プロローグ
他人の不幸は蜜の味。
それも、幸せ絶頂から一気に不幸のどん底に落ちる瞬間、見せる顔。あの絶望した顔を見るのが、俺にとって最高の蜜の味だった。
見る以上は何もしない。ただ、不幸な人の絶望した顔を見ては、満たされるという日々を過ごしていた。
――あの日が来るまでは。
まだ幼い女の冒険者だった。
その冒険者は、敵がいつ襲って来るかもわからない森の中で、無我夢中で鬱蒼と生い茂る薬草を摘んでいた。
無理も無い。
薬草は特殊な場所にしか生えない、貴重な草。さまざまな用途で使用されるにも関わらず、滅多に生えていない。さぞ高値で売れる事だろう。
そんな貴重な草が、見渡す限りに生えているのだ。無我夢中に取っても仕方があるまい。
あの冒険者は、貴重な薬草が生い茂る場所を知って、きっと今幸せなのだろう。
……ふと、そこで俺は気づいた。気づいてしまった。
あの冒険者は今、幸せなのだ。降って湧いた幸運で、幸せの絶頂に達している。自分が不幸とは無縁の存在だと、信じて疑わない脳内お花畑状態。
本来の俺ならば、あの冒険者が不幸になっていくのを見ているだけだった。だが、今まさに、手の届くところに、俺の行動如何で不幸のどん底に落とすことができる。
――気づくと俺は、その冒険者に近づいていた。
俺は魔物に変化しながら、無防備にも背中を向けている冒険者に声をかける。
「お嬢さん」
一言。それでようやく俺に気づいたのか、冒険者はやっとこちらを向いた。なんとも言えない、幸せそうなだらしない笑顔を浮かべながら。
「はぁい、なんで――」
だが、そんな顔は一瞬で凍りつく。俺を見て自分の置かれている状況を知ったのだろう。見る見るうちに、恐怖に打ち震えたような顔に変わっていった。
その様子を見て、今まで感じた事のない興奮が俺の体を駆け巡る。見ていたときとは違う、自らが不幸のどん底に落としたことによる達成感。今まさに、この冒険者の運命が俺の手にかかっている征服感。そしてなにより、幸せから不幸に落とされた時の、この世の終わりみたいな顔を間近で見れた俺の幸福感。
……と、俺が幸せを噛み締めていると、いつの間にか冒険者は泡を吹いて倒れている。しかも、しかも! 股間部分の布が湿っていた。そう、失禁していたのだ。
そして俺は、失禁した冒険者を見て確信した。見ているだけの頃に感じていた違和感。あれは、なぜ自らが手を下してないのだろうという空虚感だったのだ。
それから俺は、女冒険者を見つけては、不幸のどん底に落とし、失禁させていった。