表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ

 他人の不幸は蜜の味。

 それも、幸せ絶頂から一気に不幸のどん底に落ちる瞬間、見せる顔。あの絶望した顔を見るのが、俺にとって最高の蜜の味だった。

 見る以上は何もしない。ただ、不幸な人の絶望した顔を見ては、満たされるという日々を過ごしていた。


――あの日が来るまでは。

 

 まだ幼い女の冒険者だった。

 その冒険者は、敵がいつ襲って来るかもわからない森の中で、無我夢中で鬱蒼と生い茂る薬草を摘んでいた。

 無理も無い。

 薬草は特殊な場所にしか生えない、貴重な草。さまざまな用途で使用されるにも関わらず、滅多に生えていない。さぞ高値で売れる事だろう。

 そんな貴重な草が、見渡す限りに生えているのだ。無我夢中に取っても仕方があるまい。

 あの冒険者は、貴重な薬草が生い茂る場所を知って、きっと今幸せなのだろう。


 ……ふと、そこで俺は気づいた。気づいてしまった。

 あの冒険者は今、幸せなのだ。降って湧いた幸運で、幸せの絶頂に達している。自分が不幸とは無縁の存在だと、信じて疑わない脳内お花畑状態。

 本来の俺ならば、あの冒険者が不幸になっていくのを見ているだけだった。だが、今まさに、手の届くところに、俺の行動如何で不幸のどん底に落とすことができる。


――気づくと俺は、その冒険者に近づいていた。

 俺は魔物に変化しながら、無防備にも背中を向けている冒険者に声をかける。


「お嬢さん」


 一言。それでようやく俺に気づいたのか、冒険者はやっとこちらを向いた。なんとも言えない、幸せそうなだらしない笑顔を浮かべながら。


「はぁい、なんで――」


 だが、そんな顔は一瞬で凍りつく。俺を見て自分の置かれている状況を知ったのだろう。見る見るうちに、恐怖に打ち震えたような顔に変わっていった。

 その様子を見て、今まで感じた事のない興奮が俺の体を駆け巡る。見ていたときとは違う、自らが不幸のどん底に落としたことによる達成感。今まさに、この冒険者の運命が俺の手にかかっている征服感。そしてなにより、幸せから不幸に落とされた時の、この世の終わりみたいな顔を間近で見れた俺の幸福感。


 ……と、俺が幸せを噛み締めていると、いつの間にか冒険者は泡を吹いて倒れている。しかも、しかも! 股間部分の布が湿っていた。そう、失禁していたのだ。

 そして俺は、失禁した冒険者を見て確信した。見ているだけの頃に感じていた違和感。あれは、なぜ自らが手を下してないのだろうという空虚感だったのだ。


 それから俺は、女冒険者を見つけては、不幸のどん底に落とし、失禁させていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ