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殿下はこっちに、私はあっちに

薄暗い馬車の中、俯き両手で頭を抱える私。若干の震えあり。


「エリ…」「お久しぶりでございます、殿下!!」


「ああ、そう…」「つまらぬ身である私に用なんてありませんわよね。では、オクト団長へのご用事ですわね。さぁこちらへお座りくださいませ。さぁさぁ」


「いや、私はエリ…」「オクト団長、殿下がご用事だそうですわ。ここまで送って下さりありがとうございました。無事王都近くまで来れたのも、全てはオクト団長のお陰というものです。お礼は後日改めていたしますので、ここで失礼いたしますわね」


「エ、エリーナ嬢!?何を言って!?!?」


「ここからでしたら、歩けば2時間程で王都へ迎えます。オクト団長は速やかに殿下の要件を遂行してくださいませ」


「待て、エリー!!」


うっわー。

馬車に無理矢理殿下を押し込めようとした罰が今、ふりかかっております。殿下(エロボイス)が私の手を掴んで、今、まさに顔をそちらに向けられて…





「いやぁぁあ」




全力で拒否ってしまいましたが、仕方のないことです。エロボイスは大いなる武器なのです。その武器(エロボイス)目当てに、当乙ゲーを購入していたアラサーOLには、至近距離から名前を呼ばれるという行為は、ほぼほぼ自殺行為とイコールなのでございます。


力いっぱい顔を背け、何とか離してもらえるよう説得を試みます。


「私を見たくもないと仰ったのは殿下ではございませんか。悪の限りを尽くした醜女と公の場で証言されたのをお忘れですか?」


「………!」


「私は醜い女です。分かっております。国一番の醜女でございます。お願いですから、離してくださいませ」


「…エリー」

「きゃあぁぁぁ」


転がるように、馬車から降りる私。そして駆ける。その上、何故か追ってくる殿下。普通の貴族のご令嬢であれば、男性の足に適う訳がありません。ですが私は普通ではないのです。


ヒロインのライバルになり得るだけの力、ここで言うなれば素晴らしき脚力を備えているのでございます。しかも田舎(アレギラ)での生活で、身体的にかなりの向上をはからせていただきました。そんな私が王都(とかい)育ちの殿下(ぼんぼん)に追いつかれるはずがありません。


必死に追ってくる殿下とそれなりの距離をとってから、淑女の礼をいたします。


「お先に王都へ戻っています。皆様ご免くださいませ」


距離的余裕があるため、満面の笑顔も忘れません。しかし、油断は禁物でございます。追いつかれないよう、早々王都へと足を向けます。お先に失礼しといて後から到着ってカッコ悪いですものね。


エリーナ、行きます!





◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




結果から言いますと、王都へは殿下方より早くに着きました。が、捕まりました。中央の関より堂々と入ろうとした所で一発アウト。最低最悪、極悪非道、冷血残酷な侯爵令嬢が、辺境の地アレギラより復讐を誓い王都へ舞い戻ったという歪んだ事実でもって、王都民を震え上がらせてしまったのです。


別に復讐なんて誓ってないのですが………自分の嫌われ具合を失念しておりましたわね。まあ、殿下方との再会は牢屋の鉄格子越しという、私の目と耳と心には優しい距離感を保つ事ができたのでよしとしましょう。


「エリーナ嬢、次は逃げないでくださいね」


格子の向こうの団長に諭されます。殿下、団長、乳兄弟が3人揃ってしまったので、キラキラエフェクト×3な訳でして、薄暗い獄中においてまさかの輝きに包まれた瞬間は全力で逃げたくなりました。


ですが、さすがの私も脱獄は避けたい。犯罪、ダメ、絶対。ですもの。出来ない訳じゃないですけど、してしまえば色々と面倒臭そうですし。それに私にとって牢屋は慣れ親しんだマイルームみたいなものです。


流刑地(アレギラ)で過ごした年月の半分は牢屋に住んでいたので。昼間働いて、寝に帰るだけの牢屋(へや)だったけど、頑丈な所をかなり気に入っていたの。


だから言っただけ。


「アレギラでも牢屋にはお世話になったわ。だから全く問題ありません」と。


瞬間、向けられる視線の強さに圧倒される。そんなに苦々しい顔する必要なんてないのに。何も言えなくなってしまった殿下たちに一応のフォローを入れておきます。


「雨風も防げますし、三食布団つき。何より頑丈で、かなり快適でしたわよ?」


しかも掃除は兵士(あっち)持ち。私の居住が牢屋から民家に移った後は、全て自分でしなくてはいけなかったので、牢屋もとい兵士さん方の有り難みを切に感じていたのです。


けれど、私のそんな気持ちはわかってくれていないのでしょう。

団長の目に光るものが見えた、ような気がするから。



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