発見!行き倒れ
~第八十八章~発見!行き倒れ
エリナの宗教話を聞いていると、あっと言う間にお昼近くだった。
この娘に宗教話をさせてはいけないと、ちょっと思った…。
ガタガタッと車輪から伝わる振動が微細に変化した事を感じる。
今までは、見渡しの良い草原の中を行く街道から、雑木林へと変化している。
そんな雑木林の先の片隅にバラバラに壊れた馬車の残骸が捨てられている事に気が付いた。
近くまで寄ってざっと目で確認すると、まだ、壊れて間もない事が見て取れる。
すると、スンスンッ!と鼻を鳴らし、ペロが何かを嗅ぎ取った!
「御主人様!馬車の下から血の匂いがします!」
「ペロ!手伝え、残骸を退けるぞ!」
「はい!」
俺とペロは馬車の残骸を取り除くと、残骸の下から、男の死体が出て来た…。
男の死体は背中をバッサリと切られていた。
この傷では即死だろう…。
「あっ!?御主人様!この人まだ…!」
ペロが全て言い終わる前に、俺も僅かに動く指先に気が付いた!
「まだ、生きてるぞ!?エリナ!ヒールを頼む!」
「は、はいっ!!」
エリナが男に近づき手をかざす!
俺も、一緒に回復魔法を唱える!
「小「ヒール!!」」
男の背中から傷が少しづつ消えて行く…。
しかし、男は血を多く失ったせいか、未だ苦しそうだ。
ヒールをエリナに任せて、俺はサイドバッグからアンブロシアを取り出す。
こんな、何処の誰かも解らない人に使うのは如何かとは思ったが、目の前で死なれるよりはマシだ!
エリナにはそのまま、ヒールを続行して貰い、男の口元へとアンブロシアを差し出す。
この時に思ったのだが、アンブロシアが傷回復の際に体力を奪うのならば、体力をヒールで回復させながら与えれば、リスクが無くなるのでは?と思い至った。
この男には悪いが、検証させて貰おう!なに、成功率は高いと思うぞ?
「ウッ…、ウッグゥ…、ハァハァ…。」
男は、無事にアンブロシアを飲み込むと、次第に荒かった息が、落ち着いて来る。
「取り敢えずこれで、大丈夫だろう。」
結果は大成功!
ヒールと併用させると、リスクが軽減出来る事が判明したぞ!
「良かったですね。一時はどうなるかと思いました。」
「流石です。御主人様、エリナさん!」
状況が落ち着いた所で男をマジマジと観察してみる。
チラホラと白髪が混じる立派な顎髭を蓄えているお爺さんだ。
身長は…低い。
130cmと言った所かな?
しかし、衰えを感じさせない筋肉質な体をしている。
そう、まるで…。
「ドワーフですね?」
エリナが、答えてしまった。
先に答えを言われて少し悲しい…。
「でも、何でこんな所にドワーフが居るんでしょうか?」
「まあ、この先は、ドワーフの街と言われるタタラトだからな。行きか帰りに、襲われたんじゃないか?」
「確かに…、状況的にそんな感じですね。しかも、背中の切り傷から察するに、刃物…、恐らく魔物の仕業では有りませんね。」
「そうだな。しかし、詳しく話を聞くにも、このお爺さんが目を醒ますまで待つしか無いかな?」
さほど時間を置かずに、お爺さんの意識が戻る。
「此処は…?儂は死んだ…のか?」
「いいや、まだ生きてるよ。偶々、俺達が通り掛かってね、お爺さんを見つけた次第さ。」
「そ、そうか…。すまん…。助かったわい…。」
お爺さんは、ホッと溜息を付き落ち着いたかと思うと、思い出した様にその場を飛び起きる!
「そ、そうじゃ!?儂の馬車は!?積んであった荷物は!?」
元気の良い爺さんだ…。
フルフルと、首を振り、お爺さんに告げる。
「いや、俺達が通り掛かった時には馬車は破壊されて、荷物は何も無かったよ。」
「そ、そうか…。」
お爺さんは肩をガックリと落している。
取り敢えず、行き倒れの原因を聞いておこうか?
「お爺さん。何であんな所で、倒れていたんですか?」
「うむ…。それがな、レミアムの街からの帰りに、山賊に襲われてな…、荷物や金銭ならまだしも、命の次に大事なハンマーまで持って行かれてしまった…。」
命の次にハンマーが大事って…。
どんなハンマーだよ!?
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