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王妃様が天使だった件

通された部屋は思っていたより小さくて、集まっている人もごく少数であった。


国王陛下と王妃様、そして父であるカクタス侯爵と義弟であるラルフ。大臣や武官の長を入れても15人ほどなので、正式な謁見という事ではないようだ。


一緒に入室した攻略対象トリオはそれぞれの身に合った場所へ移動し、私だけが両陛下の前に残った。気まずさはあるが怖くはない。


5年前この方々+200名位の人に囲まれて非難を受けた事を思うと、特に怖いものなんて無い気がする。


面倒ではあるけどね。


とりあえず淑女の礼をとり、頭を下げる。貴族の身分を剥奪されてはいるが、これ以外の礼のとり方を私は知らないのだから仕方がない。ジッと陛下からの発言を待つ。


無言に無言が重なり、室内は不思議な程の静寂に包まれる。そして、誰かの鼻をすする音が響いた。許しもなく頭を上げる事は出来ないので、私は同じ体勢のままその音を聞く。段々と嗚咽が入り始め、それが女性の泣く音というのが分かってきた。


この場に居る女性は私以外だと王妃様ただお一人。


泣いている人間の特定は終わったが、理由が分からない。勿論頭を上げる事もできないので、お慰めする事も出来ない状況。まあ、頭を上げる許しを得られたところで発言は許されないだろう。


何たって最低最悪の悪女ですから。


自嘲気味に笑っていると、近付いてくる衣擦れの音。そして泣き声。


はて・・・・・・?と思った瞬間には抱きしめられていた。その相手は………


「おう…ひ、さま?」





はい。今私、王妃様に抱き締められています。イイ香りのするムッチンボディーの王妃様に!!庶民根性しか持ち合わせていない今の私には、何とも衝撃的な状況です!!


24の息子が居るとは思えない魅惑ボディーにドキドキとか思ってないですよ!本当に!!


焦ったせいで仰ぎ見てしまった陛下のお顔。それは悲しそうであり、苦々しそうでもあり、怒りさえもたたえた…つまりよく分からないけれども、怖いお顔。




まさかの悪役補正再びっすか?




またこの場で糾弾されるんですか?私何かしました?アレギラでよい子におとなしく過ごしてましたよ?それなのに何ですか?この状況。


いや、まて。確か以前も何もしていないのに糾弾されたっけ?で、アレギラへ流されたんだっけ?悪役補正によって。


ひぇぇぇぇ!!!身に覚えがないからこそ、この後何言われるのか恐怖でしかないっ!は、離してください、王妃様!私逃げる準備をしなくちゃなのです!!!


焦っている私に声を掛けてきたのは、まさかの殿下だった。両陛下が未だに発言していないにも関わらず、先に言葉を発するのは、王太子と言えども無作法極まりない行為である。


彼がこんな失態を犯すのは珍しい。そう思い殿下を見ると、陛下と同じような顔、つまり「何故か分からないけれど、怖いお顔」をされていた。


ひぇぇぇーーー!


声にならない叫び声が出てしまった。

背中に流れる冷や汗に気付かれないよう、取りあえず王妃様の涙を拭う。ハンカチを持っていなかったので、指で払うだけとなってしまったが。


落ち着かせる為、出来るだけ穏やかな表情を浮かべてみるも逆効果だったようで。王妃様はボロッボロ涙を出し始めた。


訳が分からない。


もう糾弾は甘んじて受けよう。悪役補正が効いているのなら私の人権など無いに等しいのだから。でも王妃様に泣き続けられるのには弱ってしまう。エリーナは王妃様の笑顔が大好きだった。泣き顔を見ると、私まで泣きたくなってしまうのだ。


意を決して陛下を見つめ、伝える。


「私がここへ呼ばれた理由、及び現状の説明を求めます」


無礼と言われようと恥知らずと罵られようと構わない。この状況を打破できるのは陛下しかいないのだ。とりあえず王妃様を泣き止ませてくださーい!


懇願するように見ていると、陛下からは思いもよらない言葉が。




「そなたは我らを憎んでいるのだろう」




想定外のその言葉に頭が着いていかない。そう言えば、魅惑(エロ)ボイスも先ほど同じ事を言っていたような?


「私が………陛下を、憎む?」


はて、何の事でしょう?

憎んでいるのは陛下方で、憎まれるのは悪役たる私の役割ではないのでしょうか?


とりあえずもう一度聞きましょう。


「私がここへ呼ばれた理由、及び現状の説明を求めます」


陛下が何かを言う前に口を開いたのは義弟ラルフであった。


「あなたが私たちを憎むのも仕方がないことです。だって私はあなたの言い分を何ひとつ聞かず………」


最後の方は聞こえない。畳みかけるかのようにお父様が喋りだしたからだ。


「一番近くで君を見ていながら、冤罪にも気付かないなど父親失格だ。君の気高さを誰よりも理解していたはずなのに!」


「いえ!侯爵!!婚約者として日々彼女の素晴らしさを感じていたのは私です!それにも関わらず………」


「いや、最終的な判断を下したのは国王である私だ。全ての責は私にある」


殿下と陛下がお父様の言葉にかぶせてきました。う~ん、カオス。この流れを見るに、とりあえず悪役補正は回避出来てる?っぽいよね?


うんうん。ぽいぽい。それにどちらかと言うと、何故あそこまで私に辛く当たったのかご自分でも理解が及んでいない様子。


まあ、そうですよね。悪役補正とかゲーム補正とか私にしか分からないですよね。むしろ私でさえ理解し難い無理矢理さがありましたから。


品行方正だった王太子妃候補が、いきなり王妃暗殺容疑を掛けられるなんて無理矢理設定、悪役補正以外あり得ませんものね。


察するに、ヒロインはこの場に居ないルカエンドを迎えたのでしょう。そうしてこの世界はゲームのシナリオから解放された。こんな所でしょうか?


悪役補正が回避された事を確認出来ただけでも、王宮に来た価値があったわね。ふっとため息をつく私の目の前には、ポロポロ泣く王妃様。


私がアレギラへ送られた一番の理由である「王妃暗殺疑惑」もどうやら消えているのでしょう。王妃様の目には謝罪しか浮かんでいないのだから。


ゲーム云々の事情を知る私が何をやったところで覆らなかった悪役補正。その責任をこの場にいる人間に求めるのは酷と言うものだわ。


何よりアレギラの生活は悪くなかった。アラサーOLの記憶を取り戻した私にとっては王都よりむしろ住みやすかったかもしれない。自分の(けつ)は自分で拭く生活。前世では当たり前にしていたことなのだから。





とりあえず今は王妃様に泣き止んでいただこう。彼女の普段では有り得ないこの状態が、周りの者のペースを崩しているといって過言ではないからだ。静かに手をとり、王妃の席へ座らせる。その間「エリーナは王妃様の笑顔が好きなのです。泣き顔さえ美しいけれど、笑顔はもっと素敵ですわ」と宥めておく事は忘れない。


若干宝塚っぽくなってはしまったが、王妃様が泣き止んでくれたのでよしとしよう。頬を染めこくこく頷く様は、本当に24の息子がいるようには思えないわっ。


まじ天使っ。


そう思いながら、自分の位置へ戻ると三回目となる言葉を発する。




「私がここへ呼ばれた理由、及び現状の説明を求めます」




そして淑女の礼をとると、再度静寂が訪れた。振り出しに戻った感は否めないが、誰も彼もが思い思いに喋るカオス空間よりは建設的な状況である。


さあ、誰でもいいからさっさと私に説明してくださいな!!












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