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山賊を討て!

~第七十三章~山賊を討て!


「ヒィィィィイ!?」


森の中を走って戻っていると、何とも情けない声が響く。

ペロ、エリナさん、バンスの声では無い。

この声は…、グラップだ!

直後、怒鳴り声が響き渡る!?


「待てゃあ!!グラップ!!お前も仮にも山賊だろうが!!山賊の流儀で!俺がキッチリ引導を渡してやる!!」


あの声はバンスの声だな。

あちらは無事に信者達を討伐出来た様だ。

現在バンスがグラップを仕留めようと追いかけ回しているのだろう。

元の場所に辿り着くと、ペロも無事に信者を討伐出来た様だ。

ペロと一緒にエリナさんも居る。

俺の姿を確認すると、駆け寄ってくる。


「御主人様!御無事でしたか!?」


「ユウシさん!大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫。無事に討伐出来たよ。二人とも怪我は無いか?」


声を掛けた所でペロの皮鎧の背中部分が焼け落ちているのを確認出来た!?


「ペロ!?皮鎧が…大丈夫か!?」


「あっ…はい。怪我はエリナさんが治療して下さいました。でも…御免なさい。折角買って頂いたのに鎧…、駄目にしちゃいました。」


ペロは落ち込んでいる様だ、心なしか尻尾もシュンとしている。

俺はペロの頭をワシワシと強めに撫でる。


「ペロに怪我が無くて良かったよ…。鎧なんて又買えば良いんだから。」


シュンとしていた尻尾がブンブンと振られ出した。

エリナさんに向き直ると、羨ましそうな視線でペロの事を見ていた。

…お礼を言っておこう。


「エリナさん。ペロの怪我を治してくれて有難う。」


「えっ、あっ、はい。如何いたしまして。」


急に話し掛けられてエリナさんは、少し戸惑っていた。

…俺はエリナさんの頭に手を伸ばして、優しく撫でてみる。


「あっ…。………。」


少し戸惑っていたが黙ってエリナさんは撫でられている。

顔が少し赤くなっているが、口元には笑みが零れている…。


「さて、現状を取り敢えず教えて貰っても良いですか?」


俺の言葉にエリナさんが現状を教えてくれた。

何でも、二人の信者の相手を終えたバンスが戻って来ると、シールドスローで受けたダメージが回復したグラップが、像を抱えて逃げ出そうとしていたらしく、それを発見したバンスが斧を片手に追い回しているそうだ。

ならば、後はバンスに任せておこうか?

じきに決着は着くだろう…。


「ぎゃあああぁぁぁ!!」


森に響き渡る声!

グラップの声だ。

如何やら決着は着いた様だ…。

俺達は声の聞こえた方へと確認に向かう。


「嫌だ!死にたくない!死にたくないんだ!!このまま山賊で終わる人生なんて嫌なんだぁ!」


グラップは背中に大きな切り傷を負って地面を這い回っている…。

あの傷では、もう長くは無いだろう…。

近くには斧を持ったバンスが立って居た。


「テメェは山賊仲間ですら殺した!今受ける痛みはその罰だ!苦しみ抜いて死ぬんだ!慈悲は無い!!」


暫くすると、茂みの近くでグラップは動きを止めた…。

死んだか…。と、思ったが小さな声で何やらブツブツと独り言を言っている。

そしてその手には例の像!


「¥;*様…。生贄を捧げます。私の命を捧げます!」


そう言って懐に忍ばせていたと思われる短剣を取り出すと、躊躇無く自分の胸へと突き立てる!!


「グッ!?」


低い呻き声と共にグラップは息絶える…。

グラップの遺体からはゆっくりと血液が溢れ出し海を作る…。

首謀者の自殺…、閉幕としては、何とも呆気ない物だと思う。

狂気とも言える信仰は最後に自分の命を生贄にして終わりを告げるとは何ともやるせない感じが残る。

しかし、これで盗賊の討伐は完了だ。

サッサと撤収しよう。


「ああ、そうだ。一応あの像も回収しておかないとな…。」


像を回収しようとグラップの遺体に近づくと溢れ出した血の海に像は浸かり紅く染まり上がっていた。

何となく触れる事を躊躇わせる…。

しかし、放置しておくのも悪いので覚悟を決めて血の海に浮かぶ像に手を伸ばす…。

いや!伸ばそうとして気が付く!像が微かに震えている!?

像が震える事で血の海に波紋が起こる!

途端!ズズッと、血の海が瞬く間に像に吸収される!


「うわっ!?」


気味が悪い…。

思わず後ろに引いてしまった。

像は未だに震えている…、いや、震えが大きく成って無いか?


ビキィィィ!!


震えが限界に来たのか突然像に亀裂が走る!

走った亀裂から何やら黒煙が立ち上り始める。

内側から湧き出る黒煙に押し退けられる様に像は亀裂からバラバラと崩れ落ちてしまった…。

像から湧き出た黒煙は空へと一旦上昇するとクルリと旋回してから再び地上に…、グラップの遺体目掛けて降りて来る!

黒煙は放置されているグラップの遺体をスッポリ覆うと、その姿を隠してしまった。

暫くすると、少しずつ薄まって行く煙の中からグラップの体を確認出来た。

煙はグラップの口や鼻、短剣による傷口などから、体内へと侵入している!?

俺達はこの異様な光景をただ見ている事しか出来なかった…。

暫くすると煙は完全にグラップの体内へと消えてしまった。


「何なんだ?今の煙は…。」


ソッとグラップの遺体を覗き込む…。

短剣は未だ胸に刺さったままで、その上、呼吸も確認出来ない。

完全に死んでいる筈…、しかし!

ピクピクッ!と、指が突如動き出す!?

すかさずグラップの遺体から距離を取る!

当の遺体は、ユックリとした動作で立ち上がると、自分の体をしげしげと眺めている?


「俺は…、生きてるのか?」


体の状態を確認するように腕を動かしている。

自分の体の状況に納得したのか、動きを止める。


「お前、グラップなのか?」


「ああ、そうだ。…いや、違うな。俺は一度死んだ。新しく生まれ変わったんだ。¥;*様が俺の願いを叶えてくれたんだ。ハハッ、ハハハアッハハハッ!俺は、俺は、死なない体を手に入れたんだ!!」


一人で何かを納得し、ケラケラと笑っている。

笑いながら、体に刺さっていた短剣を引き抜くと、ポイッと投げ捨てる!

蓋の代わりと成っていた短剣を引き抜いた事で、血が少量流れ出すが、その後、傷口から黒い煙が溢れて傷口を塞いでしまった。

事前に大量の血液を失っている為か、顔色は土気色をしている。

失って良い量など等に越えているだろう。

死なない体と言うよりは、どちらかと言うと…。


「既に死んでいる体。かな…?」


俺の言葉に、近くで一緒に居たバンスが反応する。


「じゃあ、何か?奴はもう…人間じゃ無いのか!?」


「ああ、たぶん、ゾンビ…、アンデッドって奴じゃないかな?」


普通、心臓まで達する傷を負ってあんなに元気よくケラケラとは笑えないだろう?

実際、盗賊の鑑定眼で確認すると『魔物・リビングデッド・青銅貨5枚』と出た。


「チッ!あの野郎!人間やめたって事かよ!?」


バンスは斧を構え、勢い良くグラップに突撃する!


「グラップ!もう一度キッチリと眠らせてやる!」


構えた斧をグラップへと振り下ろす!

当のグラップは避けもせずにただ振り下ろされる斧をジッと見ているだけだった。

斧は、グラップの体を肩から胸に掛けてを一気に切り裂いた!


「な、何!?」


切り裂かれた部位から黒煙が溢れて、あっという間に傷口を塞いでしまった!?


「アッハハハ!無駄さ!俺は死なないんだ!」


そう言うと、バンスに向かって拳を放つ!

バンスは咄嗟に武器を構え攻撃を防御するが…。


「グハッ!」


構えた武器ごと後ろへと吹き飛ばされた!?

あの痩せ細った体の何処にこんな力が!?

此処は、教会に所属しているエリナさんに話を聞いてみるのが良いか?


「エリナさん!アンデッドってこんなに強いんですか!?」


「い、いえ!普通アンデッドと言えば、動きが緩慢で攻撃力も防御力も低い存在だと聞いています。むしろ厄介なのは群れを成して襲って来る事だと…。」


つまり、普通のアンデッドでは無い可能性があると言う事か…。


「ペロ!エリナさんを守れ!」


「はい!分りました!」


俺は妖精の剣をを引き抜くと、グラップに切り掛かる!

剣を一振りすると、咄嗟に防御したグラップの肘から先をを切り飛ばす!!

切り口からは血液では無く、黒煙が噴き出す!


「ぎゃぁぁぁ!お、俺の腕がぁぁぁぁ!!何てな…。」


腕を切り落とされてもグラップは平然としている、それどころか反対の腕で殴り返して来た!?

咄嗟に防御の構えを取ると、直後!


ズガンッ!!


と、強烈な衝撃が襲って来る!?

それが殴られたと、理解するのに少し時間を要した。

防御態勢を取っていたにも関わらず、一撃で意識を持って行かれそうに成る…。


「クッ!まともに食らったら流石にお陀仏だな。」


意識を持って行かれそうな頭をブンブンと振り、剣を構え直す。

直後、グラップから再び拳が繰り出される!?

そう何度も防御出来る拳では無い!

幸い、拳の速度はそれ程速くは無い!

俺は身を捻じり、紙一重で避ける!


「まだまだ!もう一発!!」


そう言うと、肘から先を切り落とされた腕を俺に突き出す!

未だに黒煙が噴き出す腕から大量の黒煙が噴き出す!!

黒煙には質量が有る様で、鉄塊に殴られた様な衝撃と共に俺は後ろに吹き飛ばされる!


「グハッ!」


吹き飛ばされた先の樹木に強く体を打ちつける!

今の攻撃でHPバーから2割程が削られた…。


グラップの腕から伸びた黒煙は、まるで蛇の様にも見える…。

そんな黒煙の蛇が再び俺に襲い掛かろうと身構えるのが分かった…。


「おらっ!死んじまえ!」


グラップの腕から伸びた黒煙は真っ直ぐに倒れる俺に伸びる!

不味い!躱さないと!

俺は無理やり体を捻ると地面の上を転がり黒煙の一撃を何とか躱す!


「まだまだッ!」


手元まで引き戻された黒煙を再び俺を狙って繰り出す!

避けようとするが、体がまだ言う事を聞かない!


「駄目だ!避けれないっ!!」


黒煙は俺をキッチリと狙い、迫って来る!!

あと少しで黒煙が到達する!と言う瞬間!


「どぉぉぉりゃぁぁぁ!!」


バンスが斧を振り下ろし黒煙を叩き切る!

黒煙は切り落とされると、そのまま掻き消えてしまった。


「ユウシ!大丈夫か!?」


「バンス!悪い!助かった!」


体に喝を入れて、何とか起き上がるり、グラップの方へと向き直る!

すると、グラップの様子がおかしい事に気付いた!


「あ゛あ゛ぁぁぁ!痛だいぃぃぃ!う、腕がぁぁぁ!」


グラップは腕を押さえて、苦しんでいた。

自分の腕を切り落とされても平然としていた奴が、黒煙を切られて痛がっていた…。

これは…。


「バンス!!」


「応!!」


互いに思う所は同じ様で説明は不要だった。

俺が合図すると、バンスがグラップへと、切り掛かる!

俺は魔法弓を取り出すと、グラップへと射掛ける!

ドスッドスッドスッ!と、矢がグラップの体へと突き刺さる!

同時に魔力で出来た矢はその姿を消し、体に穴のみを残す!

穿たれた穴から黒煙が噴き出す!

バンスは噴き出た黒煙を斧で切り払って行く!


「ぎゃぁ!!や、止めろ!」


確実にダメージを与えられている!

しかし、穿たれた穴からは腕と同様に黒煙が伸び、触手の様に振り回されている。

しかし、バンスは向かって来る黒煙触手を的確に切り落としてゆく!

その度にグラップは苦しんでいる!

最大の攻撃方法が実は弱点でした、なんて良くある話だ。

俺は剣を構えると、グラップへと向かい走り出す!


「バンス!片を付けるぞ!」


「ッ!?応!!」


俺の言葉にバンスは手に持つ斧に力を込める!

体から伸びる触手を払い落すと、そのまま、の勢いで体を一回転…。


「ハァァァッ、セイッヤァ!!」


遠心力を利用して斧を水平に払うと、グラップの頭は、悲鳴を上げる間も無く、首から綺麗に切り離された。

途端に頭を失った胴体から大量の黒煙が溢れ出す!


「バンス!背中借りるぞ!」


「なに!?うぉ!」


バンスの背中を駆け上がり空中へと踊り出る!

目の前には空へと登り行く黒煙に剣を構える!!


「これで、どうだぁぁ!!」


黒煙に剣を突き刺し、自重を利用して切り裂きながら落下する!


「チェストォォォォ!!」


しばし場が静寂に包まれる…。

地面に着地した俺は、未だ剣を振り抜いたまま、動かない…。直後!


「ッ―――――――!!」


頭を失ったグラップの体が真っ二つに裂け、声に成らない悲鳴を上げる。

黒煙は薄らと空へと消えて行き、グラップの体は、ボロボロと崩れて行った。


「終わったな。」


ポンと、バンスに肩を叩かれた。

ペロとエリナさんも戦いが終わった事で此方に来ている。


「御主人様!」


「ユウシさん!」


「帰ろう。サリオン村へ!」


UPしました。

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