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3話

 転校初日。

 俺は今、『一S』と書かれた教室にいた。

 そして今まさに、先生の横に立ち、


「新しく転入してきた、クロード・ノワール君よん。仲良くしてあげてねん」


 って紹介されてる最中だ。


 ちなみに今の俺のファッションは、お漏らしを取り入れていない。

 あれから裏路地で一夜を明かした俺は、朝起きると、目の前に新しい服とお金が置いてあったのだ。だれだかわからないが、物好きな人もいたものだ。

 まぁ、今回はその人のおかげで助かったわけだが。


 そんな事を考えていると、俺の紹介が終わったのか、先生が席に座るよう促してきた。

 

「ノワール君の席は一番後ろの空いている席よん」


 階段式の教室だから、一番後ろの席だったとしても、すぐにどこが空いているかわかった。

 窓際の席が空いているのを確認し、そこへと向かう。先生は相当せっかちなのか、俺がまだ席についていないのに、授業を始めだした。俺は慌てて席へと向かう。

 だが、あと少しで自分の席につくという瞬間、突如として教室に大声が響き渡る。


「「ああぁああああっ!」」


 俺は、いきなりの事に若干ちびりながら、声の方向へと視線を移す。

 二人の女生徒が立ち上がって、こちらを指差していた。

 片方は全く見覚えがない。誰だこいつ状態。


 だが、もう片方には見覚えがあった。昨日の銀髪の子だ。

 俺はなんて幸運なのだろう。探す手間が省けたのだ。今度こそ絶対に君を不幸にしてあげるね!


「あらん? 二人ともノワール君とお友達なのかしらん。じゃあちょうど席も近いし、いろいろとこの学校の事を教えてあげてねん。後大声は出しちゃダメよん。先生びっくりしちゃうから」


 そう言われた二人は、恥ずかしそうに席についた。

 席に着いたのを見て、自分の運のよさに恐怖すら感じる。銀髪の子が座った場所は、俺の隣だったのだ。俺は、必死に笑ってしまうのを抑え、俺の席――銀髪の子の隣の席に座った。

 

「じゃあ、授業を再開するわよん」


 そう言うと、先生は授業を再開した。授業なんて頭に入ってこなかったが。

 俺は想像を膨らましていた。どうすれば彼女は不幸になるのか? 考えても考えても思いつかなかった。だが、俺はそれを考えている時間がとてつもなく楽しかった。


 そんなことを考えていると、何やら視線を感じる。

 それも、俺の想い人がいる隣の席から。チラッと隣を見ると、こちらをジーッと見ている子と目が合ってしまった。


 クリッとした目に綺麗な金色の瞳、鼻筋がスッと通り、その下にはプクッとした唇が半月を描くように口角があがっていた。端正な顔立ちというか、どこか神々しいとも思える容姿をした彼女。もしかしたら、青みがかかった銀色の長い髪がそう思わせているのかもしれない。そして、ポニーテールにしている髪は、陽光に照らされキラッキラしていた。

 

 ずっと目が合っているのが気まずくなったのか、彼女から話しかけられる。


「さっきはごめんね。大きい声出しちゃって。私ね、エミリアって言うんだよ。これからよろしくね、クロード君」


 そして微笑みかけてくる彼女改め、エミリアという女の子。慈愛に満ちた微笑で、ソプラノ調の澄んだ声音。健全な男の子なら、コロッと落ちてしまいそうな微笑だ。

 ちなみに、俺のような健全でない、他人の不幸で飯が食える男の子は、跪いて思わず、どうか私をぶってください! って言ってしまいそうになる。


「うん、よろしくお願いするよ。エミリア」


 そう言って、俺はエミリアに微笑み返した。

 しゃべってわかった事だが、この子は全身から幸せオーラを発している。

 声も、仕草も、態度も。そのどれを取っても幸せ全開なのがにじみ出ていた。現に今も、もじもじさせながら幸せ全開オーラを発生させていた。

 ……何故もじもじしているのかは不明だが。


 そんな彼女を見ていると、俺の欲望が這い上がってきてしまう。

 こんな大勢の場所でそれはまずい。

 俺はもう話は終わりだと、エミリアから目線をそらす。そして、授業に集中しようと前を向こうとした。

 するとエミリアは、目線を泳がせながら、もじもじとしてしゃべり出す。


「えっとね、それで、ね。もしよかったら、なんだけど、ね、学校の案内、とか、したいなぁーと思ってね、」


 どうかな、と上目遣いで言われた。

 一瞬、ほんの一瞬だけ、恥ずかしそうに言うエミリアに興奮した。他人の不幸でしか満足しなかった俺が、エミリアの甘酸っぱい表情を見て満足してしまった。

 これは何かの間違いだ。俺は不幸な顔が大好きなのだ! なのだがっ……! 上目遣いの破壊力が……! それにもじもじして! もじもじしてぇええええええ! いやぁああああああああ! そんな目で見ないでぇえええええ! 


 俺はもしかしたら、狭い世界で生きていたのかもしれない。他人を不幸に落とす事でしか興奮できなかったが、先ほどのエミリアの顔でも興奮できた。満足することが出来たのだ。他人を不幸にする意味なんか――。


 ……いや、ほだされてはいけない。この子はきっと、そう言う子なのだろう。他人を無条件でプラスの方へと導いてしまう。昨日の光景を見ていなかったら、危うく俺も浄化されていた。エミリア恐ろしい子!  


「エミリアが言わなかったら、俺からお願いしている所だったよ。学校案内よろしく」


「うんっ。隅から隅まで余すことなく、案内してあげるねっ」

 

 そう言って、天使のような顔で微笑むエミリア。眩しすぎて直視できなかった。

 俺は、この子を不幸に落とせるのだろうか? と不安になる。

 だが、この顔を俺が不幸にしたときを想像すると、未知数すぎてやはり興奮した。



 ***



 授業もつつがなく終わり、授業間の休み時間に突入した。

と同時に、エミリアとは別の、さっき俺に叫んでた女の子が、俺のほうに向かってきていることを確認。

 エミリア同様、さっき大声出した事を謝りたいんだな。

 それを口実に、俺に自己紹介したいのだろう。転校を機にモテ期到来ですね。わかります。


 だがそんな俺の予想ははずれる。

 その女の子は俺の目の前まで来たと同時に、

 バンッッッッッ! と思いっきり机をぶっ叩いたのだ。


 こ、こえぇぇぇ……。めっちゃ怖い目で見てくるぅ! というか、なんでこんなに最初からブチ切れ状態なんや……。


 女の子のこの行動で、先ほどまで賑やかだった教室内は、まるで水を打ったかのように静かになった。 

 そして、俺をにらみながら、女の子は無理やり怒りを抑えているような声音で喋りだす。


「よ、よくもぬけぬけと私の前に顔が出せたわね。そんなに死に、死にたい?」


 体全身を、怒りを抑えるあまりプルプルさせながら俺にそう言い放つ。

 頭に血が上りすぎているのか噛み噛みで言われ、恐怖が倍増した。しかも半笑いで目が笑ってないのだ。あんな怖い半笑い見たことない。

 でも俺は、そんな怒られる事をしてない。きっと何かの間違いだろう。ここは、はっきりと言わねば。


「えっと……。なんでそんなに怒ってるのかな? 俺と君は初対面だよね?」


 すると、今まで小刻みに震えていた女の子は、突然ピタッと動きを止めた。もしかしたら、自分の勘違いだったと言う事に気づいてくれたのかもしれない。

 やっぱりはっきり言うのが一番と言う事だ。転校初日であらぬ誤解を招くとこだった。ま、誰でも間違いと言うものは起こすからね。今回だけは許してやるよ。ほら、さっさと謝れや!


 と思っていると、突然女の子は狂ったように笑い出した。


「フ、フフフ、ファァアアアアァアッハハッハハハハッハハア! 私と、貴方が? 初対面ですって? フフハハハハハッハッハッハ! …………、……んなわけねぇだろうがぁあああああああああああああ!」


 ひぃっ! 笑ってたと思ったら突然叫んでまた机叩きやがった! 荒ぶりすぎぃ! ……もうやだぁ。この子情緒不安定すぎて怖すぎるよぉ……。


「……ふぅ。いいわ、教えてあげる。貴方忘れてるようだから、私が、直々に! 思いださせてあげるわよ! いい? 貴方は! 私を! 追っかけまわして! し、ししししし失禁させたのよ!」


 かなり大きい声で、そんな爆弾発言を言い放つ。当然、こちらに耳を傾けていたクラスの連中にも聞こえているわけで。

 そんなクラスの連中は、先ほどまでの静寂が嘘のように俺を指差し、失禁の話題で盛り上がるわけで。

 俺は軽く涙目なわけで……。くっ! なんで転校初日にこんな仕打ちを受けないといけないんだ!

 

 俺が絶望していると、意外な所から援護射撃があった。


「クロード君はそんな事しないよっ! クロード君は凄いんだよっ! だって――」


 エミリアだ。何やら俺を庇ってくれるらしい。

 いいぞエミリア! 俺の身の潔白を晴らしてくれ! 


「だって、漏らす程怖がってるのに、私を助けてくれたんだよっ」


 え? ちょ、エミリアさんっ!? なん、何てことを言ってくれてるんですかエミリアさぁああああああああん! 漏らす程の所いりました!? いらないよね! 助けてくれただけでいいよね! わざと言ったとしか思えないよ!?


 案の定クラスの連中は、失禁という話題で持ちきりだった。

 

「あいつ、王女様を追っかけて失禁させるだけでなく、自分も失禁するのかよ……」

「とんだ変態野朗だぜ!」

「私知ってますわ。あぁいうのを変態紳士って言うのよ!」


 転校生から失禁変態紳士にランクアップしたよ! 

 いやぁああああああああああ! これ以上俺を追い詰めないでぇええええええええええ!


「フ、フフフフフフフ、私だけでなくエミリアまで手にかけていたなんて……。しかも漏らした所を見せ付けるなんて許せない! ……もう我慢できない。地獄に落ちろや変態最低クズ野朗ぉおおおおおおお!」


 何でそうなるんだ! 助けたと言うところがすっぽり抜け取るやないか! と言うか、魔力を手に溜めてどうされたんですか? それを俺に向けて何をするつもりですか!? ちょ、吹っ飛ぶ! そんな魔力量で魔法ぶっ放したら教室が吹っ飛んじゃうよ!?


「お、おやめください、アイリス様! 上級魔法をこんなところで使ってはいけません! 教室ごと吹っ飛ばす気ですか!」


 そんな女の子を見て、慌てて金髪イケメンが俺の目の前に立ちはだかってくれた。やだ、何このイケメン。

 教室中の奴らも、教室が吹っ飛ばされると聞いて、女の子を止めようとしていた。


「どきなさいよあんた達! そいつを殺せないでしょ!」


 ちょ、こいつ俺を殺す気なのかよ! バイオレンス過ぎるだろ! 

 ……そもそも何でこんな事になってるんだ? こいつが変なことを言わなければ、こんな大騒ぎにはならなかったのではないか? 転校初日の初めての休み時間だ。こいつさえいなければ、教室中の奴らは俺に群がり、俺に興味津々で質問してくれたのではないのだろうか。キャッキャウフフ出来たのではないのだろうか!

 今や阿鼻叫喚となっている教室を見て、逆に俺は冷静になっていった。


 ……だんだん腹がたってきたぞ。元はと言えば、こいつが騒がなければこんな事になっていなかったわけで。転校初日にこんな扱い受けなかったわけで!

 しかもこいつは俺を殺そうとしている。今は教室中の奴らが止めに入ってくれているから何とかなっているが、この先、こいつが俺を殺しに来ないとも言い切れない。ここで、俺と言う人間はお前なんぞに殺せるタマじゃないという事をわからせておく必要があるだろう。なにより、このままでは俺の怒りが納まらん!


 早速俺は、自分で調合した気絶用の爆弾を取り出した。爆発範囲が狭いから、確実に当てれば対象だけ気絶させれる優れものだ。ま、当たったが最後、失禁する副作用付だがな。

 フッフッフ。そんなに失禁がお好きなら、この衆人観衆の中で失禁させてやるよ! フハハハハハ! 最後の一個だから存分に味わえ!

 

――しかし投げる瞬間、近くにいた奴に体制を崩されてしまい、狙いが外れてしまう。

 やばいっ! と思って軌道修正しようとしたが、時既に遅し。投げる瞬間だった為、軌道修正が間に合わず、若干ずれた方向に爆弾は飛んでいく。


 そしてその爆弾は、女の子のすぐ後ろにいた奴に当たり、爆発した。その爆発で、当たった奴と、本来当てるはずだった女の子の二人が同時に気絶して倒れる。

 音を立てて倒れるその二人。先ほどまで阿鼻叫喚だった教室が、またもや静かになった。


 フッフッフ。予定とは少々違ったが、対象に当てることが出来た。これでお前は、クラスの奴らが見ているところで、失禁しながら気絶するのだ! 皆に奇異の目を向けられながら、為す術なく気絶していく地獄を味わうがいい! フハハハハハ!


 そんな光景を眺めていると、先ほどまで俺の前で守ってくれていた金髪イケメンが急に俺のほうに向いた。

 そして、金髪イケメンは何故か俺に深々と頭を下げる。


 え、何? 何でこいつ頭下げてんだ?


「ありがとう。アイリス様を守ってくれて」


 ……は?


「恥ずかしながら、僕では気づくことが出来なかった。君がいなかったら、と思うと……。本当にありがとう」 

 

 何の話? え? 何の話!? 

 よくわからないが、気絶させて失禁させたらお礼を言われた。

 俺が混乱していると、


「お、おいルーク。何がどうなってるんだ?」


 一人の男子生徒が金髪イケメン――ルークに聞いてくれた。

 そして、ルークは俺を指差しながらとんでもない事を言い放つ。


「彼が、アイリス様に近づく不審者の存在をいち早く察知して、危害を加える前に倒してくれた。クロード君は王女様を救った英雄だ!」


 王女様? は? 救った?? んんんんんんん? 

 俺はそんな不審者を倒してな――、……もしかして手が滑って当たっちゃた子が不審者だったり?


 俺がそう自分の中で確信したとき、今まで静かだった教室中の奴らが騒ぎ出す。

 俺をもみくちゃにしながら。


「うぉぉぉ! お前すげぇな! 俺お前が何したのかわからなかったけど、そういう意図があったのか!」

「王女様を救ったなんて! まるで王子様みたいね! 憧れちゃう!」

「転校生は王子様だったのねぇ! 素敵! 抱いて!」

 

 そのどれもが俺を絶賛するものだった。そして、どいつもこいつも俺を見る目がキラッキラしてる。まるで子供のような無垢な瞳で。

 今さらその王女様を、衆人観衆の中で失禁させて恥辱に耐えながら抵抗できずに気絶して逝け、フハハハハ! と思ってたなんて言えない……

 しかも、俺が王女を救ったと、信じて疑わない絶賛の嵐。

 綺麗な目が俺を突き刺す。

 

「クロード君はやっぱり凄い人だったんだねっ! アイリスの事も助けてくれたし、クロード君は私達のヒーローだよっ」


 俺にとどめをさしたのは、エミリアだった。

 あぁあああああああ! ち、違うんですぅ! ただ貴女方の失禁して絶望する姿が見たかっただけなんですぅううううううう! だから、だからそんな、そんなキラッキラの目で俺を見ないでぇええええ!

 

「この恩は必ず返すと誓おう。僕はルーク、今後ともよろしくお願いするよ。それでは」


 俺が心で叫んでいると、ルークはそう言ってどこかへと行ってしまった。

 絶賛漏らし中の二人を背負って。


 そして、しばらく俺はもみくちゃにされていた。俺のほんの少し残った良心をえぐりながら。



 だが、ある女生徒の発言で、それも終わりになった。


「……なんか臭わない?」


――アイリス様とやらが失禁王女と呼ばれるのは、また別のお話。


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