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初仕事(裏)

~第四十二章~初仕事(裏)


「ぬ、盗む!?むぐっ!?」


男に素早く口を塞がれる!


「し、静かに!回りに聞かれるでしょう!」


コクコクと、頷くと男は口から手を退けてくれた。


「とりあえず、店を出ましょう。」


男と一緒に店を出ると、人通りの無い路地に入る。


「で?盗むって本当か?」


男に問いただす。


「ええ、本当です。教会は攻撃魔法の魔法書を所持しているだけで、教え広めてはくれませんからね。一部の教会は、昼も言った通り、攻撃魔法を毛嫌いしている所も有ります。そういった教会は、手に入れた魔法書を教会で封印してしまう事が有って、一部の国では、困って居たりします。」


「何故、国が困る?」


「だって、単純に魔法が使える人が増えれば、戦力の強化が出来るでしょう?衛兵達が魔法を使える様に成れば、それだけ、国民達を守護しやすく成りますからね。」


「なるほど、王国としては、死蔵されて居ては困る訳だ。かと言って、教会の様な宗教組織に大きな声で文句も言えないと…。」


「理解が早くて助かります。」


だが解らない事が有る。


「アンタ、何者だよ?」


「私ですか?私はムジナ。盗賊ギルドの一員ですよ。王国の依頼で魔法書を盗みに来たんです。」


「それ、俺に話しても良いのか?普通、そういう話は、秘密にしておく物だろう?」


「ええ、普通は秘密です。ですがこれで、貴方も後には引けないでしょう?」


なるほど、断れば命が…って事か。

一杯喰わされた。まさしくムジナ(タヌキ)だ。


「でもなんで俺を選んだんだ?」


それが解らない?一体どこで目を付けられたのか?


「いえ、何となくです。教会で見掛けた時に、ピンと来る物が有りました。盗賊の感ってやつです。でも、私の感は当たります。」


俺も職業が盗賊だからな…、何か感じる物が有ったのかも知れないな…。


「ハァ…。分った、手伝うよ。で、どうすれば良い?」


俺達は教会の前までやって来た。


「良いですか?この教会の神父さんは何時も21時に教会を出て家へと帰ります。まずこの神父さんが持つ金庫の鍵が必要です。私が教会から出て来た神父さんの注意を惹きますから、注意を惹いている内に鍵を掏って下さい。神父さんは何時も腰に鍵を掛けているので掏るのは簡単な筈です。」


金庫の鍵か…、俺、開錠魔法を使えるから要らない様な気がするけど…。

まあ、俺の手の内を明かす必要も無いか、黙っておこう。


「万が一、掏るのに失敗したら、スグに逃走して下さい。私も逃げます。一応これを渡しておきますね。」


そう言って、何やら黒い布切れを渡して来た。


「それで口元を隠しておけば顔は分りませんよ。」


俺は盗賊の鑑定眼で布切れを見て観る。


『装備品・口元隠し・顔認識阻害(小)・銀貨2枚』


中々の性能だが、犯罪臭い品だ…。

だが、有難く借りておこう。


「さあ、そろそろ21時ですね、貴方は扉の隅に隠れて神父さんの後ろから鍵を掏って下さい。その後、教会の裏で待っていて下さい。」


ムジナと別れ、教会の扉の隅に隠れると、『口元隠し』を装備して待機する。

暫くすると、正面の大扉が開き、神父が出て来る。

これから帰宅の様だ。

歩き出す神父に1人の女性が近づく。


「(あれ?あの女性…、え!?あれ、ムジナか?)」


こちらの視線に気付いたのか、女性はウィンクを飛ばしてくる。

全然本人の面影が無い。

結構な美人顔で、知らない人が誘惑されれば付いて行ってしまうレベルだ。

この短時間で、特徴の無かった顔が、良く此処まで化けられる物だ。

まさしくムジナ(タヌキ)か…。


「神父様。少しお話を聞いて戴きたいのですが?」


「え、ええ。この様な所で良ければ、構いませんよ。」


声色まで女の声に変えてやがる。

一体どうやっているんだろうか?


「実は、最近、困った事が……」


ムジナは胸の谷間を強調した服装をしており、神父を誘惑しようとしている様だ。

対して、一見、神父はムジナの話に丁寧に対応している様だが時折、話に頷く振りをして、胸元に目が泳ぐのを確認できた。

まあ、男の性だよね、気持ちは解らなくは無いが…神父よ、その胸は…、偽物だぞ…。


「(さて、始めますか。)」


俺は、隠密を発動してから、扉の隅から神父の背後へと忍び足で回り込む。


「(鍵は…、あった!)」


神父の腰にジャラリと鍵束が、ぶら下がっている。

鍵束はカラビナの様な金属リングに付けられ、抜き取りは容易そうだ。

俺はまず視線感知で辺りに人が居ないか、探ってみる。


「(うん、誰からも見られて居ない!)」


ムジナも神父に集中しているのか、此方に視線を移す事は無い。

神父の腰に手を伸ばし鍵束をカラビナからソッと取り外す。

直後!いきなりお知らせ画面が現れ、驚いて声を上げそうになる。


「…?」


しまった!神父がこちらに気が付きそうになる。

すかさずにムジナが神父の懐に飛び込む。


「キャッ!?ご、ごめんなさい。急に虫が飛んで来たもので…。」


「い、いえ。お怪我は御座いませんか?」


神父はムジナの方に再び意識を向け直す。


「(ムジナ、ナイスフォロー!)」


ひとまず手に入れた鍵束を持って、ゆっくりとその場を後にする。


神父から見えなくなった所で俺は走り出し逃げる。

見つかった訳では無いので走って逃げる必要は無いのだが、今は少し走って神父から距離を取って心を落ちつけたい。

俺は、走って教会の裏手にやって来た。


「ハァ…、ハァ…、ハァ…。大丈夫かな?」


息を落ち着けて、辺りを見回す。


「うん。誰も居ない。騒ぎにも成って無い。」


そういえば、さっきお知らせ画面が出ていたよな?

改めてステータス画面を開くと、お知らせ画面も一緒に出て来た。


『スキル:ピックポケットを取得』『称号:盗賊見習いから、駆け出し盗賊に変化』


おや?ここに来て初めて盗賊らしいスキルを手に入れた。


「と言うか…。鍵を掏る前に習得したかった!」


何とも残念なタイミングで覚えたものだ。

今後も人から物を頂戴する事が有るのだろうか?

何の役に立つかは解らないので、一応LVは上げておこう…。

しばらく教会の裏手で待っていると、ムジナがやって来た。


「お待たせしました。」


「あれ?もう変装解いたのか?」


ムジナは変装を解き、普通の格好で戻って来た。

まだ時間は少ししか経っていないのに早業だな。


「流石にあの恰好では動き辛いですから…。」


「まあ、確かに。」


「それで、首尾はどうですか?」


「上々さ!」


俺は鍵束をムジナに手渡す。


「ふむ、確かに。では、行きましょうか。」


俺とムジナは鍵を使い、教会の裏手から忍び込む。


「魔法書は、何処に置いて有るんだ?」


「魔法書は礼拝堂の奥の部屋に納められています。」


そういえば、ライティングの魔法書も奥の部屋から持って来ていたっけ。

奥の部屋へ向かい、ムジナと魔法書を探す。


「おかしいですね?魔法書が見当たりませんね?」


「本当にこの部屋なのか?」


「ええ、間違い有りません。この部屋から魔法書を持ち出すのを何度か確認していますから。」


部屋の中を見回すと、壁に不自然に額縁が掛けられている。

まさかと思いながら額縁を外すと、壁に埋め込まれた金庫が出て来た。


「おお!良く隠し金庫の存在に気が付きましたね!?」


「古典的な隠し方だと思うけどな…。」


ムジナは俺がアッサリと金庫を発見した事に関心していたが、現代ミステリーの知識を持つ俺には額縁など調べてくれと言っている様な物だ。

早速、鍵束から、金庫に合うカギを見つけると、金庫の扉を開ける。

金庫の中には三冊の魔法書が収められていた。


『ライティング』

『ヒート』

『アクア』


ライティングは昼間に俺が習得した魔法だ。

残りの二つが攻撃用の魔法だろう。

ムジナは三冊の魔法書を取り出すと、ライティングの魔法書は金庫に戻した。


「あれ?魔法書を盗むんじゃ無かったのか?」


盗みに来たのに金庫に戻すとは如何いう事だろうか?


「この教会は、ライティングの魔法は普通に教えていますからね。普及率が高いんです。ですので、今回の仕事の対象外なのですよ。攻撃魔法の魔法書では無いですしね。」


そんな物なのかね?まあ、俺はライティングの魔法は覚えているから興味は無いけどね。

そんな俺にムジナは二冊の魔法書を差し出してくる。


「どうぞ、お先にお使い下さい。」


俺はムジナから魔法書を受け取ると、本に魔力を通して、魔法を習得する。

習得した魔法の確認は後に回そう。

神父から掏った鍵束を机の上に置いておく。


「神父には悪い事をしたな…。」


魔法書をムジナに返すと、俺達は教会を後にした。

街の西口までムジナと一緒にやって来た。


「有難う御座いました。お陰で楽に任務をこなせました。」


「此方こそ。お陰で攻撃魔法を覚えられた。あ!?そうだ、これ返しておくよ。」


『口元隠し』をムジナに返そうと差し出すが、ソッと遮られた。


「それは、貴方に差し上げます。今回のお礼として受け取って下さい。」


「そうかい?では、有難く頂戴するよ。」


「あと、これを貴方に渡しておきましょう。」


そう言ってムジナは俺に首飾りを差し出す。


「これは?」


「盗賊ギルドへの紹介状替わりです。貴方には素質が有りますから、勧誘です。盗賊ギルドは王都に有りますから、良かったら訪ねて観てください。」


「気が向いたらね。」


「ええ、それで結構です。では、そろそろ私は行きますね。この魔法書を持って帰らなければいけませんから。又御逢いしましょう。」


「ああ、又、どこかで…。」


そういうと、ムジナは夜の闇の中に消えて行った。

ムジナを見送った俺はそのまま小鳥亭へと帰ると、ベッドに倒れ込む。

たった今の自分が行った罪を思い出し、呟く。


「ああ…、如何やら、俺もやはり、同じ穴のムジナ(盗賊)だったらしい。」


UPしました。

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