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4話

 失禁騒動から少し経った今、俺とエミリアは学食で昼飯を食べていた。


「わぁ、これすごくおいしい。クロード君、これおいしいよっ」


「お? なんやクロード。いらんならワイが貰うで!」


「ルーカス、貴方行儀が悪すぎるわ。私がマナーと言うものを叩き込んであげましょうか?」


 ……変なのと一緒に。

 

 事の発端は、この学食はバイキング形式――エミリアから聞いた――という自分で飯を取って食べる形式だったから、エミリアが席の確保、そして、俺が飯の確保という風に、役割分担をした事によって起こった。


 俺が飯を確保して戻ると、赤髪の女性が座っていたのだ。


「私はマリア、生徒会長をしているの。よろしく、クロード君」


 エミリアの所に行くと、俺を見るなり開口一番そう言われた。美人だ。とびっきりの。

 どうも、話を聞いていると、エミリアの恩師? というか大先輩らしい。

 俺の名前を知っていたのは、既に失禁騒動が噂になっているから、だと言う。早すぎない?

 

 そして、これで終わりかと思って食べ始めたら、また変なのが寄ってきた。


「お? エミリアの嬢ちゃんやん! 奇遇やのぉ! ん? マリア先輩もおるやん! こんちゃーす!」


 少し長いくすんだ銀髪を、後ろで纏めて縛っている目が細い、胡散臭そうな奴が俺達に声を掛ける。


「ん? んんん? もしかして、あんさんが噂の転校生なん? ……おっひょー! ワイはルーカス言うんや!」


 そして、俺を見るなりそう言った。

 おっひょーってなんだ、おっひょーって。胡散臭い奴だ。どうもなんかこいつを見ているとイラッっとする。


 そんなこんなで、俺とエミリアと俺のよく知らない二人とで、昼食を食べていた。

 

 そして、俺は黙々と目の前の食べ物を消化していく。俺以外の三人は談笑していた。

 お腹がすき過ぎて、俺は談笑している場合ではないのだ。昨日から碌な物を食べてない俺にとっては、目の前の料理の誘惑に勝てるわけがない。

 と、俺が貪り食っていると、俺の目の前に座るルーカスが、俺に話しかけてきた。


「そういえばクロード、あんさん、アイリスの嬢ちゃん助けたとき、どうやって助けたん? ルークが知りたがっとったで」

 

 アイリス? ……あぁ、王女様ね。


「ん? 秘密」


 まさか、失神して失禁する爆弾、なんて言えるはずもなく。ここは、秘密で突き通そう。それがいい。


「秘密主義なんやなぁ。あ、それと、昨日エミリアの嬢ちゃん助けたのって本当なんか?」


 昨日の事ももう噂になってるのかよ。この学校こえー。


「うんっ、そうだよ。クロード君が私を助けてくれたんだよっ」


 俺の変わりに、俺の隣に座るエミリアが答えてくれた。


「そ、それは本当なの? エミリアを助けたのはクロード君だったの!?」


 すると、そんなエミリアの言葉を聞いて、俺の斜め前に座るマリアさんが血相変えて俺に聞いてきた。


「え、えぇまぁ。成り行きで」


「そんな……、アイリスだけじゃなく、エミリアも助けていたなんて。ありがとう、可愛い後輩達を守ってくれて。本当にありがとう」


 そして、マリアさんは俺にお礼を言ってくる。

 違うんだけどなぁ……。微妙な心境で俺はその光景を見ていた。


 その瞬間、俺に向かって変な物体が飛来してくる。慌てて俺はそれを掴み、握りつぶした。

 そして、俺はこの物体を知っている。森に住んでいたから、俺はよぉく知っている。


 これは虫だ。


 ……だが、捉え切れていなかったようで、握った手を開くと、何もなかった。

 おっかしいなぁ、ちゃんと感触があったはずなんだが……。


「……? どうしたの?」


 いきなり俺が腕を振ったのを疑問に思ったのか、エミリアが俺に聞いてくる。


「いや、虫けらがね。結構、よっ、いるらしくて、ほっ、やになっちゃうよ、はっ」


 喋っているときにも飛来してくる虫たち。そして、それを仕留める俺。

 だが、相変わらず感触はあるのに、俺の手の中には何もない。


「む、虫けら?」


 若干嫌そうな顔をしてそう言うエミリア。

 ……ほほぅ? さては虫が嫌いなのだな。女性は虫が嫌いと聞くし、今は食事中だ。尚の事いやなのかもしれない。

 虫の死骸を見せれば、それはそれは甘美な悲鳴を上げてくれるかもしれない。

 

 これはチャンスだ。意地でも仕留めてやる。振って沸いたエミリアの不幸に、俺は歓喜した。

 

 だが、同時に腹が立っていた。

 この学食は、食べ物が裸で置いてあるのだ。それなのに、こんなに虫がいるとなると、衛生管理を問いただしたくなる。しかも、ここは五万ジルもする超高級学食なのだ。五万ジルあれば、安宿で十泊できて、尚且つちょっと豪勢な食事を十日間食べる事ができる額だ。それをここは、一回の食事で求めてきやがった。俺の分はエミリアが払ったけど!

 

 そんな超高級な学食に、虫けらがいるのだ! それだけ客に払わせておいて、ここはどうなっているんだ!


「あぁあ! ここは虫けらを入れるような、ずさんな管理で運営する学食なのかよ!」


 俺は周りに聞こえるように、わざと大きい声で言った。

 エミリアはどんどんと顔色が悪くなり、マリアさんに至っては、え? この状況で瞑想してる!? 謎が多い人だ。


「む、虫けら? こ、こないな場所に、お、おるわけないやろ?」


 ナイスタイミングで、ルーカスは俺のほうを見て、そう言った。

 どうやら、ルーカスは俺に合わせて一芝居打ってくれるらしい。

 もしかしたら、ルーカスも俺と同じで、この学食の、虫を野放しにするようなずさんな管理にイラついていたのかもしれない。

 俺はルーカスのその言葉に感謝しつつ、さらに大きな声で、いかにここが最悪な場所かを言った。


「俺も最初はよぉ、いるわけないと思ったさ。そんで、いるわけないと思って、安心して入ったらこれだよ。あぁあ! 確認できるだけでも七匹もでかい虫がおるわぁああああああああああああ! ここはどうなっとるんじゃおらぁあああああああああああ!」


 一向に気づかれないので、最後は叫んで訴える。もちろん、未だに虫は俺のほうに飛びまくっていた。

 フフフ。流石にここまでしたら、ウェイトレスも飛んでくるだろう。


「お、お客様!? ど、どうされ、どうされました!?」


 すると、俺と同い年ぐらいの女性のウェイトレスが俺達の前にすっとんできた。


「おぅ? 姉ちゃんよぉ。ここは、虫けらと一緒に食事する所なのかぁああああ!? 五万ジルも払わせといて、こんなずさんな管理なのか!? あぁあああああああ!?」


 俺が叫びながらそう言うと、涙目になりながら対応してくれるウェイトレスさん。あぁ、その表情、たまらない。


「お、お客様? む、虫けら、虫、虫けらとは、どういう……?」


 しどろもどろになりながらも、何とかそう言いきるウェイトレスさん。その態度、たまらない。

 ここらへんでさっさと仕留めて、虫の死骸を見てエミリアが絶望する顔と、このウェイトレスさんが絶望する顔が見たい。それと、この学食の人気が失墜して、ここの従業員が路頭に迷う姿を見てみたい。

 なんと甘美な光景なのだろう。さっさと仕留めよう。


「いるだろ!? ほらっ! ほらぁああああ! ……クソッ! すばしっこい虫けら共めッ!」


 だが、一向に握りつぶす事ができなかった。

 だんだんとイライラしてきた俺は、黒い霧を手の平に発生させ、七つの小さい黒い球体を作り上げる。

 フヒヒヒヒ。これで虫けら共を一掃してやるぜ。覚悟しやがれ。


 そして、未だ俺に向かってくる虫けらにその黒い物体を飛ばした。

 

 バタタタタタタタッ!

 その瞬間、人が倒れる音が立て続けに鳴り響く。

 

 あれぇ……。もしかして、人に当たっちゃったのか? 結構強く打ったから、こ、殺してしまったかもしれない。あわわわわわ。


「……君の実力がここまでだったとは、恐れ入ったよ、クロード君」


 マリアさんは、突然瞑想やめ、何故か俺にそう言った。

 

「あの、えぇっと……」


 ウェイトレスさんが、状況を聞きたそうに俺のほうを見ている。

 いや、俺に聞かれても。俺もよくわからんぞ。


「とりあえず、クロード君はエミリアを安全なところまで連れて行って欲しい。後始末は私でやっておくよ」


 俺は意味もわからず、学食を後にした。エミリアをつれて。

 

 そして、後にした学食の方から、なにやら喝采が聞こえてきた。ますます意味がわからん。

 

 とりあえず、俺はエミリアを安全な場所へと連れて行くのであった。


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