師匠と弟子
~第五章~師匠と弟子
耳を疑う。
魔石を砕く!?何の為に?
「え!?魔石を砕くんですか?開錠魔法を覚えるのに必要なんですか?そ、それに魔石を砕いたらゴータスさんは、どうなってしまうんですか?」
今のゴータスさんは魔石の中に意思を留めているだけの存在だ。憑代である魔石が壊れて無事でいられるとは思えない。
「ユウシ、良いのだ。本来なら儂はもう死んでいるのだからな…。此処に在るのはゴータス本人の残り粕の様な物だ。しかし残り粕でも此処までの意志の力が有れば儂が得た経験と技術を魔力に変換してユウシの中に注ぎ込む事が出来る筈じゃ!」
「ゴータスさん…。俺は…。」
言い淀む、ついさっき出会ったばかりとはいえ、知り合ってしまった人の人生最後の幕を下ろさなければならないなんて、そんなのは酷というものだ。
「良いのだ。どうせこのまま魔石の中に居た所でこの意識は次第に薄れて消えてしまうだろう。それに儂は嬉しいのだよ。弟子も取らずに此処まで来てしまった儂に、ユウシ、お前さんと言う弟子を残せるのだからな。こんなに嬉しい事は無い。」
弟子か…。ゴータスさんに師事を乞うのだから当然か、しかし弟子として最初の仕事が師匠の最後を看取る事になるとは、皮肉な話だ…。
「ゴータスさん、いや!師匠!!わかった!!師匠の技は俺が受け継ぐよ!!」
俺は師匠の技を受け継ぐ事を決めた。
師匠は何処となく嬉しそう微笑んでいる。と、思う。
魔石からは表情や感情の類は伝わらないが、何となく直観でそう思う。
「ユウシよ、技を授ける前にお願いがあるのじゃが?良いだろうか?」
師匠が話を切り出してきた。何だろうか?
「はい?何でしょうか?師匠?」
「じつは、一つ気がかりな事が有ってな。故郷のサリオン村に一人置いて来てしまった孫娘の事なんじゃ…。」
孫が居たのか、師匠そういえば年齢はいくつなのだろうか?体は骨になっているし、今は魔石になっているからイマイチ年齢が解らない?喋り方から年上では在ろうとは思われるが…。
「師匠、孫が居たんですね。師匠は今何歳なのですか?」
「うん?死んだ時に丁度60歳じゃったな。孫はその時10歳じゃったから、今は15歳になって居るじゃろう。名を「エリナ、エリナ・ソラト」と言うのじゃがなそのエリナに儂の死を伝えては貰えないじゃろうか?村を出る時エリナには、すぐ帰るからと言って出かけたのじゃが、戻る事が出来なんだ…。すまないと、そして一言、愛していると伝えては貰えまいか…。」
師匠の人生最後の願い。ここで嫌と言うほど俺も人間が腐っている訳では無い。
「伝えましょう。エリナさんに師匠の最後の言葉を…。」
「そうか、ありがとう。ユウシ…、儂の遺体の腰の所に短剣がないか?」
遺体の所に戻り、腰の所を探すと綺麗な模様の入った鞘に納められた短剣があった。
「これですね?師匠。」
手に取り、鞘から取り出す。刃の部分が先端からポッキリと折れてしまっていた。
「もう短剣としては使い物にならないじゃろうな、ユウシ、この短剣で魔石を砕け。
刃が折れていても魔石ぐらいなら砕けるじゃろう。そして、エリナにこの短剣を渡してやってくれ。」
「はい。確かに預かりました。きっとエリナさんに届けます。」
「うむ。技を磨け!!高みを目指せ!!若き盗賊よ!!さらばだ!!」
俺は魔石を床に置き、折れた短剣を魔石に突き立てた!!
パッキーンと甲高い音と共に魔石が割れる。
割れた魔石はサラサラと砂になってしまった。
と同時に黒い霧の様な物が魔石より噴出し体の周りに漂い消えてゆく。
終わったのだろうか?俺はコントローラーを取出しステータスを確認してみる。
・ステータス
・NAME「オオトリ ユウシ」
・称号:盗賊見習い
・LV:1
・HP:99/100
・MP:80/80
・SP:100
・職業:盗賊
・スキル
・開錠魔法 LV:1/10
・隠密 LV:1/10
・盗賊の鑑定眼 LV:1/10
スキルが“なし”から3つ増えている。開錠魔法も習得済みだ。
覚えられてよかった。
他にも称号が“盗賊見習い”になっている。師匠に弟子入りしたからだろうか?
さらにSPが100に増えていた。が、今は先に宝箱を開錠してみよう。
「そういえば開錠魔法を覚えたといっても具体的にはどうやって使用すればいいんだろう?こうか?開錠魔法!!」
右手を宝箱に向け開錠魔法を叫ぶ。と、宝箱が一瞬光る。近寄って蓋に手を伸ばす。が、
「あれ?開かない?まだ鍵が掛かってる?何で?」
宝箱は口を閉じたままビクともしない。
UPしました。






