脱出
~第七章~脱出
サイドバッグを腰に装着して準備を整える。
その前にゴータスさんの遺体を回収しておかなければ。
恩人をこんな寂しい所に残して行く訳には行かないだろう。
非常持出し袋の中身をアイテムBOXに移し、遺骨を袋に詰め込んだ。
せめて故郷の土に還してあげよう。
「さて、ゲームなら宝物庫から地上に脱出できる通路とか在りそうな物だけど…?」
俺は宝物庫の壁を丹念に調べ始めた。
壁の隙間から風がフワリと流れ込んで来ているのを感じた!
どうやら隠し扉になっている様だ、グッと押してみると壁がズズッと動き、奥に新たな通路が現れた。後戻りは出来ないので進むだけだ。
通路は一本道で途中脇道や小部屋などは無く、意外と距離があった。
「長いな、この通路どこまで続くんだ?」
かれこれ20分ほど歩いて大部屋に辿り着いた。
大部屋には対面した2つ扉があった。
1つは普通の大きな扉、もう1つは扉の真ん中に大きな赤い宝石の付いた何処か場違いな金属製の大扉があった。導かれる様に金属製の大扉の方へ足が動く。
「あれ?この扉、取っ手が無いぞ?」
よく扉を見るとこの扉、継ぎ目等が見当たらない。
大きな赤い宝石など如何にも何かありそうだ。
そっと赤い宝石に触れる。
「イッ!?」
指先から赤い滴が流れ落ちる。
金属片か何かに引っ掛けてしまっただろうか?指先を少し切ってしまった。
アイテムBOXから救急セットを取出し簡単に手当てしておく。
また切っては堪らないので一緒に皮手袋を取出して装備しておく事にする。
改めて大扉を調べるも、開きそうに無いので諦め、もう1つの大きな扉に向かう。
大きな扉は問題なく開いた。
扉の先は螺旋状の階段になっており上へと続いている。
俺は螺旋階段を上り始めた。
一方で赤い宝石に光が灯り、金属製の大扉から静かな機械音が唸り始めていた事を俺はまだ知る由もなかった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…。」
かれこれ30分ほど螺旋階段を上り続けている。
流石に息も絶え絶えだ。
しばらく階段は見たくない。
通路が少し明るくなって来た。
外が近いのだろうか?
懐中電灯を消してサイドバッグに仕舞い込む。
それから15分後、俺は地上へ辿り着いた。
「眩しい!久しぶりの光だ。眩しすぎて目が開けられない!」
遺跡の中は暗闇が広がっていたので光を浴びるのは気持ちがいい。空気もうまい!
光に目が慣れて少しずつ見えてくる。
其処は、森の中だった。
時計を確認してみる。
午前9時40分。5時間近く遺跡の中を彷徨っていた様だ。
ここらで一度、休憩しよう。アイテムBOXからペットボトル入りの水1本と乾パンを1缶取り出す。
水を一本グイッと飲み干してしまった。思った以上に喉が渇いていた様だ。
もう一本水を取出し、乾パンを摘まんで食べていると、どこからか良い匂いが風に乗ってやって来た。
「肉の焼ける匂いだ…。」
思わずクーッとお腹が鳴る。
遺跡を5時間近く彷徨っていた身には、流石に乾パン1缶では足りなかった様だ。
フラフラと匂いに釣られて歩き出す…。
いや!違うよ!!食べ物の匂いに釣られた訳じゃないからね!!
食べ物を調理しているという事はそこに人がいる可能性が在るって事だからね!
自分に言い訳をしながら匂いの元を辿って森の中を歩いて行く。
1キロ程歩き回った所で匂いの元に辿り着いた。
そこは、森の中にポツンと作られた小さな野営所だった。
残念ながら人の姿は見当たらなかった。
たき火をしていたのか、まだ火種が燻っている。
辺りにはさっきまで食されていたと思われる鳥の骨が散乱していた。
「ここで待っていれば戻って来るかな?」
見たところ数人が生活している痕跡がある。
下手に森を歩き回るよりも此処の使用者が戻って来た時に話を聞く方が良いだろう。
しばらく此処に留まってみよう。
野営所には動物の毛皮で作られた簡単な雨除け用テントが複数設置されていた。
どうやら此処で寝起きをしている様だ。
そんなテントの一つに鍵の掛けられた粗末な箱が目に付いた。
『宝箱』
と『盗賊の鑑定眼』で確認できた。アイテムBOXとは違うようだ。
恐らく見た目通りの容量の普通の箱なのだろう。
少し確認するだけなら問題ないか…。一応違いを確かめる為、開けてみようか?
そう思い開錠魔法を試す事にした。
「開錠魔法!」
宝箱が一瞬光り鍵が外れる。中を調べると、服や小物の類が入っていた。
やはりアイテムBOXと違い、普通の箱だった。
どうやら、見た目以上の容量を持つ箱を『アイテムBOX』と呼ぶようだ。
さて、確認したら元に戻しておこう。
流石に持ち主が居るのに盗んでしまうのは不味いだろう。そっと蓋を閉める。
俺は再び開錠魔法を使う。が、宝箱は光る事は無く、鍵も閉まらない。
そこで気が付く。
「しまった!開錠魔法だから、開く事が出来ても閉められないのか!?」
慌てて宝箱の鍵を探す。
このままでは、戻って来た人達に泥棒扱いされてしまう。
それは不味い、助けて貰おうと思っているのに、宝箱漁っていた。
なんて事になれば敵対されかねない、必死にテントの中を探すが見つからない…。
しかもそんな時に限って間が悪い…。
「テメェ!!何もんだ!?そこで何してやがる!!」
野太い男の声が後ろから掛けられる。
振り返ると其処には熊が…。
違った。
熊のような大柄の男がいた。
男の顔には大きな傷が有り、とても友好的な付き合いは出来そうに無いと感じる。
「い、いや!俺は怪しいものでは…。」
慌てて弁解しようとしたが、さらに間が悪く。
「親分!宝箱の鍵が開けられてますぜ!?」
親分と呼ばれた男の後ろに居た、他の男に気が付かれた。
「い、いやこれは、その、何というか…。」
弁解しながら後ずさる。
「テメェ。この俺様から宝、奪うなんざいい度胸じゃねぇかよ!!見た所変わった格好してる様じゃねえか!何様か知らねえが…、このまま無事に済むと思うなよ!黙って身ぐるみ置いていきな!!そうすりゃ命までは…。」
トスッと足元の地面に矢が刺さる。
親分と呼ばれた男が言い終わる前に他の男が矢を撃ってきた。
「親分、構う事無いぜ。殺してから奪った方が早い!!」
弓を持った男がそう言う。
「そりゃ、そうか。…お前ら!!」
親分と呼ばれた男が大声で叫ぶと、どこに隠れていたのか10人近くの男達が現れた。
全員から獲物を見つめるようなピリピリとした殺気を感じる。
親分と呼ばれた男が剣を抜刀して叫ぶ。
「奪い取れ!!」
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