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繋いだその手の温もりを‥

作者: 杏子

小説とは少し、逸れてしまった作品かも

しれませんが伝えたい部分は押さえて

書きました。


※初心者なので、見てて不快な方がいましたら申し訳ございません。



私が握る手は、その手”だけだと

思ってた。


いつも冷たい私の手を温めてくれる優しいその手は私の心も温めてくれていた。


何気ない一言や、屈託のない穏やかな

笑顔。  当たり前だと思ってた。

いつまでも続くと思ってた。


でもね。

全てに終止符を打ったのは私だったね。


貴方の優しさに甘えてばかりで

どんどん見失う自分の心。

どんどんズルくなる私の心。


それでも包もうとしてくれてた。

いつも包んでくれていた。


貴方にとってじゃなくて、

私にとって必要で、何より失いたくなかったのに、自ら手を離したんだ。


今、貴方は笑っていますか?

相変わらずその手”の温もりは

誰かを温めていますか?


大事にしたかった。

ただ、側で笑っていて欲しかった。

あの時に今、戻れるなら出来ることは

山ほどあった。


全て、捧げた青春だった。


今も忘れない、そしてこれからも

忘れることはないだろう。


どれだけ恋をして、どれだけ時間が

過ぎたとしても、貴方との物語が

私の中から消えることは決してない。



冬の始まりを伝える秋風と供に

やってきた私の少し、ほろ苦いその恋は

寒い冬に始まって、寒い冬に終わった…。


冬が来るたび思い出す。

身体が風を覚えてる。

目を瞑れば、あの頃の自分に戻って

目から涙が溢れる。


沢山の想いも深い愛も感情も‥

時を経て私の元に辿り着くよ。


あの時分からなかった事が

10年立って辿り着く。



それでも、貴方は最後に言った。


”梓は梓のままでいい。”

どうして最後にそんな事が言えたんだろう。

あんな酷い私に優しい言葉を

最後に残してくれたんだろう。

あの時も今も、私は貴方には敵わない。


いつから私は、素直に

なれなくなっていたんだろう。


ありがとう‥。

沢山の想いをくれて。


ありがとう‥。

沢山の感情を教えてくれて。


ありがとう‥全力で愛してくれて。


今もそれは形を変えて

私に、勇気や力を与えてくれています。


私はもう、ありがとう。

というたった5文字の気持ちさえ、

伝える事が出来ないね。


でも、ふとした時に

届くかなって、空を見上げて

しまうんです。


届くわけないって分かっていても

想ってしまうんです。

もう隣に居なくても、小さく

貴方の幸せを願っています。



~出会い~

同じ年の彼氏がいる高校中退。

神田 梓(かんだ あずさ)16歳。

ガソリンスタンドのバイトを辞めて

毎日遊んで過ごしていた。


彼氏の名前は優也。

顔がタイプで一目惚れして

10ヶ月追っかけ回して捕まえた

大好きな彼氏だった。


優也は強面の見た目と違って、硬派で

シャイでとても優しい人だった。


やっと付き合うことが出来て

仲良く過ごしてた。


優也は鳶の仕事をしていた。


デートをするにはお金もかかるし

私は、バイトを探す!!と意気込みながら

時間だけが経っていた。


そんな私を見て優也も少しだらしなく

思えていたようだった。


優也から電話が来ていつものように

次のデートの予定を決めていた。


そして少し、息を呑んでから

「お前、いつになったら働くの?」


いつも優しい優也だけど、

真面目な話をするときは強面のその顔に

力に入ることを知っている私は

ドキリとしてしまったが気の強さが

勝って少し、開き直った口調で


「えっ‥うーん。でもバイト見つからない

んだもん。」


と答えた。

少し沈黙を置いたあと、

「そじゃあデートしねえ!!」


それだけ言葉を吐いて電話は

切られてしまった。


私は、少しの反省と焦りを感じて

仲のいい真琴が働くお惣菜屋さんで

バイトを募集していないかを

聞くことにした。


「もしもし?真琴?いま、平気?」


「うん!大丈夫。どうしたの?」


という会話から始まり

ひとまずブータレながら

優也の愚痴を話して本題のバイトに

ついて聞いてみた。


「丁度、バイト辞めて店長が困ってたところだよ!!聞いてから、また連絡するね。」


と、暖かく協力的な友情に感謝しながら

電話を切った。


30分もしないうちに真琴からの着信が

来て、ドキドキしながら電話をとった。


「梓!  明後日の夕方、面接に

きな!! 履歴書しっかり書きなよ!!」


「ええええ!やったー!!

本当にありがとう!!」


「でも梓と一緒にバイトかよー!!」

なんて、少し照れくさそうに真琴は

言った。


私は、優也とデートがしたくて。

優也と仲良くそばに居たくて。

急いでバイトを見つけんだよね‥。



明後日の面接のために履歴書を書いていた。


そして面接当日。

遅刻厳禁!!と、心配症な私は15分も前に着いてしまった。


時間5分前までドキドキしながら

スーパーをうろついていた。


時間になり、無事に面接は終了して、

「じゃあ、来週から宜しくね。」

と、スムーズにバイトを見つけることが

出来て、ひと安心していた。


店長という人は気作で、溶け込みやすい

人柄だった。


私は、あれから優也に連絡しずらくて

優也からも連絡は来なくて、

戸惑っていた。


たった2日間だけど、毎日連絡をとっていた

私達には長い2日間だったと思う。


時間は17時を回っていて優也も

丁度、仕事が終わる時間帯だった。


‥よし‥。バイトも決まったし

優也に勇気をだして連絡してみよう…


と、携帯を手にとった。


電話は慣れない。

声は聞きたいのに、電話はなぜか

何度かけても恥ずかしい、私にとっては

慣れないものだった。


「はい。」

少しぶっきらぼうに電話をとる優也に


「この前はごめんね。私、バイト

見つかったよ!!」


最初にごめんね。を言わないと

なかなか素直にごめんね。が言えない私は

少々、早口になっていたと思う。



「…」


優也は何も応えてはくれない。


あれ?嬉しくないのかな?

不安になって、もう一度

「わたしバイト…」


と、言いかけた時。


「あんな言い方して悪かった。

でも俺おまえにちゃんとしてほしくて。」


と、優也は言葉を詰まらせた。


「これから帰るから戻ったら

会おう。」

この一言で私達は電話を切った。


優也って、本当に優しいなぁ…

なんて呑気に思いながら、優也の

帰りを待っていた。


私達がよく行く公園があった。

そこで待ち合わせをして、

連絡も取っていなかったし、

なんだかすごく久しぶりに会えたような

気がしてとても嬉しかった。


バイトも見つかって、また2人仲よく

話していた。


すると優也が、

「俺さ、バイクの免許とってくるよ!!」

と、言ってきた。


「え?バイクの免許なら持ってる

じゃん?」と、答えると、


「単車だよ!」と答えた。


私は頭の中で、単車の免許…

単車の免許…


!!!

合宿!!?


なんて考えていたら、

「そーだよ、合宿だよ。」

と、笑って答えた。


いつも、考えてることがだいたい

見抜かれてしまうのはなぜなんだろう…。


「単車とったら、1番にケツ乗せてやる

からな。」と、微笑んでいた。


私は寂しい気持ちを胸にしまい込み

わかった。と、微笑み返していた。


思い返せば、この頃から

私達の歯車は狂い始めていたの

かもしれないね‥。


時は11月に入った頃だった。


私は真琴の顔を潰すわけにはいかないと

バイト初日にメイクも濃すぎず、

けど清潔感あるように‥なんて

考えながら準備をしてバイト先に

向かっていた。


真琴は高校に通っていたので

通常17時からのバイトで、

私は高校中退のため、昼間のタイムで

働くことになっていた。


なんでこんなに初日って緊張

するのかな〜。なんて思いながら

ドアを開けた。


「おはようございます!!」

元気だけが取り柄の私は、元気よく

挨拶をした。


やっぱり知り合いの紹介だと馴染みやすい

し、真琴には本当に感謝しなくちゃ♪


お惣菜屋さんのすぐ隣には

お肉屋さんが入っていた。


すぐ隣なだけあって、お惣菜屋さんと

お肉屋さんは仲がとても良さそうだった。


タイムカードを押すときに行き来するので

別だけど、別ではないような感じがした。


バイトに入ってみるとお惣菜屋さんなだけ

あって、頭はジャムおじさんのような

帽子を被って少しダサくて恥ずかしい‥

なんて思っていた。


帽子の角度を変えても何も変わらないのに

更衣室で3分は帽子直しをしてただろう。



「おはようございます。」

すごく小さな声で、下を向きながら

きまづそうにお肉屋さんに向かう

一人の男の人が居た。


顔は笑っているのに、なぜか

焦ってるようにも見えるその人は

高山 真(たかやま しん)

という人らしい。


私に色々、教えてくれる金田さんが

「真!また遅刻?

タイムカードは打っといたから。」


と言って少し笑った。


「ありがとうございます。」

と、少しイタズラをした少年のように

高山さんは、笑い返していた。


通り過ぎたあと、金田さんは

「真は、遅刻の常習犯だからね。

絶対に見ならっちゃだめだヨ。」


と、冗談交じりで話していた。


二人はとても仲が良さそうだった。


無事に初日のバイトも終わり

真琴に改めてお礼の電話と優也にも

バイトの話しや合宿の予定の話しなど

を聞いていた。


私は今日までの間、バイトをしてなかったのでクリスマスには手編みのマフラーを

優也にあげよう。と、前から決めていて

編み出していたのだ。


実は完成は間近で、クッションも

作ろうかな?なんて余裕まであった。


でもクリスマスより合宿だし、寒いだろうしなぁ‥と少し早いけど優也に先に

手編みのマフラーを渡すことにした。


内緒にして少し会えるか聞いたら

会えると言われたので、いつもの公園

のブランコに珍しく乗り、優也を待っていた。


こっちに向かう優也がカッコイイなぁ!!

なんてニヤけながらブランコを

降りて優也の元にかけ寄った。


「はい、これ!!」


優也は少し驚いて

「なにこれ。」

と、首を傾げていた。


「開けてみて。少し早いけど‥

クリスマスプレゼントだよ。」


と、私は言った。


優也はとても驚いていた。

そして、何より。

とても恥ずかしそうだった。


「ありがとう、合宿に持ってく。

俺が戻ってくるまで、バイト楽しく

頑張れよ!」


と、言ってくれた。

合宿の期間は三週間だった。



それから、優也も仕事を頑張って

私もバイトを頑張って。

そんな日々が続いてた。


そんな時、真琴から

少し会える?”と、連絡が入り私のバイトが

終わってから会うことになった。


バイトの話を軽くしてから

真琴が本題を出してきた。


「ねぇねぇ、高山さん。

分かる?」

と、聞いてきたのだ。


あー!! あの遅刻魔の!!と、

心なかで想いながら

「うん!分かるよ!」

と、答えた。


「‥かっこ良くない??」


真琴はあまり好きな人の話を

してきたり、ましてや好きな人

がいることも滅多に無かったのだ。


私は、タイプではなかったけど

「え、うん。まぁ…

で、どうしたの?」


と、尋ねた。


すると高山との会話や出来事を

嬉しそうに話して、こっちまで

嬉しくなっていた。


でも真琴が最後に

「でーもさぁ。高山さんって結婚してるんだってさ。」


と、少し切なそうに言っていた。


私は、言葉につまりながら、

「でも、今の真琴すごい楽しそう。

これからも仲良く出来るといいね。」


と、答えて真琴は静かにうなずいた。



優也がついに、合宿へ出発。

時は12月を迎えていた。

戻ってくるのはクリスマスの後

くらいかーなんて思っていた。


合宿へ行ってからも、もちろん

連絡をとっていた。

単車は凄いだとか、勉強がどうだとか。


でも一つ、嬉しいことがあった。

とてもシャイな優也が、

「やっぱ、お前に会えないのは寂しい。

でも、お前がくれたマフラーまいて俺

寝てるよ、暖かいよ、本当にありがとう。」


と、伝えてくれたことだ。


私は、優也にHYのあなた”の、

曲のような人だね。とよく伝えていた。

本人はそんなことねぇよ。なんて

言いながら合宿で聞けるように

iPodを持ってって聞いていたらしい。


その日私もHYのあなた”を聞いてから

眠りについた。


朝目覚めると真琴からメールが

入っていた。


ちょっと!!

高山さんとメアド交換しちゃったんだけど!!

その交換する時の高山さんすごく

かっこ良かった!!


と、書いてあった。


私は、気になりつつも

真琴は高山さんにとても夢中なんだなぁ。と感じながらバイトだったため携帯を閉じてバイ卜先へ向かった。


真琴の事もあり、私も自然と高山さんとも

よく会話するようになっていた。

金田さんと高山さんとのやり取りも

よく見ていて、本当によく笑っていた。


お惣菜屋さんのバイトとても楽しかった。

いつしか、ジャムおじさん帽子も

嫌じゃなくなっていた。


そんな時、高山さんは27歳で

4歳の息子さんが居ることを知った。



バイトが終わって、真琴に電話をした。


この日私は、少し離れで一人暮らしを

始めた友人の家に行く約束をしていた

ので向かっている途中だった。


真琴の声には今朝のメールの

テンションの面影はなかった。


「もしもし?

どうかっこ良かったのよ!!」


など、聞いても内容を普通に

話してくるだけだったのだ。


そして

「高山さん、梓の連絡先が

知りたいんだって。」

と、言われた。


私は、え、なんで?と思いながら

「いや、私は優也もいるしいーよ。」

と、答えた。


すると真琴が

「いや、高山さん知りたいみたいだから

教えてあげてもいい?」

と、聞いてきたのだ。


私は、真琴が落ち込んでいるのを

微かに感じていた。


そこで、私は考えた。

私が中間に入ってあげればいいんだ。

と、思い付いたのだ。


真琴に

「分かった、いいよ!!

私、中間に入る!! 仕事終わってからとか

少し、話したいよね!」


と、言った。


すると真琴は少し元気を取り戻して

「!!ありがとう! うん、宜しく!」


と、行って電話を切った。

真琴は高山さんに憧れを持ちながら

結婚してる人だから仲良く話せる

だけでいいんだ。と、よく口にして

いたのだ。


電話を切って、5分もしないうちに

知らない電話番号から着信が入った。


真琴が高山さんに教えたんだろうな。と

すぐにわかった。


私は、真琴と電話を切った後

電車に乗り込んだので

その電話には出られなかった。


着信に出ないまま切れた後、

ショートメールが送られてきた。


何してるの?


というような内容だった。


いきなりのメールが何してるのって

なんなんだ‥って思ったのが

正直な私の気持ちだった。


友達の家に向かうので電車の中

なんですよ、電話には出れません。


と、メールを返した。


そこからメールが終わらず

結構なやりとりを重ねていた。


単純にメールが楽しいとか、

久しぶりに友達に会っているのに、

メールを辞めない私がそこに居た。


少し変化がある自分の感情に

気付かないふりを

してたのかもしれない。



大好きな、私を想ってくれる優也。

大切ないつも味方でいてくれる真琴。

結婚しているお肉屋さんの高山さん。



どう考えたって、

大切にするものの順番は決まってた。

迷う事はなかったはずだった。



私、この時想ったんだ。

恋をすると人って、何も見えなく

んだなって。

恋は盲目。なんて、言葉は言葉で

しかなくて意味だって対して分かって

居なかった。


冷静に物事を判断することも

出来なくて、想いのままに

それは止まることを知らなくて

どんどん進んでいくということ。


恋は楽しいものだった。

嬉しいものだった。

たまに悲しくて切ないものだった。


でも、高山さんと恋をして

恋は怖いものなんだ”と、

初めて思ったんだ。


分かっているのに止められなくて

いけないことでも、止められなくて

人のものでも、止められなくて。


誰かを傷付けようとも、

想いのままに突っ走って。


この時の私は、自分のことしか

考えていなかったんだと思う。


高山さんとは、今までのように

バイトに行けば毎日顔を合わせる。


メールも来る。


そんな時、高山さんにバイト終ってから

少し会えないかな?とお誘いがあった。


この時はまだ、真琴の話をすれば

いいかな。なんて思っていたけど

今想えば、真琴の話しの前に、真琴が

いる時に会うべきだったんだ。


色んな状況からセーブしていただけで

もう、気持ちは芽生えてたんだね。


バイトの近くに公園があって、

そこで高山さんと会った。

優也と会う公園には日中よく子供が

遊びに来て、人通りが多い公園だった。


高山さんとあったその公園は、

人通りは少なく、遊具も少ない

そんな公園だった。


先に、公園についていた私は

高山さんが来るのを待っていた。

高山さんは暖かい少し甘めのコーヒーを買ってきてくれた。


時は優也が合宿に行ってから一週間が

経った頃だった。

もう、とても寒い風がふいていた。


高山さんは改めて、結婚してる事や

子供のこと、そして家庭の話などを

してきてくれた。


私も彼氏がいること、今合宿に

行っていることは伝えていた。


そんな中、高山さんに

「あの遅刻した日、梓ちゃんを見て

一目惚れしてしまった。」

と、ビックリするほどストレートに

伝えられた。


初めてのメールも何してるの?と

ストレートだったことを思い出し

私は、少し黙ったあと

「ありがとう。」とだけ答ていた。


高山さんは、遠くから通っているので

電車で時間がかかる。

でも、そのギリギリの終電まで

私と公園に居た。


家に着く時間が遅くなれば寝る時間も

遅くなる。

明日も遅刻するのかな?なんて

思いながら駅の改札で手を振った。


私も、歩いて15分程のところに

住んでいた。


白い息をはきながら帰っていった。


翌日、高山さんはやっぱり遅刻をして

私の後ろを通り過ぎてお肉屋さんの扉を

開けて消えていった。


それから、何度かその公園で

高山さんと会うようになっていた。


遅刻魔の高山さんが、

朝も早くに出るから、朝少し

あの公園で会えないかな?と、

行ってきた。


私は第一声に、

起きれますか?と、笑ってみせた。


真琴とも、私の帰り際に顔を合わせていた。

優也とも連絡をとっていた。


起きれますか?と問う前に

考えるべきことがあったはずなのに

その時の私に、それらのこと考える

スペースは脳内には残っていなかった。


この日も終電まで他愛のない話や

バイトの話をしていた。

いつも暖かい少し甘めのコーヒーを

買ってきてくれていた。

会う度に時間の速さを感じていた。

会う度に、最後に残るコーヒーは

冷たさを帯びていた。


また、改札まで見送って手を振る。

そうして高山さんからメールが

送られてくる。 

こんな日常が日課になっていった。


優也ともおやすみやおはようの

やりとりはしていたけど、

メールや電話の頻度は明らかに

減っていた。



朝も、やっぱり寒いなぁ…と思いながら

バイトの2時間ほど前から高山さんと

公園で会っていた。


遅刻魔の高山さんは、私と会う日だけは

遅刻をしなかった。



空っていいな。

空っていいね。

空は広くて大きくて。


そう言ったのに終わったの恋。


中学の時に一年ほど付き合ってた

大好きな彼氏と別れた時に凄く落ち込んで

作った短編すぎるザックリなポエム。

15歳の私には充分なそのポエムを見て

今度は、ならないように‥

こうなりたくない‥と思いながら、

恋愛してた。


それでも私はもう、気持ちでも。

身体でも、優也を。真琴を。

既に裏切っていた。


そう。

私のために、単車をとりにく優也と

私を信じてくれている真琴に罪悪感を

抱きながらも…。



「お前、最近連絡ないけど、どーしたの?」


優也からメールが入ってた。

優也にどう接していいか分からなくて

あまり連絡をできなくなっていた。


「ごめん、ちょっとバイトが忙しくて。」


誤魔化しなんかに全然ならない文章

でしか返せていなかった。


真琴からも連絡も入った。

高山さんと何かあったでしょ?


私から真琴に話さないといけないのに

真琴から切り出してくれたことを

きっかけに私は高山とのことを

話した。


真琴はショックを受けていた。

そりゃそうだ。

当たり前だ。


いつから?なんで言ってくれなかったの?


でも、真琴はこう言った。

「話してくれなかったことは悲しい。

けど、高山さんとどーするの?

優也とはどーするの?」


私は、何も答えられなかった。


高山に、いつもの公園に来れる?と、

バイトが終わる頃に連絡が入った。


やっぱり、こんなのはダメ。

優也も信じてる。

もうすぐ帰ってくる。


真琴と話したことにより、理性を少し

取り戻した私は

高山さんだって、奥さんも子供もいるんだ。ダメだ。


話をしよう。

きちんとしよう。


と、気持ちを切り替えてその日、

いつもの公園へ向かった。


高山さんは今まで通りに接してくる。


「ねえ、奥さんにバレてない?

大丈夫なの?」


なんて‥  私はズルい。

今更、何を言ってるんだろう。

そう思いながらも

「私も、私のことを信じてる

彼氏がもう帰ってくる。

もうこんなことはやめよう。」


と、口に出した。


「俺、離婚するよ。絶対に離婚する。

梓ちゃんと一緒に居たいんだ。」


と、返事が返ってきた。


分からない…。

嬉しいのか悲しいのか。

取り戻した理性は自分でも驚くほど簡単に

揺らいだ。


私は真琴のあの優しさを思いだした。

腹もたっただろう。

裏切れて悲しかっただろう。


でも、真琴は責めることはなく

私のことを気遣って、心配まで

してくれた。


自分の事しか考えてない私なんかとは

全然違うのだ。


「それじゃあ子供はどうするの?

離婚して欲しいと思ってない。

離婚されても責任も持てない。

私も彼氏を大事にしたい。

勝手だけどごめんなさい。

もうこうやって高山さんには会えない。」


少し、口論が続いた。


それでも高山さんの意思は変わらないよう

だった。


ひとまず、終電という時間が迫って

きたので私達は、別れた。

いつものように改札で高山さんを

見送って。


ポツリポツリといつもの道を歩いて

帰った。

その道はいつもより長く感じた。

そしてその途中、

イタズラにも優也ではなく

高山さんとのことばかりを思い出せた。


どうしてだろう。

人は、間違っていると分かっていても

揺らいでしまう。


どの道が正しくて

どの道が間違いなのか私には

分からなくなっていた。


芯を強く持っていても、

簡単に揺らいでしまう。


怖い感情を知ったんだ。



また時だけが  流れいく。

結局、何も変わってはいないのだ。


話す会話が少し、変わった。

この程度しか変わってはいないんだ。


もう、12月も暮れが近づき

優也は帰ってきていた。


職場での忘年会があった。

真琴も行くカラ梓も行こう?と、

誘ってくれた。


真琴は自分のことより、本当に私に優しくしてくれた。


私は、この事を忘れることはないだろう。

そっと、心の中で思った。

10年たったいまでも本当に忘れていない。

真琴は今でも大切なかけがえないのない

私の親友だ。


忘年会はカラオケだった。

優也はもう戻ってきている。


着信が凄く鳴る。

手が勝手に動く。

私の携帯はマナーモードになった。

前は嬉しかった優也という表示の着信も

今では目をそむけてしまう。


忘年会を楽しんでいたのかは

もう分からない。


お酒を飲んで、気づいたら泣いていた。


金田さんがそっと近づいてきて

真?   と、聞いてきた。


答えられずに泣いていた。


高山さんと金田さんは昔からの仲なので

最初のイメージ通り本当に仲良しだった。


恐らく、高山さんに話を聞いたんだろう。


金田さんはこう続けた。


「真、離婚するってね。

あいつは言ったらやるやつだよ。

でも、私は賛成しない。

離婚なんて良くないよ。

梓、彼氏いるんだろ?

真のことは、もう辞めときな。」


そう言ったんだ。


私は更に泣いた。


だってその通りなことを知っていたから。

誰よりもやめたかったのは私だから。

高山さんと出会う前に戻れることを誰よりも

望んでいたは私だから。


こうならない機会は沢山あった。

あの時、真琴の気持ちを想えば。

あの時、優也の気持ちを想えば。


人を想わずして、得られる幸せ

なんて無いのだ。


でも、もう。

高山さんとこうなった事で、

後にも先にも戻れなかった。


理性のすべてが壊れてしまったのかと

思った。

あるのに、簡単に消えてしまう。


好きだ。と、認めてしまったんだ。


この時、高山さんがMr.Childrenの

トゥモローネバーオーズを歌っていた。


また、涙は溢れた。



高山さんはお酒が弱かった。

それなのに、忘年会では飲めない

お酒をこれでもかっていうくらい

飲んでいた。


きっと、壊れたかったのかもしれない。


バイト終わりや、バイト前に時間を

裂いて会っていたけど、

必ず家に帰っていた高山さん。


どんだけ遠くの職場でも

家に帰ることは、絶対だったらしい。

彼なりの愛情表現の一つなんだろうと

思った。


でも、この日。

飲んだくれた高山さんは、帰ることが出来ずそのまま私の家に泊まることになったのだ。


初めての外泊で、私は少し

心配していた。


高山さんも、少し心配そうだった。

でも帰らない。と、私の家に泊まった。


朝目覚めて高山さんがいることは初めてだ。変な感じがした。

昨夜のお酒がまだ残っていた。


変な感じの中に、喜びを少し感じた時、

偽善者。という言葉がちらついた。



この時、私は優也に会いたい。

なんて思っていなかった。

いや、会いたくない。

逃げたい。


これしか思っていなかった。


相変わらず着信やメールは

入ってきていた。


優也はすぐに会いに行くって

戻ったらすぐに会いに行くって。


行く前と何も変わらない気持ちで

帰って来ていた。

いつものように喜ぶであろう私を

想像して‥。


変わったのは私だけだった。


すごくすごく大好きで、

追っかけ回して捕まえて、

嬉しくて嬉しくて。


それなのにどうしてこんなに簡単に

壊れてしまうんだろう。


好きという気持は、どうして

変わってしまうのだろう。


この時に思った。

好きじゃないと言われる事より

好きじゃないと自分が相手に想ってしまうことのほうが、辛いんだって。


好きだと思ってくれてる人を。

自分が一度でも、好きだと思った人を

悲しませることって、心がとっても

痛いんだって。


そういう感情もあるんだと知った。


優也は電話を出ない私に何度も電話を

掛けてきて、私は電話と電話の合間に

メールで文章を作っていた。


”あえない”   と。


もっと、違う言葉を打ちたかった。

伝えたかった。


でも、私には”あえない”という

4文字しか打つことができなかった。


送信しました。という表示が出て

着信が落ち着いた。


今から家に行く。


返事は”あえない”という

言葉なんてかき消される文章

だった。


当たり前だ。

私の頭の中だけで色んなことが

起きていて、優也は何も知らないのだから。



マンションの玄関に近い部屋が

私の部屋だった。


強い足音が鳴る。

荒い息が聞こえる。

耳をふさぎたくなった。


ドアが開く。

私の心拍数は今、いくつだろう。

心臓の音が聞こえるとは

まさにこの事だと思った。


穏やかな優しい笑顔と口調の優也は

どこにも居なかった。


目にうっすら涙をためて

部屋に入ってきた。


私は、ただ見つめることしか

出来なかった。


もう分かっていたんだ。

何かを感じていたんだ。


優也は、第一声に

「相手は誰?」

こう言ったのだから。


私は、ごめん。

それしか言えなかった。


壁を殴って、手から血が流れてた。

手を繋ぐ時の優しいあの手”の面影はなかった。


全部、私のせいだ。

分かってる。分かってた。

それなのに、止まらない感情が

憎たらしい程だった。


私は好きな人が出来た。と、きちんと

伝えられたのは手から流れる血を

見ていられなくなった時だった。


彼は壁を殴る手を止めて、言った。


「最初から好きな気持ちはあったけど

怖かったんだよ…

好きになるのが怖かったんだよ。

でも、勇気出して好きになって

これからもっとお前と楽しいこと

しようって思った時に、なんでこう

なるんだよ。」って。


泣きながら話していた。

ズルい私も、泣くことしか出来なかった。


優也と仲良く過ごしたいから始めたバイトで優也も私のために、取りに行ってた単車の免許で。


お互いがお互いのことを考えて

動いたのに、どうしてこうなってしまった

んだろう。


私の心変わり。

でもね。気持ちの移ろいは一瞬で

少しの環境の変化と出会いで

変わってしまうものがあることを

知って、切なくも嬉しくもなっていた。



このまま突っ走っても、

高山さんと、私以外は誰も

笑わないのに。


それどころか、涙しか流さないのに。



優也とはそれから何度か話を

したけれど、私の気持ちは自分でも

知らないうちに固まっていっていた。


優也はとっても優しかった。

いつも優しかった。

シャイな優也のことが好きだった。

いつも信じることが出来ていた。


安心させてくれていたのだ。

ありがとう。



高山さんも離婚の話を出したり

この時期はあまりバイト以外で

会うことはなくなっていた。


私は、優也とは別れたけど

そこまで高山さんに強く離婚を求めて

居るわけではなかった。


自分だけの感情と、まだうっすら残りうる

理性が同居しているようだった。


重くのしかかるのは責任。

ここで高山さんが離婚をすることに

責任を感じていた。


そして、責任を持てないかもしれない。

と今になって逃げ腰になっていたのだった。


いつも私は遅いんだ。

感情で動いてから、理性がブレーキを

かける。


感情の動きか激しすぎてその頃

ブレーキは壊れているのだ。


いや元から無いのかもしれない。



時は、新年を迎えて1月も

終わる頃だった。



高山さんは本格的に離婚の話を

進めて行く中で少し疲れている

ように見えた。



高山さんが

「嫁に子供を引き取れって言われたんだ。」

と、途中経過を伝えてきた。


恐らく途中経過を伝えてきたのは

この時だけだと思う。


私は、少し考えて

「うん。奥さんが望むのであれば

そうしよう。 私、子宮とろうかな。」


こう答えていた。


安易だったんだ。全てが。

想いはあっても、出来ないことがあることや乗り越えていく中で自分との戦いは

沢山あるということ。

口で言うのは簡単だけど、その重みや

本来の意味を理解しきれていなかったんだと思う。


きっとこの時の私は、常に気持ちだけが

先走っていたんだ。


高山さんは住んでる駅から自宅までの

20分は必ず電話をしてくれていた。


ある時、こんなことを言っていた。

今、トンネルの中にいる。

トンネルの奥に光が見えてる。

もう少し。  もう少しなんだ。

暗くて寒くて周りの音も遮断されて

その道を振り返りながら

ひたすら進むしかないけど、

絶対光の元まで行ってみせる。


もうこの頃には、私も

うん、分かった。  うん。

うん。 頷くことしか出来ていなかった。



その年の4月1日。

高山さんは、7年連れ添った奥さんと

息子さんと終止符を打ち、

トンネルを抜けたのだった。


高山さんは28歳になり、私も

17歳を迎えようとしていた。



ずっと、その手”を繋いでると

思ってたあの頃。

今もその手”を繋いでると

信じて夢見て走ったあの頃。



でも、10年の時を経て

私は違う手を握っている。


10年の間に貴方を失ってから

たくさんの恋はした。


楽しかったり苦しかったり

嬉しかったり悲しかったり。


でも、それほど本気には

なれなかった。


本気だと思って接していても

何かやっぱり違くって。


でも、今握ってる手だけは

貴方を失った時のように

離したりしないで、きちんと

最後まで握っていたい。


そんな風に、想える手に

出逢ってしまった。


年々、舞い込んでくる貴方の想いと共に

その人との出逢いが私のもとに

やってきた。


強く想う。

だからこそ、こうしてペンを

とったのかもしれない。


過ごしたのは3年間だったけど

その間に得たものでこんな私でも

少しは変われただろうか。


貴方と出会った頃の27歳に自分がなって

出会ったこの手を、今度は私が

貴方が私を包んでくれたように

包みたいと想う。


忘れられない、思い出すのは

貴方が愛してくれた日々だから。


きっと出来るよね。

私は私のままで。



因果応報。

なんて、怖い四字熟語が

あるものだ。

年齢も、出逢った月日も同じなのだから。


スタートも春で、年齢はそのまま

9つ上のその人は、不器用で

とても優しい人だ。



高山さんとの3年間って、

本当にあっという間で。

喧嘩もしたし、その分仲直りもして

とにかく楽しく切なく、

でもとても幸せだった忘れられない

今では私の大事な物語。


私は少し不安だよ。

また、失うんじゃないかなって。

やっぱり上手に恋愛出来ないって。


でも、思い出すんだ。

沢山の事を改めて受け止めて、

10年たった今から、逃げずに

一歩づつまた前に進むんだ。


誰にでも失敗はあって、

たった二人の笑顔のために

たくさんの涙を創りだして

それでも、二人の笑顔さえ

守りきれなかったどうしようもない

私だけど、何も無駄ではなくて

必要な時間だったと信じて‥。



出逢いは突然で、どんな小さな

出逢いでも自分の受け止め方一つで

1にも1000にも変わる。


全ては自分次第なんだ。


今、泣いてる貴方も。

笑ってる貴方も。

落ち込んでる貴方も。

迷ってる貴方も。

誰かを健気に想ってる貴方も。

誰かを裏切ってる貴方も。


まだまだ、やり直せる。

どうとでも出来る。


生きているのだから。

そこに命があるのだから。

泣ける元気があるのだから。

愚痴れる相手がいるのだから。


諦めない強さと、

ちょっとした勇気で

1にも1000にも変わるんだ。


どんなに苦しくても乗り越えられない

壁を神様は与えない。


人間の中にはいつも、恐怖という

魔物がすみついている。

己の中のその魔物に勝つことが

出きれば、道は開ける。



この手の持ち主は

十津川 勇気(とつがわ ゆうき)


私は横浜生まれの横浜育ち。


彼は、西の方の人で横浜には

仕事で来ていた。


たまたまお酒の席で顔を合わせて

少しの会話をしただけだった。


連絡先を聞かれて、番号だけを

書いて渡した。


翌日、本当に連絡がくるとも

思っていなかった私は知らない番号

からの着信に冷たい態度で電話をとった。


そこからメールのやりとりをするようにはなったけど、頻度も少なくこんな大切な

存在になりうる人だなんてこれっぽっちも思って居なかったのが正直な気持ちだ。


連絡を取り合う中で、彼が言った。


「梓ちゃん。

梓ちゃんは梓ちゃんのままでええんやで。


無理に変わろうとしなくても十人十色。

いろんな人がいるんやから。」


聞き慣れない関西弁でも、

この言葉はとても私を優しい気持ち

にさせてくれた。


スーッと心に響いていった。



連絡をとるようになって、

半年以上は時間が立っていた。


遊ぶようになったのは

その頃だった。


思い返せば、彼との時間は

とてもゆっくりで、

とても心地よく自然と過ぎていく。


私は臆病で、すぐに落ち込み

無意識に逃げるという人間の

防御本能が強いタイプの人間だ。



そんな時も彼は

「やってみなければ分からない。

やってダメなら諦めたらええ。

だからやれるとこまでやってみたら

ええんちゃうか。」


と、私に光をさしてくる。

私にはその光がとても眩しくて

仕方なかった。




ねぇ。

もうこんな想いすると想ってなかった

んだよ。


臆病な私は、感情を最低限に抑えられる

ように練習してきたんだよ。



それでもやっぱり、

出逢いは人を変え、簡単に揺らいで

気付いたら止まらなくなる。



人を好きになって、失う可能性を背負いながらも

やっぱり、その人を求めて恋をする。



でも、それは幸せな事なんだよね。

何かに夢中になれること。


仕事でも、恋でも。

夢を持って頑張れることって

怖いことじゃない。


幸せなことなんだ。


私の中の魔物は、私だけの力では

退治できなかったけど

彼の力を借りて、少しづつ

退治できそうです。


その手を借りて、これからも

前に進んでいこう。


一人では進めない道も

大きなその手がある限り

きっと、進める。



「大丈夫。」


恋愛は人生の中で、とても大きな行事だと思います。

恋愛があっても、面倒で‥

恋愛がなくても、なんだか寂しい。


色んな想いを、抱えながらでも

人を想うことをやめられない。


なんて気持ちに共感していただけたら

幸いです。


誰かの背中の押すことが出来たら尚、

幸いです。


読んでくれて本当にどうもありがとうございました。

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