儀式
~第六十八章~儀式
木々の間から現れた男は、長身でやつれた体をしている。
風が吹けば倒れそうな細い体をしていながらも、その眼は、ギラギラと怪しい光を浮かべて此方を睨んでいる。
「なあ…。返せよ…。持って行っただろ?俺の、部屋から…。持って行っただろ?」
男はゆっくりと此方に近づいて来る。
男が返せと言っているのは、恐らく頭領の部屋の奥に安置されていた像の事だろう。
「お前がグラップか!?」
「ああ、そうだ…。それよりよぉ…、なぁ!返せ、返せよ…、返せって!俺の¥;*像!」
ザザッと耳障りな音に阻まれ像の名前が聞き取れない!?
しかし、男はグラップで間違い無い様だ。
「何でサリオン村を襲い、村の人達を攫った!?」
「¥;*様への生贄さ!特に処女が良い!¥;*様へ捧げると、俺の願いが…、叶えて貰えるんだ…。」
そんな事の為にエリナさん達は襲われたのか…。
サイドバッグから、布に巻いた像を取出しグラップに見せ付ける。
「お前の言っている像は、これの事か?」
像を見た途端、グラップの目付きが変わる!
「その像、返してくれよぉ、返してくれって…、返せよ!返せ返せ返せ返せ…!!」
グラップの余りの剣幕に一瞬飲まれそうになった!
散々喚き散らすと急に静かに成る…。
「返さないなら…、殺すしか無い。うん。最初から殺して奪えば良いんだ。男じゃ、生贄の価値は低いが、無いよりマシだろ?サクッと死んでくれよ!ヒャッハアァァァア!!」
グラップは笑いながら剣を抜き放ち襲い掛かって来る!
しかし、剣術と呼ぶにはお粗末で、只振り回すだけなので容易く弾き飛ばせる。
ゲシッと腹に蹴りを入れ、蹴り飛ばすと簡単に転倒させる事が出来た。
グラップに止めを刺す為に近づく…。
この時、俺は、弓で攻撃されたのに、グラップが弓矢を装備していない事に気が付け無かった。
「悪いが、此処で禍根を断たせて貰う!覚悟!!…グゥ!?」
倒れるグラップに止めを刺そうと剣を振り上げた瞬間の事だった。
トスっと軽い音を立てて後ろから俺の背中に矢が一本突き刺さる…!
「痛ぅ!?何だ…これ!?」
余りの痛さに立って居れずにその場に倒れ込む!
視線感知には反応は無かった筈だぞ!一体何処から!?
しかし、問題はそれだけでは無い!
たった一発の矢で、俺のHPバーは一気に7割近くが消失してしまった!?
不味い!回復しないと!!
咄嗟に矢を引き抜き、退避しようと立ち上がる!
しかし!立ち上がろうとして足に力が入らず、そのまま前のめりで地面へと突っ伏す!
何事!?と思った瞬間、体が言う事を聞かなく成った!
体にはピリピリと痺れが有り、指先一つ動かせない!
「く、くそ!何だ、これ!?ウッ!?」
体が動かない事に戸惑っていると、ドクンッ!と体の中で脈打つのを感じる…?
俺はその瞬間、HPバーから少量の減少を確認した…。
その後もHPの減少は止まらず、少量ずつだが減り続けている!
「こ、これは…。まさか、毒!?」
HPバーの横に毒々しいアイコンが現れ、点滅しているのも見て取れた。
「と、特製の麻痺毒を塗ってあります。」
知らない男の声が暗闇から響く…。
森の奥からローブを纏った男が弓を担いで歩いて来た。
男は俺の前で止まると一言呟く。
「俺の矢を受けて、まだ死にませんか…。」
男の言葉には俺を一撃で屠る自信が有った事が窺える…。
「まあ、毒が次第にその命を終わらせてくれるでしょう。」
首から上は辛うじて動く…。
首を捻り、ローブの中の男の顔を見る………なっ!?
俺は男の顔に驚愕する!
「お前、もしかして、目が…!?」
男の顔には…、眼球が無かった…、空っぽだ!
虚ろな空洞が俺を見下ろす…。
盲目の弓兵なんて、有りかよ?
「ええ、この眼は10人の処女の生贄と共に¥;*様へと、捧げました。しかし!お陰で私は¥;*様より、全てを見通す力を授かりました!…すべては、私を導いてくれたグラップ様のお陰です!」
男はそう言うと、グラップに向かって祈りを捧げる…。
なるほど…、この男は、グラップに賛同した信者の一人という所か?
そして、村を襲い、村人を連れ去った理由は…カルト教団儀式の生贄か!
まさか、生贄で本当にご加護が得られるとはね…。
カルト教団でも実益が有れば、のめり込むのは、簡単か…。
突如、脇腹を思いっきり蹴り飛ばされる!
「グハッ!?」
蹴られた衝撃で仰向けに成ると、其処にはグラップが俺の顔を覗き込んでいた!
如何やら、転倒から起き上がったグラップに蹴られた様だ…。
「¥;*様!今、お助けします!」
身動きの取れない俺のサイドバッグを漁り、布で巻かれた像が取り出された。
グラップは布を強引に剥ぎ取ると、大事そうにシッカリと抱え込む。
「おおおおおおおおぉぉぉぉ!!¥;*様!グラップに御座います!!申し訳ありません!すぐに儀式を!生贄を捧げますので、生き血を捧げますので!!我が願いを!…永遠の命を私にお与え下さい!!」
グラップは像に対して一人芝居でもしているかの様に喋り掛けている…。
男も膝を地面に付け、祈りを捧げている。
気が付けば、いつの間にか他にも数名、同じローブを纏った信者達が何処からか現れ、祈りを捧げている。
見渡してみれば、やはり全員眼球が無い…。
視線感知に反応が無い訳だ、視線を向ける眼球が無いのだから…。
最早、信仰が過ぎてコイツ等狂っている…。
「後少し!あと少しで願いが叶うのだ!生贄が必要だ…。新鮮な、血や肉を捧げよ…。」
グラップが身動きの取れない俺の方を見る。
それを合図に、今まで祈りを捧げていたローブ信者達が一斉に動き出し俺をぐるりと取り囲む。
「処女の生き血で無いのは残念だが、この際、仕方が無い!さあ、儀式を始めよ!」
グラップの号令と共にローブ信者達は詠唱を始める!
ローブ信者達の苦悶の声にも似た詠唱により、俺を取り囲む様に、真っ赤な魔方陣が浮かび上がる!
グラップが剣を手に携え、魔方陣中央に居る俺の元へとやって来ると、剣を振り上げる!
「¥;*様!この者の命を捧げます!私の願いを!不老不死をお与え下さい!!」
グラップの持つ剣は真っ直ぐ俺目掛けて振り下ろされる!
今日は猫の日らしい…。
2(ニャン)2(ニャン)2(ニャン)だかららしいぞ。




