命名
~第八十三章~命名
宿で朝食を済ませると、装備の点検を済ませ俺達はまず馬を引き取りに馬屋へと向かう。
馬屋に顔を見せると、既に受け渡しの準備は済んでいて、馬を引き取るだけだった。
「それじゃあ、確かに受け渡しました。」
「ああ、又、預ける事に成ると思うから、その時は、よろしく。」
「へい、畏まりました。又どうぞ。」
俺達は馬を引き取り馬屋を後にする。
「今日から又、よろしくな。」
そう言って、馬の顔を撫でてやると、気持ち良さそうにしていた。
馬は手綱を引いてやると、大人しく俺の後に付いて歩いて来る。
俺達はその足でトレー商会へと向かう事にした。
トレー商会に到着すると、既に正面玄関付近に馬車が用意されていた。
遠目に俺達の姿に気が付いた店員が店内に知らせに戻る…。
店の前に到着したと、同時に店からディアスが対応に出て来る。
「ユウシ殿。いらっしゃいませ。馬車の準備は出来ておりますよ。」
「お早う御座います。ディアスさん。思っていたよりも立派な馬車ですね?」
ディアスが用意してくれた馬車は馬一匹で引くタイプの馬車で、天幕も付いているタイプの馬車だった。
これなら、多少の雨など気にせずに済みそうだ。
「ええ、ユウシ殿の為に!頑張って手配致しましたから!…ああっ!そうだ。サービスで馬の世話用品一式と、馬車の修理用品を積んでおきましたから、お使い下さい。」
「そうか…。ありがとう、ディアスさん。コイツも喜ぶよ。」
手綱を引いて馬を前に出す。
ほうっ…。とトレー商会の店員達から感嘆の溜息が出る。
ディアスさんも馬をマジマジと見回して、溜息を漏らす…。
「ユウシ殿…。良くこれ程の馬を手に入れて来られましたね?実に素晴らしい馬です。少し気が強そうですが、見た所とても良く懐いて居るようですし…。申し分有りませんね。」
「ええ、良い馬でしょう?」
馬の背を撫でながら俺は答える。
馬の方も、ディアスの言葉を理解しているかの様に自身溢れる姿で立って居る。
「では、早速、馬車の方へと繋ぎましょうか?」
「はい。」
俺は、店員の人に馬と馬車の取り付け方法や、操縦方法のレクチャーを受ける。
それ程難しい内容では無かったのでレクチャーはすぐに終えた。
「では、ユウシ殿。良い旅を。」
「ええ、ありがとう。お世話に成りました。行ってきます。」
エリナとペロが馬車の荷台へと乗り込むと、俺は御者台へと座り、馬車をゆっくりと走らせ始める。
まだ町中とあって、馬車の速度はとてもゆっくりだ。
次第に見覚えのある建物が見えてくる…。
冒険者ギルドだ。
実は先程、ギルドでタタラトへの荷物の運搬依頼を受けて来た所なのだ。
どうせタタラトへと向かうなら、ついでに仕事も受けて行こうと言う話に成ったのだ。
馬車をギルドの前に止めると、担当の人間を呼んで荷物を受け取る。
大きな木箱に果実などの生鮮食料品や、衣類、塩…要するに生活用品の運搬だ。
しかし、たかが運搬と言っても依頼ランクは意外と高く、Cランク!意外と要求ランクが高い。
何故かと言うと、単純に普通の冒険者が運べる量では無い!と言う事だ。
こういう依頼は俺達の様に自由に活用できる馬車が有って初めて成立する依頼なのだ。
馬車をレンタルして運搬する冒険者も居るらしいが、運搬途中に品物を駄目にすれば当然弁償も有りうるので、ハイリスク、ハイリターンな依頼なのだそうだ…。
しかし、俺達は馬車+マジックバッグ(移動力+収納力)と言う強力な解決策が有るので、荷物など有ってない様な物なのだ!
しかも、俺のサイドバッグに入れておけば食品類も傷まない!
荷物を受け取り終え、再び馬車を走らせ始める。
レミアムの街の門を抜け、街道へと出てからは少しづつ速度を上げて走らせる。
「うわぁー!早いです!景色が凄い速度で流れて行きますよ!?御主人様っ!?」
ペロが馬車から身を乗り出して景色を見ている。
「ペロ!?余り身を乗り出すと、馬車から落ちるぞ!?」
軽く注意しておくが、当のペロは普段見る機会が無いであろう、流れる景色に夢中だ。
「そう言えば、ユウシさん?この子の名前は如何するんですか?」
御者台の後ろからエリナが声を掛けて来る。
「んっ?名前?」
「はい。馬の名前です。まだ、決めて居ませんでしたよね?」
「ああっ!そう言えば…。」
全く失念していた。
「と言うか、馬屋が育てていたのだから、ちゃんとした名前が有ったのでは?」
馬屋に馬の名前を聞きそびれてしまった…。
「そうかも知れないですけど、正式にユウシさんが購入しましたから、折角ですし、新しく付けてあげましょうよ?」
取り敢えず思い付いた候補を上げてみる事にした。
「色が黒いから『ブラックキング号』…。」
「色で名前を付けるのは…それにキングでも無いですし…。」
「なら…。ま○っちの友達、松風?」
「えっ?誰のお友達ですか?」
「いやっ!?何でも無い!この名前は止めておこう!色々危険だ。」
即座に案を引っ込める。
馬の名前に悩んでいると、アッという間に俺達はモーラ山の登山口まで辿り着いた。
丁度昼時だったので、山越えに入る前に此処で昼食を取る事にした。
昼食も終わり、少し休憩していると、馬の面倒を見ていたペロが、「あっ!?」と声を上げる!
「御主人様!この子、とても綺麗な青い瞳をしていますよ!?今まで全然、気が付きませんでした。」
ペロに指摘されて確認すると、確かに綺麗な深い青い瞳をしていた。
「本当だ。綺麗な青だ…。」
黒い体に隠れて瞳の色に気が付かなかった。
「それに、この子が動くと、微かにですが、瞳から青い残像がその場に残るんです。」
確かに、とても、薄らとだが、光の軌跡が残る…。
車のテールライトが伸びて見える現象と同じかな?
「まるで、青い閃光…稲妻の様ですね?」
「稲妻か…。良いな。」
「えっ?」
ペロが不思議な顔をして此方を見つめる。
「決めたぞ!馬の名前!」
馬にソッと手を当て、言い聞かせる。
「今日からお前の名前は『イナズマ』だ!」
俺の言葉に反応する様に馬が、ヒヒィーーン!と嘶く!
UPしました。
『ブラックキング号』漢字で書くと…。




