私の名前はエリーナ・カクタス
私の名前はエリーナ・カクタス。
花の国と謳われる、王国キザーラのカクタス侯爵家令嬢、16才。元婚約者はデューク・キザーラ。………言わずもがな、王太子様である。え?あ、はいはい。「元」婚約者です。がっつり「元」です。昨夜、婚約解消されましたから。ついでに父親に、侯爵家からの除名を言い渡されたので、名前もエリーナ・元カクタスてな感じです。
まあ、カクタスだろーが、元カクタスだろーがとうでもいい事です。今、私は流刑地アレギラへ護送され中な訳で、王族貴族のすったもんだに付き合うのは、もうご免な訳ですよ。
いや、これでも頑張ってたんですよ?幼い頃から侯爵家令嬢としての作法諸々に、王太子婚約者としての地盤作り。私、まじ頑張ってました。そして認められてました。次期王太子妃として。
あの子が来るまでは。
ヒロインって凄いですね。チートですね。無双ですね。彼女自身、まぁ、かなりのとんでも人間なんですが、何と言ってもヒロイン補正が凄いと言うか、私の悪役補正が凄いって言うか………やることなすこと全てが裏目に出て、只今、流刑の身な訳ですよ。細かい事は言いませんが、今確かな事は、最低最悪、極悪非道、冷血残酷な令嬢として、私の名前は全国民に知れ渡っているようです。
ふふふ…
私が笑うと体を震わせ真っ青になる護送兵。彼らの反応からも、勝手に一人歩き中の悪役令嬢、エリーナ・カクタスの人間像と言うものが見えてきますね。何と言いますか、両手を拘束され、檻の中に入れられている小娘が笑っただけで真っ青になる兵士って………ちょっとマヌケだと思いませんか?
話がそれたついでに話しときますね。私、現代日本からの転生者です。そしてこの世界は乙女ゲームの世界です。タイトルは忘れましたが、召喚された聖なる神子が周りのイケメンをたぶらかしながら、世界を平和にしていく、というストーリーだったと思います。私はストーリーをもたつかせないためのアクセント、所謂悪役令嬢ってやつですね。
まあ、それも護送中の、たった今思い出したところですけどね?
日本でアラサーOLしていた時に読んだネット小説では、悪役令嬢が転生前の記憶を取り戻すのは、幼女時代から、って定説があった気もしますが、なかなかその通りにいかないのが人生ってもんですよね。わかります、わかります。
それにわかっていた所で、補正の凄さには適いませんわー。前世の記憶を取り戻した今でも、自分の行動のどこに非があったのか、検討もつきませんわー。何故に挙がる、王妃様暗殺疑惑。何故に流れる、王様との不倫疑惑。
意味わかりませんわー(笑)
まあ、不幸中の幸いな事に、このゲームは全年齢対象のゲーム。つ・ま・り、悪役のアレなエンドは存在しないのである。ありがとう、全年齢。ありがとう、日本の公的秩序。
ただ、これから先の事は分からない。ヒロインのライバル役になり得た、私の特殊効果がある限り殺される事は無いだろうが、これまでのような蝶よ花よな生活は望めない。っと言うか望まない。人に服の着脱をさせて?風呂で体を洗わせて?かしずかれて?
何その羞恥プレイ。
現代日本で生きたアラサーOLのガラスのハートが、粉々になってしまうじゃないか!ムリムリムリムリ!ぜっーたい無理っ!
って事で、新天地にて、見た目は令嬢中身はアラサーOLなエリーナの、新しい生活を始めたいと思いまーす。モットーは自分の尻は自分で拭く、です。
貴族生活なんて、クソくらえだね。