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視点切り替え ルーク ルーカス

「なんということだ……!」


 僕は、アイリス様とアイリス様を狙った暗殺者を担ぎながら、廊下を油断なく走っていた。

 一刻も早くアイリス様を安全なところに運ばなければならない。それと同時に、この暗殺者を信頼の置ける人物に渡す必要があった。


 何故僕がこんな事になっているかと言うと、白昼堂々と、王女であるアイリス様が狙われたのだ。それも、アイリス様の護衛である僕の目の前で。

 僕はただただ、悔しかった。取るに足らない存在だと、舐められてるのだと、そう思われている事に。そして、僕がいても何もできないだろうと舐められ、結果アイリス様は狙われてしまった。悔しくもあり、自分を情けなく思う。


「ルーク、どうしたんや? そんな大荷物抱えて」


 ……僕が自己嫌悪に陥っていると、いつの間にか僕の横に、ひょろっとした細身の男――ルーカスが併走しながら、飄々とそんな事を聞いてきた。


「どうしたもこうしたもない。アイリス様が狙われた」


 そんなルーカスの態度に、多少苛立ちながら返答する。

 ……そして、言った後にまた自己嫌悪した。ルーカスにあたってもしょうがないと言うのに。

 

「こんな白昼堂々とか! 相手さん焦ってきよったな。……しかしまぁ、ルークの目の前で襲うなんて、バカな奴やなぁ」


 だが、そんな僕の態度を気にしてないのか、僕の言った事に対して驚いたようにそう言った。

 僕はそれを聞いて訂正をする。今担いでいるこの暗殺者は、僕ではとても倒せなかっただろう。


「いや、この暗殺者を倒したのは僕じゃない」


 舐められて当然だったのだ。僕は目の前でアイリス様が暗殺されるのを、この暗殺者が倒れるまで気づかなかったのだから。


「いやいやいや、その暗殺者倒したから担いどるんやろ? お前以外で誰が倒したっちゅうんや」


 ルーカスは、そんな僕の心境など知らずに、倒して当然と言った風にそう言った。

 違うんだ。僕は何も出来なかった無能だ。


「今日転校してきた、クロード君だ。僕だけだったら、アイリス様は今頃殺されていた」


 彼がいなかったと思うと、ゾッとする。彼がいなければ、今頃アイリス様は僕の目の前で殺されていたのだから。自分の力不足に嫌気が差す。もっともっと強くならなければ。


「転校生? そんな話は――。……ルークでも倒せん奴を倒したって、そいつそんな強いんか?」


「君は朝いなかったから知らないだろうけど、突然今朝、紹介されたんだ。それに、彼は強い。多分高等部で彼と対等に渡り合える人はいないだろう。彼がどうやってこの暗殺者を気絶させたのか、僕には皆目見当もつかない。魔法なのか、魔道具なのか。それすらも、僕の目をもってしてもわからなかった」

 

 自慢じゃないが、僕の目は特殊だ。見抜く能力を徹底的に鍛えられたから、僕に小細工は通用しない。そのおかげで、僕は高等部でも指折りの実力者に這い上がる事ができた。

 なのにクロード君は、僕が見抜けなかった暗殺者を倒し、あまつさえ、彼が何をしたのか、目の前で見ていたはずなのにわからなかったのだ。僕の目は、教師の魔法を見抜くことができたのに。僕の目をもってしても、彼の強さは底が知れなかった。


「おいおいおい、ルークにそこまで言わすなんて、どんだけその転校生は化け物やねん」


「彼は化け物なんかじゃないよ。彼は勇敢な戦士で、紳士だ。今まで出会った人の中で圧倒的に」


 彼は、罵倒されて殺されそうになった相手を助けたのだ。僕は彼以上の紳士を知らない。


「そこまで言うんやったら、一回あってみたくなったわ。と、その前に、その暗殺者はわいがあずかろか?」


 そう言われ、僕は少し逡巡する。

 だがそれも一瞬で、二手に分かれた方がいいと思い、僕はルーカスに暗殺者を渡す事にした。一刻も早くアイリス様を安全な場所へと運ぶ為に。

 それに、ルーカスは僕と一緒に護衛している仲間だ。仲間を一瞬でも疑った僕がばかだった。


「あぁ、お願いするよ。くれぐれも、反対勢力に渡らないように頼む」


 そうして僕は、ルーカスに暗殺者を渡す。


「任せときぃな。わいがそんなへまする訳ないやろ? ……んでな、さっきから言おうと思っとったんやけどな、なんか臭わへん?」


 僕は頭が若干混乱していて、臭いなんて気にしていなかった。

 だが、ルーカスに言われ、やっとほのかに刺激臭がすることに気づく。そして、その臭いの元が、暗殺者とアイリス様と、……僕だという事にも。

 気づくと背中に、制服がベッタリと張り付いていた。まるで汗を大量にかいたときのように張り付く制服は、とても不快だ。思い返してみると、僕は二人を担ぐとき、頭を僕の前にして、後ろに下半身が来るように担いでいた。

 慌てて僕は背中に手を触れ、べっとりと濡れているの確認。そして、手に付いた背中の液体の臭いをかいだ。


「……なんということだ!」


 尿でした。僕は、知らず知らずのうちに、暗殺者とアイリス様の尿を被っていたらしい。

 べったりとした不快感を背中に感じながら、僕はアイリス様を安全な場所へと連れて行った。



 ***



「チッ、ここにもおらんか」


 裏路地のゴミ箱を蹴りながら、ワイは昨日の奴を探しとった。

 聖女暗殺に失敗した後、ワイは死に至る程のダメージを受け、死線を彷徨っとった。んで、気づくと朝になっとったわ。死んだ思ったが、周りの景色を見て、生きとると実感したで。    

 ほんで、朝から昨日の奴を探しとるっちゅうわけや。正直、ワイの召喚した悪魔を、ああも簡単に倒されちゃあ勝ち目はないと思うがな。


 ま、勝てへん思うとってもあいつの素性だけは明かさなあかんわけで。あいつが何者なのかによって、ワイの今後の活動が変わってくるんや。あれだけ、えげつない強さの奴や。あんなんが敵におったらやり方かえなあかんなるわ。


 ワイはそんな事思いながら、裏路地を探し回っていた。ワイは嗅覚が異常に発達しとるねん。そう言う風に鍛えられただけなんやけどな。そのワイの嗅覚を使って、昨日ほのかに香ったあいつの臭いを辿ったら裏路地に辿りついたんや。


――だが、一向に見つかる気配がない。おっかしいなぁ、と思いながら臭いを辿っていくと、なんや、ワイが通っとる学校が見えてきよった。

 わけがわからへん。あんな強烈な奴が同じ学校やったら、とっくに気づいとるわ。まぁでも、臭いは学校につながっとるしなぁ。今日は行く気なかったが、行ってみるか。


 ワイは、大分遅刻して登校した。

 すると、教室に行く途中、金髪のイケメン――ルークがなんや慌てて、二人担ぎながら走っとった。

 思わずワイは、話しかける。


「ルーク、どうしたんや? そんな大荷物抱えて」


 すると、とんでもない返答がきよった。


「どうしたもこうしたもない。アイリス様が狙われた」


 ありえへん。ワイが殺す手筈になっとった筈や! あのお方はこんなダブルブッキングするような方やない。……もしかしたら、ワイ等以外にも勢力があるっちゅうことか? しかも、こんな白昼堂々と。ばかなのか?


「こんな白昼堂々とか! 相手さん焦ってきよったな。……しかしまぁ、ルークの目の前で襲うなんて、バカな奴やなぁ」


 しかもよりにもよって、見通す目をもっとるルークの前でや。アホのきわみや。


「いや、この暗殺者を倒したのは僕じゃない」


 だが、その言葉でワイは凍りついた。ルークが倒していない? 謙遜しとるんとちゃうんか、この真面目坊ちゃんは。


「いやいやいや、その暗殺者倒したから担いどるんやろ? お前以外で誰が倒したっちゅうんや」


 ワイが居なかったとなると、あの教室でアイリスの嬢ちゃん守れるんわルークしかおらへんやろ。大抵の奴は、ルークに適わんやろうしな。


「今日転校してきた、クロード君だ。僕だけだったら、アイリス様は今頃殺されていた」


 は? という言葉は呑み込んだ。転校生? そんな話、あのお方から聞とらへんぞ。しかも、その転校生がおらんかったら、アイリスの嬢ちゃんが死んどったやて? ルークが倒せない刺客を送った第三勢力にも驚きやが、ルークにも倒せん奴を倒したその転校生は何者なんや。


「転校生? そんな話は――。……ルークでも倒せん奴を倒したって、そいつそんな強いんか?」


「君は朝いなかったから知らないだろうけど、突然今朝、紹介されたんだ。それに、彼は強い。多分高等部で彼と対等に渡り合える人はいないだろう。彼がどうやってこの暗殺者を気絶させたのか、僕には皆目見当もつかない。魔法なのか、魔道具なのか。それすらも、僕の目をもってしてもわからなかった」

 

 どないなっとるねん……。そんな強い転校生がくるなら、あのお方がワイに知らせんはずがない。何がどうなっとるんや!?


「おいおいおい、ルークにそこまで言わすなんて、どんだけその転校生は化け物やねん」


「彼は化け物なんかじゃないよ。彼は勇敢な戦士で、紳士だ。今まで出会った人の中で圧倒的に」


 いや、紳士も何も……。

 ……ん? 何か引っかかるぞ。ワイも最近、そんな強くて、紳士みたいな奴と出会った気がする。

 これは、もしかして――。

 

「そこまで言うんやったら、一回あってみたくなったわ。と、その前に、その暗殺者はわいがあずかろか?」


 まさか、昨日の奴がここに転校してきたんか? しかも、同じクラスに? 少々出来すぎていると思ってしまうが、ワイの中でもうそうとしか思えへんくなった。

 まぁ、そうやったらいつでも確認できるやろ。それより今は、第三勢力が送ったであろう、この暗殺者や。今ルークの手に渡すには危険すぎる。もしかしたら、ワイと同じ勢力の奴が送った可能性も残っとるでや。


「あぁ、お願いするよ。くれぐれも、反対勢力に渡らないように頼む」


 ま、ワイが反対勢力なんやけども。ほんまちょろいな、ルーク。お前は真面目すぎるから大好きやで。

 しっかしまぁ――、


「任せときぃな。わいがそんなへまする訳ないやろ? ……んでな、さっきから言おうと思っとったんやけどな、なんか臭わへん?」


 くっさいなぁ、こいつら。

 漏らしすぎやろ。どうしたらそんな漏れるねん。蛇口を全開してるレベルの漏れ方やで。ドン引きやわぁ。


「……なんということだ!」


 今さら気づいたんかい!


 ワイはそんなルークを尻目に、くっさい暗殺者を人気のないところにもっていった。

 可能な限り情報を引き出す為に。

 

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