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時は流れて

さてさて5年が経ちました。


もう1回言いますね。私がアレギラに流されて、5年の月日が経ちました。21才という、この世界では行き遅れ感漂う年齢になってしまった訳ですが、特筆する事もない日々を過ごしています。


騎士団長(攻略対象)が来るまでは。




「・・・エリーナ嬢?」

「・・・はぁ」


久々に見た騎士団長は美しかったです。だからこそのため息です。


「はぁ…」


ため息(2度目)です。


騎士団長は、騎士団という猛者社会のトップに君臨しているとは思えない程、甘く美しいフェイスをしています。ですので、その顔を褒め称えておきますね。


「相変わらず、美しくいらっしゃいますね、オクト団長」


騎士団長、その名をオクト・ミーツァ、彼はその輝く(かんばせ)を歪ませました。なぜなら、女性に劣らないその美貌こそが、彼の最大のコンプレックスだからです。見た目故に、男に後ろを狙われる事が多々あったそうですが…


え?はい。彼のコンプレックス云々を知った上での先程の発言は只の嫌味です。ニヤニヤの悪人微笑も隠しきれなかった事でしょう。ただそれにも理由があるんです。…だって、ねえ?騎士団長様が直々に、こんな辺境にやってくる理由なんて、面倒事以外何でも無いじゃないですか。私なりの奥ゆかしい抵抗の1つですよ。


それら全部を把握出来ている団長のメンタル回復は素早いものでした。再びたたえる微笑みが眩しいったらありません。


あ、ちょっと!半径1メートル内に入ってこないでくださいよ。攻略対象の特殊効果「キラキラエフェクト」は目に悪すぎなんですから。


「エリーナ嬢には負けますよ。貴女こそ本当に相も変わらずお美しい。」


うぉ…寒気激しく、鳥肌まっくす。


「許しが得られるのであれば、白く美しいその手に口付けをさせていただきたく」


まじ勘弁ですわー。


「ご容赦ください。私はすでに貴族としての地位を失った小娘です。貴方様と関わる権利を有しておりません」


「何を仰るのですか。貴女は、名門カクタス家のご息女にして、一時は王太子殿下の婚約者殿であった程の方。何があろうとその栄誉が失われる事はありません」


あーれぃ?

5年前私に「王都に巣くう(うじ)め」って言った人と本当に同じ人でしょうか?それとも、団長の皮を被ったイタリア男でしょうか? 考え込む私の手を取り、本気でチューしてきました。…これって、アレですよね。つまりそーゆー事ですよね。


彼は私にこう言わせたいのですよね。いいでしょう、言ってあげましょう。



「ぎゃふん!」



アラサーOLの叫びをお届けしました。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「エリーナ嬢、もうじき懐かしの王都が見えてきますよ」


全くもって懐かしくないのですが、何やかんやで久々の王都に戻ってまいりました。


はぁ~


つまり団長は私を迎えに来たって訳ですね。確実に面倒事!と思っていた私の予想が当たってしまったようです。


はぁ~


ちなみに先程からのはため息ではありません。無駄に話しかけてくる団長への相槌です。内容はサラーと流しているので、頭に入ってはいませんが。


その時、私の乗った馬車が急に止まりました。慣性の法則に従い、目の前に座っていた団長の胸に飛び込む形になった上、そこを荒々しく扉を開けてきた男性2人に目撃されてしまいました。が、今さらどんな噂を流されようと私の評判は底辺以下、地下にめり込んでいるレベルですので、狼狽える必要もありません。落ち着いて姿勢を正し、ニッコリ微笑んでやりますよ。久々の令嬢スマイルを、とくとご覧あれ~


「・・・・・・」


無言でこちらを見つめる2人の男性は、王太子殿下(攻略対象)とその乳兄弟(攻略対象)でした。彼らも先ほどの私たちの体勢に驚いているようですが、私からは声を掛ける事は出来ません。だって私は、貴族でも何でもない、只のエリーナですから。俯いて相手の言葉を待つ以外何もできませんよね。


「…エリー」


魅惑(エロ)ボイス来たーーーっ!


殿下の声はエロい。腰に来るレベルでエロい。勢いよく上げそうになる顔を両手で押し止め、何とか俯き姿勢をキープする。


ー貴人の顔を直視してはいけないー


私、偉いっ!よく覚えていた!と誉めまわしたいっ!!それ程、5年にも渡るアレギラ生活は私の中の貴族ルールを破壊していたのです。食事、掃除、洗濯全て何でも来い!ゴ○ブリだって、新聞紙1枚あったら撃退できる、独り身をごじらせたアラサー舐めんな、と心の底から伝えたい。が今はそれどころではありません。問題はエロボイスでございます。





………………………よし。


『殿下、喋らせなきゃいいんじゃね?』

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