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視点切り替え マリア

「アイリスが襲われた、か。しかも、学内でなんて……」


 一人だけになった生徒会室で、私はそんな事をぼやいた。

 学内に危険人物がなんらかの形で入り、王女様を殺そうとしたのだ。ぼやきたくもなる。

 そも、この学校は魔法防壁に守られていて、容易に入る事なんてできない。入る為には、メインゲートから入るしかないが、学生証を持っていない人物がそこを通ると、学校専属の守護隊が駆けつける仕組みになっている。守護隊で手に負えない場合は、王都内に常駐する騎士部隊が駆けつけて、制圧してくれる。この二段構えの防衛形態は、未だ破られた事はない。

 

 だとすると、考えられるのは二つだ。

 一つは、魔法防壁を破って潜入したのか。まぁ、王都、というか王国に破れる人はいないと思うが。よしんば破れたとしても、魔法防壁を張った学長がすっ飛んで来てる頃だろう。

 私は、この案を即座にありえないと断定した。


 もう一つは、内通者が学内にいる可能性。

 こちらなら、可能性として高い。というか、これしか考えられない。


 だが私は、この案を即座にありえないと思うようにした。

 同じ学び舎の友を疑ってどうするのだ、と。疑心暗鬼なり、同士討ちをさせるのが敵の策略なのかもしれない。

 敵の真意がわかってない今、後手に回るしかなかった。


 それに、この問題は慎重に進めなければ、へたをすれば、多くの血が流れる事になるだろう。

 敵の真意、そして正体如何によっては、戦争にも内戦にも発展してしまう可能性がある。

 今回は失敗に終わったが、聞いた情報によると、複数人いる所で襲うような頭のネジがぶっ飛んだ連中だ。近いうち、絶対に王女様を襲いに来る。その時に、襲いに来た奴を捕まえて、情報を聞き出すのが、現状考えられる手だろう。


 私は、後手にしか回ることのできない現状が悔しかった。

 そして、それを打破できない無力な自分が情けなく思う。生徒会長だなんだと頼りにされて、舞い上がっていた自分が恥ずかしい。結局の所、何でも出来ると思い込んでいた私は、まだまだ子供なのだと再認識してしまったのだから。

 

 いけない、このままでは落ち込んでいってしまう。そう思った私は、程よくお腹がすいているのに気づく。

 ここは、お腹を満たして気分転換をしよう。

 

 そうして、私は学食へと向かうことにした。





 

 一般学食へと向かう途中、高級学食へと入っていくエミリアと、その隣にいる男子生徒の姿が見えた。

 き、気になる。あの男っ気のなかったエミリアが、男子生徒と高級学食へと入っていったのだ。気にならない方がおかしい。


 だが私は、普段高級学食の方にはいかない。通称成金食堂と呼ばれている、貴族階級と特定の許された者しか入る事のできない食堂を、私はよく思っていないからだ。差別的思考の高級学食が、どうも苦手だった。

 だから私は、普段食事をとる際は、いつも一般学食と呼ばれる、誰でも入れる学食の方を利用していた。


 だが、すごく気になる。あのエミリアが選んだ人を間近で見たい。見たい、見たい! 

 

 私は、自然と高級学食の方へと歩いていった。

 今日だけ、今日だけいいよね。


 学食内へと入った私は、すぐにエミリアを見つけることが出来た。

 目立つ青みがかった銀髪。あんな綺麗な髪色は、エミリア以外ありえない。


「エッミリア、奇遇だね。よければご一緒したいな」


 奇遇でもなんでもないんですけどね。


「わわっ、マリア先輩! もちろんっ、いいですよっ」


 そんな私を快く受け入れてくれるエミリア。なんていい子!


「ありがとう。それでそれで? 一緒にいた男の子は彼氏?」


「ち、違いますよぉ! 彼は、今日転校してきたクロード君です。学校案内も兼ねて、一緒に学食に来ただけですよぉ!」


 真っ赤になって否定しちゃってまぁ。わかりやすくてかわいいなぁ、エミリアは。

 お姉さん、ちょっと意地悪がしたくなっちゃったぞ☆

 

「学校案内ねぇ。じゃあ一緒に昼食をとる必要がないんじゃないのぉ?」


「えっと、それは、あの、あのあの、あ、わ、私が、お腹が空いたから! 付き合ってもらったんですっ」


 ふむふむ。


「じゃあ、エミリアはクロード君と二人っきりで、昼食をとりたかったんだ?」


「ふた、二人っきりなんて、そんな……。も、もう! マリア先輩イジワルです……」


 ちょっとすねた様に、真っ赤な顔で私をチラチラと見るエミリア。

 その顔やめなさいよ。何かに目覚めそう。


 そんなエミリアで遊んでいると、件のクロード君が大量の料理を持って現れた。

 そして、私は自己紹介をする。


「私はマリア、生徒会長をしているの。よろしく、クロード君」


 第一印象は、何この根暗、だった。

 こんなのがいいのエミリア。趣味悪っ。


 ……はっ。何て失礼な事を思ってしまっていたのだろう。

 なぜかはわからないが、クロード君を見ていると負の感情がわき上がってくる。

 

 そんな感情に、疑問を持っていると、またもや誰かが現れた。


「お? エミリアの嬢ちゃんやん! 奇遇やのぉ! ん? マリア先輩もおるやん! こんちゃーす!」


 ルーカスだ。やたらと今日はテンションが高いから、鬱陶しさ倍増だ。


「ん? んんん? もしかして、あんさんが噂の転校生なん? ……おっひょー! ワイはルーカス言うんや!」


 そして、クロード君を見てより一層テンションが高くなった。

 私は、多少の違和感を覚える。こいつは、こんなに初対面の奴に、積極的に話すやつだっただろうか。

 だが私は、そんな事を考える暇がなくなった。


「そういえば、高級学食にマリア先輩がおるなんて珍しいのぉ。いつも、ここは高い! 一般学食で十分だ! とか言ってるのに」


 ルーカスに喋りかけられたからだ。

 確かに、私は高いと理由つけてここには近寄ろうとしなかった。何故本当のことを言わないかというと、私がここを差別の塊だと言う事によって、それが差別になってしまうからだ。

 そして、ルーカスの言っていることはもっともだ。だけど、何か引っかかる言い方をされて、ちょっとカチンときてしまった。


「なぁにぃ? 私では場違いとでもいいたいのぉ? そういうルーカスだって珍しいじゃない。ルークといつも一緒なのに、今日は一人だなんて」


 そうなのだ。こいつは、ルークと一緒にアイリスを警護中のはず。ましてや、襲われた直後だというのに、こいつはこんな所で何をしている?


「ルークは王女様のお守り中や。なんでも、王女様の命を狙った不届き者がおるいうてな。ほんで、何を隠そうここにおるクロードはんが、刺客から王女様を救った英雄言う話や。……そういえばクロード、あんさん、アイリスの嬢ちゃん助けたとき、どうやって助けたん? ルークが知りたがっとったで」


 とんでもない事をルーカスが言い放った。

 クロード君が、アイリスを守った? そうであれば、私は、王女様を救ってくれた英雄に対して、なんたる無礼な事を思ってしまったのだろう。後で謝らなければ。


「昨日エミリアの嬢ちゃん助けたのって本当なんか?」

 

 更にとんでもない事をルーカスが言う。

 そんな、エミリアまで……。

 

 だが、私はそこで疑問に思った。

 何故、昨日ずっと探しても見つからなかった、エミリアを助けた人物をルーカスが知っているのだろう。

 もしかしたら適当に言っているのか?


「うんっ、そうだよ。クロード君が私を助けてくれたんだよっ」


 だが、そんな私の思いははずれ、エミリア本人が助けられたと言った。

 未だに信じられない私は、クロード君に本当かを聞いた。


「そ、それは本当なの? エミリアを助けたのはクロード君だったの!?」


「え、えぇまぁ。成り行きで」


 成り行きって……。この人にとっては、助けるのが当たり前なのだろうか。

 当然といった風に、そう言ったクロード君を見て、見た目で判断した自分を恥じた。


「そんな……、アイリスだけじゃなく、エミリアも助けていたなんて。ありがとう、可愛い後輩達を守ってくれて。本当にありがとう」


 私は心から礼を言った。この人がいなかったら、もしかしたらエミリアとこうやって談笑する事ができなかったかもしれないのだ。感謝してもしきれない。


 すると、いきなりクロード君は腕を振り出した。

 ブォン。と風を切る音が出るほどの速度で。

 何事かと周りの気配を探っていると、殺気の篭った気配が何人かいることに気づく。


「いや、虫けらね。結構、よっ、いるらしくて、ほっ、やになっちゃうよ、はっ」


 そして、クロード君がそんなこと言い出す。

 きっと、クロード君も刺客に気づいたのだろう。

 しかも、虫けらと言って、刺客が来たとは言わなかった。エミリアへの配慮でそう言ったのだろう。なんて紳士なんだ、この男の子は。


「あぁあ! ここは虫けらを入れるような、ずさんな管理で運営する学食なのかよ!」


 そして、クロード君はそんな大きな声を出していた。

 きっと、自分に攻撃が集中するようにわざと大きな声をだしたんだ。クロード君に攻撃が集中している間に、私が敵の位置を探れるように。


 私は、クロード君に感謝しながら、目を閉じ、感覚を研ぎ澄ましていく。

 

 私は、人に自慢できるほどの魔法が二つある。

 一つは、防御魔法。私は、この魔法で学園最強の座を取ることが出来た。

 そしてもう一つは、感知魔法。誰がどこにいるのか、この魔法を使う事により知る事ができる。この魔法で、数多の犯罪者を捕まえてきた。

 だから、今日もこの魔法で捕まえてやる。まさか、後手に回ることしかできないと嘆いていた直後に、こんなチャンスが訪れるなんて。


 そうして、感覚を研ぎ澄ましていった私は、刺客を一人一人見つけていく。


「おぅ? 姉ちゃんよぉ。ここは、虫けらと一緒に食事する所なのかぁああああ!? 五万ジルも払わせといて、こんなずさんな管理なのか!? あぁあああああああ!?」


 五人目。


「お、お客様? む、虫けら、虫、虫けらとは、どういう……?」


 六人目。


「いるだろ!? ほらっ! ほらぁああああ! ……クソッ! すばしっこい虫けら共めッ!」


 七人目。

 ……どうやら、敵は七人いるようだ。

 いくら私でも、同時に七人はさすがにきつい。

 ここは、クロード君と連携をとって――、


 バタタタタタタタッ!

 瞬間、人の倒れる音が聞こえてくる。


 先ほどまで感じていた敵の気配を、感知魔法で感じる事ができなかった。

 まさか、一瞬でクロード君が倒したというの……? どうやら、そうらしい。クロード君を見ると、何かをした後のようで、手を前に突き出していた。全然何をしたのかわからなかったが。

 

「……君の実力がここまでだったとは、恐れ入ったよ、クロード君」


 クロード君には感謝してもしきれない。

 だが、まだクロード君に甘えさせてもらおう。


「とりあえず、クロード君はエミリアを安全なところまで連れて行って欲しい。後始末は私でやっておくよ」


 クロード君ならば、エミリアを必ず守ってくれるだろう。

 そっちはいいとして、問題はこの刺客たちだ。尋問して、是が非でも情報を吐き出させてやる。そして、国の宝に手を出した事を後悔させてやる。


 私は、守護隊が来るのを待ちながら、これからの事を思って頭を抱えた。


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