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視点切り替え エミリア ルーカス

 今日は、アルダス王国が建国された特別な日。

 王が住まうここ、王都では、王国が平和のまま、今日と言う日が来た事を祝うお祭りが開催されていた。

 そして、王都中がお祭りの今日、私達学生はお休みだった。

 当然、学生の皆は、お祭りを見て回っているわけで。


「わぁ、なにあれ、すごいすごいっ! ……あっ! ほら見て見て、あの人大きくなったり小さくなったりしてるっ!」


 私も、その学生の一人として、お祭りを楽しんでいた。

 さまざまな人が世界中から訪れるこのお祭りは、いろいろな催しがされていたりして、街中を歩いているだけでも楽しむことができる。


「ちょっとエミリア! 早い、早すぎるわよっ」


 そして、そんな私と一緒に来ている金髪ツインテールの小さくてとても可愛らしい子――アイリスと一緒に、その楽しいお祭りを見て回っていた。


 普段から賑やかな王都は、一層賑やかで、そして、一層輝いていた。

 所々で行われている催しの魔法の残滓で、街中は輝き、それを見た人々は次々と笑顔になる。 そんな光景を見て、私も笑顔になった。お祭りってすごいっ! と私は思う。

 笑顔になった人を見てその人も笑顔になって、そのまた笑顔になった人を見て――、と言った風に笑顔がどんどん、どんどん連鎖していくのだ。

 だから私は、そんなお祭りが大好き。

 

 でも、そんな楽しいお祭りも、終わりを迎えようとしていた。


 遠くから鐘の音が聞こえてくる。鐘が鳴るのは、夕刻に差し迫ったというお知らせだった。

 だが、私達には別の意味があった。


「……終わっちゃったねっ」


 ついつい言葉に出してしまう。楽しい瞬間が本当に終わってしまったのか、私なりの最後の悪あがきだった。アイリスが、そんなことない、と言ってくれるのを期待して。

 

「……そうね、楽しい瞬間っていつもすぐ終わるわね」


 だが、そんな私の思惑は当然のように外れ、本当に終わったのだと実感する。


「アイリス様、エミリア嬢、お迎えに上がりました」


 二人して、楽しかったお祭りの余韻を楽しんでいると、いつのまにか私達の前に、純白の装束に身を包んだ金髪の男の子――ルー君が立っていた。


「早すぎるのよルーク。ちょっとぐらい余韻に浸らせてちょうだいよ」


 アイリスは、そんなルー君に唇を尖らせ、苦言を呈した。

 ルー君もお仕事だからしょうがないと思う一方、私もアイリスと同じ意見だ。


「し、しかしながら、早く行かねば陛下になんと言われるか……」


 ルー君はいつも真面目。こんなお祭りの真っ最中でもぶれない人だ。


「そんなこと百も承知よ! あんたは真面目すぎるのよバカルーク! はぁ、もういいわ。行きましょ」


 そう言って、アイリスはつかつかと歩いていってしまう。そして、慌てたようにルー君もそれについていく。

 ……少々、言いすぎだと思うが、いつも通りなので私は何も言わなかった。

 そして、私にはまだよる所があった。


「私はちょっと寄り道してから向かうねっ!」


 そう言って、私はきびすを返し、走ってその場を離れる。後ろからルー君が何か言っているが、心の中で謝り、目的の場所へと向かう。


 しばらく走った後、ルー君が追ってこないことを確認し、歩きに変更。ちょっと沈んでいた心は、街中の笑顔の人たちを見て、吹き飛んでいた。

 だが、同時に悲しい気持ちにもなる。


 今日という、アルダス王国が建国された日は、実はそれだけの意味ではない。

 初代国王にして大英雄、ジャンヌダルクの命日という日でもあった。


 私は、ジャンヌダルクのお話が大好きで、よく寝る前に母にせがんで毎日そのお話を聞いていた。

 曰く、ジャンヌダルクはまだこの大陸が魔物に占拠されていた頃、一人で乗り込んで今の王国を建国した等々、上げればきりがないほどに、ジャンヌは偉業を成し遂げた大英雄だった。


 そのお話を聞くたび私は、ジャンヌダルクに憧れ、彼女のように強く、そして気高くあろうと誓った。

 そして今日は、私が憧れている人の命日。私はこの日の為に、お花を育てていた。ジャンヌの追悼の儀でお供えする予定のお花を。

 

 そうやって歩いていると、ようやく目的地に到着する。

 私が通うポートラン学校が所有する森に。その森の中に、少しだけスペースを借りて私はお花を育てていた。自分で育てた花を、憧れの人に手向けたかったのだ。


 追悼の儀は、鐘が合図で始まる。なので、もう既に始まってしまっているだろう。私は、早くしなければ追悼の儀が終わってしまうと思い、すぐにお花を摘んで、王城へと向かおうとした。


 そうして、お花を摘んで戻ろうと振り返ったとき、私の目の前には、私と同じ身長ぐらいの、黒いオーラを発生させている生き物、魔物が悠然と立っていた。


 咄嗟に私は、虚空から聖女の杖を取り出し、構える。

 そして、森の中の暗くなっても大丈夫なように配置されている魔光に、その魔物が照らされる。

 ……あんな魔物は見たことがない。いかにも強そうなその風貌は、どうにも私が適う相手ではなさそうだった。今私は、絶体絶命の窮地に陥っていた。


 だが、私はそんな窮地を楽しんでいた。

 ジャンヌダルクは、どのような窮地も、持ち前の機転で乗り越えていたという。

 だったら、この窮地を乗り越えたら、私はジャンヌダルクに近づけるのではないのか? そう思うと、笑いがこみ上げてくる。そして感謝した。ジャンヌダルクになれる機会をくれたこの魔物に。


――私からその魔物に仕掛けた。聖女の杖を魔物に叩き付け、接点に魔力を流して爆発させた。反撃が来る可能性があるため、その一撃で一旦距離を置く。

 だが一向に追撃が来る気配がない。だんだんと、爆発による煙が晴れていき、魔物の姿が見えてきた。


 そして驚愕する。並みの魔物であれば、あの攻撃で吹き飛ぶはずだったのだ。

 だがあの魔物は、最初に私の前に現れた時と同じで、悠然と立っていた。あの攻撃で、少しはダメージを負ってくれると期待した私が甘かった。


 私は再度、未だ悠然と立つその魔物に接近し、杖を叩き付ける。そして、さっきの何倍もの魔力を流し込み、爆発させた。今度は、一撃で終わらせず、二撃三撃と攻撃していく。

 

 そうして、魔力がきれそうになるまで攻撃した後、私はいきなり後方の木まで吹っ飛ばされ、衝突した。

 肺の中の空気が一気に放り出され、一瞬意識が飛びかける。いきなりの事に私は混乱していた。


 すると、私の攻撃で魔物が煙に覆われていたのが、だんだんと晴れて魔物が見えるようになった時、理解する。

 あの魔物が、私を攻撃したのだと。

 魔物は笑っていたのだ。まるで、弱者をいたぶる時に見せる、下卑る笑いで。

 

 そんな魔物を見て、私は思い知らされる。

 最初から、私があの魔物に勝つことはおろか、相手にすらされていない事に。そして、私はジャンヌダルクになれず、志半ばで死ぬのだと。


 いつの間にか、私の頬を熱い何かが流れる感触が伝わってきた。自然と涙が出てきたらしい。

 ただただ悔しくて、情けない。私は、俯いて、すぐそこまで来ている死の瞬間を待った。


――だが一向に来る気配がない。

 私は不審に思い、俯いていた顔を、恐る恐る上げる。


 そこには、黒い剣で魔物を倒している男の人がいた。そして、その剣は黒い霧となって消えてしまう。


 私は驚愕した。

 私がいくら攻撃しても、傷一つ付かなかった魔物をいとも容易く倒してしまった事を。そして、かつてジャンヌダルクが使っていたと言われている、黒い霧を使っている事を。

 それも相まって、私が乗り越えられなかった窮地をいとも容易く乗り越えてしまったこの男の人が、ジャンヌダルクに被って見えてしまった。


「あの、」


 ちょうど今、目が合っている状態だから、お礼を言って名前を聞こうとした。

 だが、その男の人は、きびすを返し、この場を去ってしまう。きっと、あの人にとっては人助けは当たり前のことなのだろう。

 そして、その去っていく背中を見つめていると、気づいてしまった。

 彼の股間部分が濡れている事に。なんということなのだろう。彼は、漏らすほど怖かったのに、私を助けてくれたのだ。何て勇敢な人なのだろう。私はますます気になった。

 

 追っかけようとしたが、思った以上にダメージを負ってしまったようで、動けるようになるにはまだ時間がかかりそうだった。


 それから私は、ルー君が探しに来てくれるまで、木の下に座っていた。

 あの人の事を思いながら。



 ***



 どいつもこいつも浮かれよって、鬱陶しい事この上ないわ。

 ま、そのお陰で、ワイの仕事はしやすくなっとるんやがな。


「私はちょっと寄り道してから向かうねっ!」


 お、やっとエミリアの嬢ちゃんが別行動してくれたわ。

 ずっと、護衛しとる奴がおって手が出せずにおったが、やっと手を出せるわ。後は、嬢ちゃんが人気のない森に入って、花摘んでる所を襲って、終わりや。

 

 しっかしほんま長かったわ。嬢ちゃんの行動パターンを三年掛けて調べつくし、一人になる瞬間がこの祭りの日の、しかも鐘がなった後のこの短時間だけやなんて、知ったときは愕然としたけど、これでやっと報われるわ。

 

 しかも今日は、嬢ちゃんが憧れとる初代国王の命日らしいやんけ。憧れの人と同じ命日にしたるんや。感謝して欲しいぐらいや。


――と、そんな事思うとったら、もう花摘んでるわ。いそがなあかん。


 ワイは、嬢ちゃんのちょうど後ろに召喚陣を発生させ、使役している悪魔を召喚した。ソロモン七十二柱序列五十七位、オセや。ワイが使役できる中でも上位の強さのオセは、少々嬢ちゃん殺すだけにはもったいない気もするが、これまでのワイの鬱憤を晴らすという事で。


 嬢ちゃんは、そんなオセに果敢にも攻撃していっとる。無駄やというに。オセを倒したかったら、この王国の騎士団員五人ぐらいで一斉に攻撃せな倒せんで。ま、それでやっと互角ってとこやろうがな。


 案の定、嬢ちゃんの攻撃は効いていない。オセは、攻撃をかわす事ができるのに、わざと攻撃を受けている。なんや、心折ってから倒した方がいいとか抜かしよったな。ま、仕事してくれるなら何でもええわ。

 そんな事思うとったら、オセが嬢ちゃんを吹っ飛ばす。


 ……終わりやな。

 ワイは、きびすを返し、あのお方に報告する為にとある場所に向かう。


「かっ、がはッッ、…………ッ!?」


 瞬間、体全身に激痛が走る。

 ワイはこの痛みを、過去に一度だけ経験した事があった。

 召喚した悪魔が倒された事によるフィードバック。だが今回のそれは、過去に感じたよりも強い。ワイの悪魔が倒された事にも驚くが、そのダメージの量にも驚く。軽く致死量や。

 

 ワイは立っていることが出来ずに、思わずしゃがみこんでしまう。そして、意識が薄れていく中、ワイの悪魔を倒した奴を人目見てやろうと、悪魔を召喚したところを見た。


 そこには、中肉中背の黒髪で、いかにも弱そうな奴が立っとった。ワイの悪魔はあんな奴に殺されたんか……。


 そうしてワイは、そいつを見ながら意識がなくなっていった。

 

 刺激臭を感じながら。 


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