揺を悟られていないかとびくびくしていた少女は、ほっと安堵のため息を洩らす。


「それでは、片付けも終わりましたので、あたしはここで失礼します。食器はテーブルの上に置いといてください。後で片付けますから」


 てっきりお茶に付き合ってくれると思っていたウィルは、残念そうな顔をしたが、すぐに気持ちを切り換え、「わかりました」と了承した。

 アンジェラは、ぺこり、と一礼して台所を出ると、自分の部屋に向かった。


(また、……かな)


 覚悟を決めて扉を開ける。案の定、部屋はしっかりと荒らされていた。たぶん、台所の片付けを押しつけられたのは、この時間稼ぎもあったのだろう。

 アンジェラは散乱している衣類を片っ端から拾い上げ、寝台の上に積み重ねた。からっぽになったの衣装ダンスに押し込むことも考えたが、そんなことをしている時間も惜しい。

内向きの仕事に使っていたエプロンとワンピースを脱ぎ捨てると、寝台の上から動きやすいズボンとシャツを取り出して着替えた。


(台所に、だんな様がいるから……)


 アンジェラはドアに鍵をかけると、迷わず窓に向かった。バルコニーに丁度よく枝が張り出しているのを、いつか使えるだろうと、切らないでおいたのが幸いだった。

 木を伝って下りたアンジェラは、裸足のままで、邸の裏手に向かう。ときどき大きい石に当たって痛かったが、納屋に靴が一足用意してあった。


(あとは、ロープ、と)


 靴を履きながら、月明かりの中で目をこらし、ロープを探す。オリバーが納屋を使うようになって、物の配置が少し変わってしまったからか、なかなか見つからない。


(……んー、と、あった)


 麻をったそのロープは、少し心もとないものの、自分の体重を支えるには十分に見えた。

 ロープを手に、風呂場まで行く。途中、台所の勝手口が細く開いているのを見つけて、ひやりとしたが、ウィルはもういないようだった。

 終わったら片付けに行こうと決め、アンジェラは風呂場の裏手にある木に、ロープをぐるっと巻きつけた。


(待っててね、お母さん)


 ロープを枯れ井戸に垂らす。淵に立つと、月明かりでは照らしきれない穴がぽっかりと自分を吸い込みそうで恐かったが、それでも、そこに指輪があると思えば、なんでもなかった。

 予想以上に深い井戸の底についたとき、思わずアンジェラは胸を押さえた。四方は石が積み上げられた壁、月明かりさえ届かない。すぐに上へ戻ろうかと弱気にもなる。


(でも、お母さんの指輪……)


 アンジェラはしゃがみこんで、ペタペタと地面をまさぐった。堆積した枯れ葉と染み出した水でぐちゃぐちゃになっているが、両手の感覚を頼りに、指輪を探す。


 悔しさと情けなさとが混じりあって、思わず涙がこぼれそうになった。

 自分がどうしてこんな目に遭うのか分からないし、明日は出ていかないといけないのも哀しい。沈み込む思考を振り払い、ただ懸命に地面をさぐった。ここを出て行くなら、あの指輪は持っていかないと、それだけを思って。


 ふと、上から光がさしこんできて、視線を上げた。


「あら、案の定、探しに来てたんだ? 見に来た甲斐があったわー」


 ランタン片手に覗きこんでいるのは、金髪の女性、ローザだった。緑の目は獲物を見つけた猫のように、きらきらと輝いている。


「ちょうどいいから、朝までそうしてなさいよ」


 彼女の左手にあるものを見て、アンジェラの顔から血の気が引いた。

 それは、麻のロープだった。それがなくては、この井戸の底から出られない。


「あんたがそこにいる間に、あたしは夜のウィルフレード様を射止めるんだから」


 自らの武器だと言った豊満な胸を揺らし、ローザはアンジェラに微笑みかけた。


「大丈夫、朝になったら、ロープとこれは返してあげるわよ」


 ランタンの灯りと共に、ローザが丸く切り取られた視界から消えた。

 返すと言って見せたのは、ロープと―――


(投げてなかったんだ……)


 革紐に通された母の指輪。それがこの暗い井戸の底に投げ込まれていなかったと知って、アンジェラはホッと安堵した。だが、それと同時に、どうしようもない憤りも沸きあがる。

 むしょうに腹が立った。

 腹を立てることは、冷静さを失うこと。それはいけない、と、昔、色々な人に教わった。


(でも、どうやっても、腹が立つんだから、どうしようもないじゃない!)


 アンジェラはキッと上を見上げた。井戸の壁は石を積んだもので、少しは凹凸がある。


(絶対に、抜け出してやるんだから!)


 彼女の手が、力強く壁の石を掴んだ。



.。:*·˚+.。:*·˚+.。:*·˚+.



「は~ん、なるほどね。そりゃ、つらいな」

「そうなんですよ。それに比べてこのお邸は、きつい先輩もいないので、羽を伸ばし放題です」


 ウィルは台所で出くわしたサラと仲良く談笑していた。

 やたらと身体の一部を押しつけてくるローザに比べ、こちらの方が気楽に会話できる。


(そりゃ、乳がでけぇのは、いいけどな)


 ウィルだって男だ。手を出したい欲望もある。

 だが、面倒な事になるのだけはごめんだった。

 まだ王都にいた頃も、使用人の中にローザのような、あからさまな人間は掃いて捨てるほどにいた。そんな下心満載の女に手を出して、一生つきまとわれるのは避けたかったから、それを生業なりわいとする女しか抱いていない。


「そういや、いつまでいるんだったか?」

「領地管理の仕事と邸の大掃除が終わり次第です。掃除はあと数日で終わる予定ですから、あとはマクレガー氏の仕事ぶり次第です」


 淡々と答えるサラの目に、隙あらば、という輝きが宿ったのを、ウィルは捉えた。

 こいつもか、と思う反面、そう言えば、アンジェラはそういう意志がまったくないことに気付いた。


(むしろ、それを避けてるしな)


 もちろん、年齢のせいもあるのだろうが、そのあたりのモラルの持ちようは、不倫が横行する貴族階級に手本として見せてやりたいぐらいだった。


「ウィルフレード様?」


 思わずにやけていたのだろう、ウィルは「なんでもねぇ」と取り繕った。


「まぁ、ウィルフレード様! また、お酒を飲みにいらしたんですか?」


 台所の勝手口から入って来るなり、ウィルの隣に座ったのは、色気二割増しのローザだった。自分の武器と心得ているのだろう。上着の胸元を大きく開き、何気なく両腕で寄せるように持ち上げた。


(やれやれ、そろそろ退散しどきかな)


「あぁ、そろそろ酔いが回ってきたんで、上がるけどな。悪いが片付けを―――?」


 媚びるように不満そうな表情をしたローザの手首に、何が絡まっているのが見えた。ブレスレットの代わりか、細い革紐を二重三重に巻きつけている。そしてそこに引っかかっているものが、あの指輪だと分かったとき、ウィルの目がすいっと細められた。


「その手首の、ブレスレットか?」


 指摘されたローザは「似合ってます?」と返事をした。向かいに座るサラですら、激変したウィルの様子に戸惑いを隠せないというのに、隣に座っているローザだけが気付かない。


「……で? どうやって取り上げた?」


 その言葉に反論しようとしたローザは、ようやくウィルの表情に気が付いた。


「と、取り上げたなんて、ひどい言い様ですのね。わ、わたしは、あの子から譲ってもらっただけですのに……」


 いつもはサラリと口が回るのに、青い目に射すくめられて、声も震える。


「へーえ? じゃぁ、本人に確認とってみりゃいいんだな?」


 ウィルはローザの腕を掴み、無理矢理立たせた。痛いと悲鳴を上げた気もするが、聞こえなかったフリをする。


「おら、行くぞ」


 涙目になったローザを見かねてか、それまで、口を押さえたまま硬直していたサラが「お待ちください」と声をかけた。


「アンジェラでしたら、部屋にいないと思います。さきほど、外に出て行くのを見ましたから」

「あん? 中の掃除だけじゃ飽き足らず、外まで出やがったか? ―――いや」


 外、という言葉に、過剰に反応したローザに、ウィルは思案し、その推測に至った。


「てめぇ、まだ隠してやがんな?」


 さっき、どうして彼女が勝手口から現れたのか? その答えが、この指輪にあるとすれば―――


「アンジェラは、どこにいる?」


 凄みをきかせた声に、ローザは慌てて首を横に振った。

 だが、勝手口まで彼女を引きずると、抵抗がいっそう激しいものになる。

 ローザの腕を掴んだまま、ウィルは月明かりを頼りに目を凝らす。


「ウィルフレード様、私が探して参ります」

「いや、その必要はない。……お前は知っているんだろう?」


 知らないと首を振るローザを、勝手口まで引きずる。

 どこから探そうかと思案したウィルの目が、一点で止まった。


「ウィルフレード様?」


 月明かりに光る金髪に、驚いた様子の黒い瞳。泥だらけのズボンとシャツを見に付けたアンジェラが、呆然と立っていた。隣に立っている黒髪の下男が頭を下げるのが見えたが、そんなものはどうでも良かった。

 心配かけやがって、と思ったウィルだが、口から出たのは全く別の言葉だった。


「よう、アンジェラ。夜に泥だらけの服でお出かけか? しかも男連れで」


 その言葉に、ウィルが今までになく怒っていると察したアンジェラの身体から血の気が引いた。だが、せっかく井戸から出るのに助けてもらったオリバーまで、迷惑をかけるわけにはいかない。


(でも、なんて言い訳したら、いいんだろう)


 アンジェラは、ウィルを見つめ、考え込んだ。


「ウィルフレード様」


 即答できない少女を見て、助け船を出したのは、予想外の人物だった。


「死にそうな思いで戻ってきた彼女に、その言葉はあんまりじゃないですか」


 アンジェラはぽかんと口を開けたまま、声の主を見た。


「そこにいるローザの罠にはまって、枯れ井戸から出られなくなっていたんです。そこから必死の思いで戻って来たというのに、そういうことをおっしゃいますか」


 朗々と響くのは、高い声。だが、そこには、女性特有の甘さはなく、むしろ少年のような清廉な響きを持っている、


「……お前、オリバーか?」

「はい。去年も一昨年も手伝いに参りましたが、直接会うのは王都以来ですね」


 ボーイソプラノの青年は、ウィルに向かって深々と頭を下げた。


「で、ローザの罠だと?」


 腕を掴まれたままの『仕掛け人』がびくっと身をすくませた。


「えぇ、面倒なので放っておきましたが、仕事を押しつける、足をひっかけて転ばせる、無人の隙に部屋をめちゃくちゃにする、といったイヤがらせを経て、そして今回、大事なものを取り上げ、枯れ井戸に投げたふりをし、探しに来たアンジェラを中に閉じ込めたのです」


 ローザは、今までアンジェラに行って来た数々の仕打ちを暴かれ、青ざめて震えた。オリバーは基本的に人と話さないから、見られても問題ないと思っていたのに、何が起きたのか、何故、こんなことに、と頭が混乱している。だが、絶望だけは確実に感じ取れた。

 アンジェラも、オリバーの手前、それらが嘘だとは言えずに、貝のように黙り込んでしまった。

 そして、全てを告げられたウィルは―――


「おい」


 ローザの手首から革紐を乱暴に抜き取ると、あっさり彼女を解放した。


「今の職を失いたくなけりゃ、二度と、オレの前に顔見せるな」


 腕をさすりながら後退ったメイドに、ふりかえりもせずに言い放つ。

 何を言われたのか理解できなかったローザが、「え……?」とボケた声を出した。


「分かったら、とっとと部屋戻れ、この性格ブス!」


 噛みつかれそうな勢いで怒鳴られ、ローザは慌てて逃げるように台所を出て行った。


「表向きは不問、ということでよろしいのでしょうか?」


 残っていたサラが、脅えながらも声をかける。


「お前もその方がいいんだろ? アンジェラの部屋へ行くのを止めたのも、ロイに騒ぎを気付かれないため、―――違うか?」


 サラは小さく目をみはり、「お心遣い、感謝いたします」と、ローザを追いかけた。


「やれやれ、後であの二人にも口止めしなければ」


 オリバーは肩をすくめると、隣でうつむいたままの少女を見た。


「アンジェラも黙っておいて下さいね。こんな恥ずかしい声だなんて知られたくありませんから」

「は、はい。助けて下さって、ありがとうございました」

「ウィルフレード様には、今さら口止めの必要もありませんね。それでは、もう眠いので失礼します」

「おう、手間かけさせたな。今度、埋め合わせするわ」


 ウィルが友人のように軽い口調で声をかけると、「期待しないでお待ちします」とすれ違い様に答えられた。

 残されたのは二人。


「さて、……ほら、手ぇ出せ」


 アンジェラはおずおずと両手を差し出そうとして、慌てて引っ込めた。


「あ、あの、よろしければ、それ、差し上げます」

「あぁ? 何言ってんだ。夏からこっち、ずっと身に付けてたじゃねぇか。大事なもんなんだろ?」


 夏から、という言葉に、アンジェラはようやく顔を上げて、まっすぐにウィルを見た。その瞳が「どうしてそれを知っているのか」と問いただす。


「あほう。一緒に寝てりゃ、イヤでも目につく。真鍮なんて昼のあいつの好みじゃねーし、おおかた、里帰りのときにでも、もらったんだと思ってたが、……なんだ、違うのか?」


 鋭い洞察力に、やはり昼の主人と同一人物なのだ、と思い至るアンジェラ。と、目の前の銀髪の青年は、少女の腕を掴み、手を自分の目の前に差し出させた。


「大事なもんなんだろ? オレなんかに―――」


 まずい、と慌てて手を隠したが遅かった。


「……あんのクソアマ、一発殴っとくべきだったか」


 絶対零度の声音に、アンジェラは今にもローザの部屋へと駆け出して行きそうなウィルの腕にすがりついた。


「このぐらい、全然平気ですから……!」

「平気? 指先から血が出て、爪が折れて、……あぁ、めくれてんじゃねーか」


 自分の腕を掴む傷だらけの指に、ウィルは顔をしかめた。


「傷口も洗いましたし、放っておけば直ります!」


 きっぱりと言い切った少女に、ウィルは思わず吹き出した。


「ウィルフレード様……?」

「お前さぁ、なんでそういう強気なところをあいつらに見せないわけ? ……ったく、しゃぁねーな」


 ウィルは身体ごと振り返ると、戸惑うアンジェラをぎゅっと抱きしめた。


「一回はお前のお人よしに免じて許してやる。二度目はない」


 低い呟きに、アンジェラは「はい」と返事をした。


「言っとくが、お前にも怒ってんだからな。……そんなになる前に、オレに言えっての」


 その言葉に、色良い返事は戻ってこない。まぁ、分かりきっていたことだが。


「次は、お前にも怒るからな」


 耳元で囁かれる言葉に、アンジェラは唇を噛み締めた。


『荷物をまとめて出て行きなさい。あなたがいては、ウィルフレード様は王都に戻ることはできません』


 フラッシュバックした言葉に、「次」はないのだと、思い知らされる。


『あなたは、ウィルフレード様の未来を閉ざす害虫でしかない』

(分かっています。あたしは、ここにいるべきではなかった―――)


 アンジェラは、気力だけでウィルを押しやった。


「どうぞ、お戻りください。もう、夜も遅いですから」

「……ちぇっ。ま、そろそろ明日にひびくしな」


 それじゃお先に、と台所を出る背中を、アンジェラは深々と頭を下げて送った。

 これが最後なのだと、呟きながら。


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