買い物に行こう
~第五十章~買い物に行こう
眠い…。
結局、眠りに落ちたのは明け方位だった。
しかし、無慈悲にも朝は来る。
目を開け隣を見る…、ペロの姿は既にベッドに無く、空っぽだ。
ベッドの上で微睡んでいると声を掛けられる。
「ゴシュジンサマ、オハヨ、ゴザイマス。」
ペロは既に起き、昨日、着ていた貫頭衣?に身を包んでいた。
貸していたシャツとズボンは綺麗に畳んで部屋のテーブルの上に置かれている。
そのまま着ていても良かったのに…。
「…ん。おはよう、ペロ。」
寝ぼけ頭で返事をする。
「ゴシュジンサマ、キガエ、ヨウイ、シマシタ。です。」
そう言って俺が昨日脱いだまま椅子に掛けていた服を差し出す。
服はキチンと折り畳まれている。
意識もハッキリし出した所でペロから服を受け取り、着替える。
「ペロ、朝ご飯に行こうか?」
「ハイ。」
朝も小鳥亭の食堂で食べる。
食事の際に今日の日程を確認する。
「ペロ、今日は生活に必要な品物等を買いに行こうと思うんだ。良いかな?」
「ハイ。イッショ、イキマス。」
朝ご飯を食べ終え、街に出かける。
「まずは、服を買いに行こう。」
「ハイ。ゴシュジンサマ。」
ペロの車椅子を押しながら街を歩く。
でも、俺、服屋がどこに在るのか知らないんだよね。
フラフラと歩いていると、武器屋が見えて来た。
いつものヒゲ親父が店を開ける準備をしていた。
「丁度いい。ヒゲの親父さんに服屋の場所聞くか。」
俺達は武器屋に向って歩き出す。
「おはようございます。」
ヒゲ親父に声を掛けると、後ろを向いて作業をしていたヒゲ親父は此方を向き、返事を返してくれる。
「おぉ!兄ちゃんじゃねえか!?おはようさん!…しかし、こんな朝早くから、どうした?悪いがまだ、開店準備中だぜ?」
「ああ、ヒゲの親父さんが見えたからな、挨拶に寄っただけさ。あと、服屋の場所を聞きに来た。」
「なんだ?可愛げの有る事、言ったかと思えば、本音がすぐ後ろから出て来たな。それに何だ?車椅子連れの娘は?…奴隷か?」
「ペロ・シーバ、イイマス。ヨロシク、オレガイシマス。」
「ふむ、犬人か?」
「ああ、うん。昨日、親父さんと別れてから、奴隷商に行ってみたんだ。」
「で、買っちまったと?良くそんな金持ってたな?」
「まあ、ギリギリだったよ。」
「ふぅん。まあ、人の趣味に意見するつもりは無いさ。」
「その内、又、世話になると思うからヨロシク。」
「じゃあ、未来のお得意様に媚を売っておくとするか?で、服屋の場所だったか?」
「服が買えるなら、服専門店でなくても良いですよ?」
「そうさな…。上等な服が欲しいんなら、貴族街の服飾屋に行くと良い。安物で良ければ、向かいの通りの道具屋で手に入る筈だ。」
「貴族街って?何処です?」
「教会が建って居る地区が貴族街だ。」
何度か教会には足を運んだ事が有る、あそこが貴族街だったのか…。
「そっか。ありがとう。早速行ってみるよ。」
応!とヒゲ親父が返事をする傍でペロがペコリと頭を下げて、俺達は服屋へと赴く。
「まずは、貴族街の服飾屋へと行って観よう。」
「ハイ。」
教会の建つ広場までやって来た。
ついでだからペロにライティングの魔法も習得させ様かと思ったが、何やら教会が騒がしい、近くのシスターに話を聞くと、先日、教会に物取りが出たらしく、少しバタついているらしい…。
「(…、身に覚えが有りすぎる!!)」
しばらく教会に近づくのは止めておこう…。
教会を離れ暫く歩き回ると、話に聞いた服飾屋を発見した。
服飾屋に入ると、店主と思しき男がやって来る。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
紳士的な態度で接客にあたる店主。
少なくとも客を見た目で判断する店では無い様だ。
奴隷であるペロを見て、態度を変える様ならすぐに店を出る積りだったが心配は要ら無さそうである。
「この娘に似合う服を見立ててくれ。」
俺の言葉にペロが驚く。
「エ!?ワタシ、ノ、フク?ですか?イ、イマキテル、フク、ジュウブン、です!」
自分の格好を指してペロが言う。
如何やらペロは俺の服を買うと思っていた様だ。
「うん。でもそれ一着だけじゃ…ね。これからの生活にも何着かは要るだろう?」
「!!…ハイ!」
ペロは嬉しそうに返事をする。
奴隷の身分で服を買って貰えるとは思って居なかった様だ。
「では、此方の御嬢さんの寸法を測らせて戴きます。」
ペロは車椅子に座っている為、寸法等は図りにくいのでは?と思ったが其処は流石プロの仕事だ、あっという間にはかり終えてしまった。
「そうですね…。御嬢さんの様な方には此方など如何でしょうか?」
そう言って店主は一着の服を差し出す。
シンプルなデザインの中にも品を感じるワンピースタイプの一着だ。
ペロに着せたらきっと似合うだろう。
ペロも瞳を輝かせている。
「ぺろ、これにするか?」
「デモ…。オカネ…。タカイフク?」
ふむ、確かに値段は大事だ。
「それ、幾らだ?」
「銀貨1枚と銅貨5枚に成ります。」
「…。」
ペロが残念そうな顔をする。
思っていた以上の額だったのだろう。
「じゃあ、これ、下さい。」
「エ!?イイデスカ!?フク、タカイです!?」
「ああ、きっとペロに似合うだろうからね。」
「アリガト、ゴザイマス。ゴシュジンサマ。」
ペロは店の一角で試着した後、少し手直しを施してから、店主が服を包んで渡してくれた。
「ほら、ペロ。」
店主から受け取った服をペロに渡すと、ギュッと服を胸に抱きしめて、何度もお礼を言われた。
やはり、ペロは笑顔が似合う。
次に俺達は道具屋へと向かう事にした。
ペロに買ったワンピースは可愛い服ではあるが、街の外で活動するには不向きだからだ。
作業用に汚れても良い服を探しているのだが…。
道具屋に着くと、店番をしているおばさんに声を掛けられる。
「あら?お兄さん、久しぶり。」
一度依頼で訪れただけなのに、俺の事を覚えていたのか…。
記憶力の良いおばさんだ。
「こんにちは、お久しぶりです。」
「お兄さん。又、薬草の採取をお願いね。お兄さんの取って来る薬草が一番品質が良いのよ~。」
「ええ、又、近い内にでも、行ってみます。で、ですね。服を置いてますか?布の服とズボンの様な、動き易い感じの服が良いんですが…。」
「服はお兄さんが着るの?」
「いえ、こっちの娘が…。」
ペロを指さしておばさんに示す。
「犬人の御嬢さんね。えっと…、亜人用のズボンはっと…?」
おばさんは店の棚をごそごそと探っている。
「普通のズボンじゃ駄目なんですか?」
何故、人と分ける必要が有るのか解らない。
すると、おばさんが説明してくれる。
「亜人の人は尻尾を持ってる人が多いから、普通のズボンじゃ合わないのよねぇ~。」
なるほど、そういう事か!
「あ!有ったわ。布の服はこれね。ズボンはこれが良いかしら?」
どちらも、良いデザインの服だ。
道具屋のおばさんのセンスが光る。
「この服を貰おう、あと回復ポーションを見せて欲しい。」
「はいよ。今、店に在るポーションはこれだね。」
おばさんは回復ポーションの陳列棚を見せてくれた。
棚には、体力回復ポーション(微)(小)(中)が並んで居た。
「この体力回復ポーション(中)も一つくれ。」
「以上で良いかい?」
「ええ、以上で…ん?これは…。」
陳列棚に並ぶ商品の一つに目が留まり、手に取る。
そのまま他の商品と一緒に会計の為、おばさんに差し出す。
「これも一緒にお願いします。」
「毎度あり。ところでお兄さん、あの亜人の娘はお兄さんの奴隷?」
「ええ、そうですよ。」
「そう…。じゃあ、これもオマケしておくわね。おばさんからの心遣いよ。」
そう言っておばさんは俺に瓶入りの錠剤を手渡す。
「これは?」
「これはね。………よ。」
おばさんは俺に耳打ちして、教えてくれる。
「あ~。うん。貰っておきます…。」
お会計を終え、道具屋を出る。
ペロに買った布の服とズボンを手渡す。
「ペロ、この服は、普段使いで着ると良い。」
「コンナニ、フク、イタダイテ、ヨイ、ノデショウカ?ナンダカ…。モウシワケ、ナイです。」
一日で二着も買って貰えるとは流石に思って居なかった様で恐縮気味である。
そんなペロに俺は今買ったポーション(中)を差し出す。
「ペロ。これを足の治療に使ってみよう。飲んでみて。」
「ハ、ハイ!」
ペロは遠慮がちにポーションをチビチビと飲んでいる。
ポーションを飲み終わったペロに状態を聞いてみる。
「ゴメンナサイ…。アシ、ウゴキマセン…。スミマセン、コンナニ、ヨク、シテモラッテルノニ…。」
「まあ、仕方が無いさ、気にするな。」
やはり回復ポーションでは足は治療出来ない様だ。
これは、いよいよアンブロシアの出番の様だ、今日の夜にでも試してみようか?
その後、昼食に露店が並ぶ通りで以前食べた、異世界風ハンバーガーで二人して腹を満たす。
その後、ペロと一緒に下着類や、調味類、調理器具などの生活雑貨を買いに歩いた。
宿に帰宅したのは、結局夕方近くになってしまった。
夕食を済ませ、お湯で身を清めると、俺はペロを近くに呼ぶ。
「ペロ、今から、本格的に足の治療をしようと思う。」
「…ゴシュジンサマ。アマリ、ワタシノアシ、キニスル、ヨクナイ。ワタシノ、オカサン、ミタク、ゴシュジンサマ、タオレル、イヤ…。です。」
「俺なら、大丈夫だから、心配いらないよ。」
ペロの頭を撫でながら、優しく語り掛ける。
「ペロ、この薬を飲んでみてくれるかな?」
「アオイ…、ポーションデスカ?です。」
言われてみれば体力回復ポーションは、赤い液体だったな。
ちなみに、後で知ったが、青い液体が入ったポーションも有る、此方は魔力回復用だそうだ。
ペロは恐る恐るアンブロシアを口にする。
「…。エット、ノミマシタ。」
一瓶すべて飲み干して、此方を向く。
「体は何とも無いか?」
アンブロシアの副作用で体力を持って行かれる事が有るので注意が必要なのだが、ペロは若干痩せているだけで、体は元気そうなので心配は要らない筈だ。
「…エット、スコシ、カラタ、オモイ、カモ…。です。」
少し体力を持って行かれた様だ。
だが、この調子ならすぐに元に戻るだろう。
「良し、じゃあペロ。足を動かしてみてくれ。」
俺の言葉に、ペロは足に力を込める。
「アッ!?」
すると、ピクッと右足の足首が動く。
ついで左足、左右の指まで、動かせる様だ。
「ア、アァァ…。ウ、ウゴイタ。ワタシ、アシガ、ウ、ウゴキマスタ。…です。」
涙が頬を伝う、口を震える手で覆い、感動に咽び泣く。
そっと涙を流すペロの背中に手を置き、慰める。
泣き止んだペロは自分の足をしげしげと見つめている。
今の内に、ペロのステータスを確認する。
すると、「状態異常:身体欠損・脚(移動阻害LV2)」は、完全にペロのステータスから姿を消していた。
「ゴ、ゴシュジンサマ!アリガトゴザイマス!ワタシ、コノゴオン、ケシテケシテ、ワスレナイ。です。」
ペロは俺に感謝してくれている。
しかし、治って良かった…、正直、奴隷商でこの子の足を見た時に最初は治せるとは、思って居なかったからな…。
奴隷商が言った「魔物に足の腱をやられた」と言う言葉が有ったから思いついたのだ。
魔物に足をやられた、怪我をした、怪我なら治せるのでは?という考えだ。
本当に上手く行ってくれて良かった。
ホッと胸を撫で下ろす。
少し考えに浸っていると、ペロが車椅子から立ち上がろうとしている。
「お、おい。行き成りは危な、おっと!?」
俺の心配する声より先にペロが立ち上がるのに失敗して、俺の方へと倒れて来る。
倒れて来るペロを受け止め安否を確認する。
「大丈夫か?」
「ハ、ハイ。ゴメンナサ…!?」
しかし、途端にペロは顔を青ざめさせ、俺から離れると、地面にひれ伏す。
咄嗟の事に反応出来ない俺…。
「ゴ、ゴメンナサイ!ゴシュジンサマ!!ブレイシマシタ!ユルシクダサイ!」
ひれ伏すペロは少し震えている。
主人に粗相を働いたので、怒られると思って居るのだろう。
俺はソッとペロの頭を撫でる。
「大丈夫、気にしてないよ。でも、行き成り無理しちゃ駄目だよ。足も治ったばかりなんだから。」
「…ハイ。ゴメンナサイデシタ。」
幼少時に怪我を負い、今までが車椅子生活だと言うならば、多少のリハビリも必要に成るだろう。
「ゆっくり、足を慣らして行こう。」
その日は夜遅くまで、ペロの歩行訓練に費やした。
怪我が治っても衰えた筋肉までは戻らない。
…筈なのだが、ペロは夜にはもう自立出来る様に成り、少しなら歩き回れる様に成った。
アンブロシアという薬の仕業か、犬人という種族の仕業かは、分らないがリハビリ期間は余り必要無い様だ。
「さあ、そろそろ、お仕舞にして寝ようか?」
「……。」
ペロからの返事が無い?
しかし、ペロは覚悟を決めた顔をして俺の方を見据える。
「ゴシュジンサマ!ワタシノ、ホントノ、ゴシュジンサマニ、ナッテホシイ、です!」
UPしました。
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次回は、15Rが入る予定…。




